第1章 第10話 神の権能を宿した皇族
読者の皆様、今週も本作『拝啓、異世界に転生したら邪神になりました』を読んでいただき、本当にありがとうございました。
今週で投稿を開始してから二週間となりますが、当初から追って読んでいただいている読者様、毎話の応援などが執筆をするのにあたり、とても励みとなっています。
これまでの話を読んでもらえて感謝しかありません。
私事なのですが、今朝がたに確認をしたところ、本作の累計PV数が100を超えていました。
それだけ沢山の方に見てもらえているのが驚きです。
欲を言うようですが、いつかはPV数が千や万を超えたいな、などと現状では夢物語なことを考えています。
はてさて、本当にいつの話になるやら。
まあ、そんな私の自分語りなど、どうでもいいと思うので、今週の前書きはこれで終わりたいと思います。
長々と書いてしまいましたが、これからも本作をお願いします。
来週は日曜日の更新になります。
もしかしたら、都合の関係で月曜日になるかもしれませんが、その辺はご了承下さい。
投稿される時間は夜の21から23時頃になると考えています。
それは見慣れない意匠だった。
価値がある代物なのか、その判別はできないが――。
外套から覗いた際に感じたのは、魔力の残滓。
この世界レネイストでは、そういった魔力を宿した道具を魔道具と総称する。
魔道具は専門の職人が製作をするのが通常だが、自然の迷宮から見つかることもある。
他にも偶発的に道具が変貌する場合もあるようで――。
その蜘蛛の巣のペンダントらしき貴金属は、それに類する魔道具なのか。
『――にしては、魔力の波長が妙だがな。言い表すのが難しいが……』
メノア様は怪訝な様子。
うーん、と唸り――。
『なんというか……持ち主の魔力とペンダントが、かみ合っていない』
それが近い表現のようである。
相性の良い魔力と魔力はひかれあう。
持ち主の魔力と魔道具の適正が高ければ、お互いの魔力の波は綺麗に重なる。
しかし、その逆だと魔道具を思うように扱うのは困難だ。
魔力が反発し合い、やがて最悪は片方を壊してしまう可能性もある。
「僕とメノア様の関係性と同じですね」
『ああ。お前は私の道具だからな』
だったら、壊れないように大切に扱っていただきたい。
長持ちする道具の方が利用価値は高いですよ。
『考えておこう』
メノア様の適当な返事。
これは明日には忘れていそう。
と、僕はレネイストの知識を引き出しながら、少しだけ考えてみる。
これは可能性の話だが――。
立ち去った男女の素性を客観的に考察しよう。
現在の時刻は丁度、正午を過ぎた頃。
何処からか、昼を知らせる鐘の音が聞こえた。
『腹減ったな……』
グー、とメノア様の腹が鳴る。
メノア様の空腹感なんて知りませんよ。
というか女神も、お腹が空いたりするんですね。
食欲とか無いものかと。
『お前の浅はかな知識と偏見で物事を判断するな。人間だろうと女神だろうと、腹が減れば飯を食う。人を殺したいと思えば殺す。生物として当然の行動だろうが』
メノア様が異界で物音を立てる。
――ガタゴト、バタン。
と、何かを開け閉めしていた。
「いや、そんな殺伐とした欲求は無いですが……」
三大欲求に新たな項目を増やそうとしないでほしい。
そんな如何にも、自然の摂理みたいに言われても――。
神都アリオンの大通りは繁華街であり、大勢の住民や観光客やらで賑わっている。
『こいつら、暇なのか?』
「メノア様じゃあるまいし……」
『……なんだと』
皆、目的があるから神都アリオンにいるんですよ。
そんな人々の中で、漆黒の外套に身を包み走り去っていった男女は、些か不審な動きではあったが――。
しかしながら、誰も気にしていない。
『お前が一番、不審者だ』
「まさか、糞女神に不審者呼ばわりされるとは……」
心外である。
流石に初めての経験だ。
『一人で突っ立ってる餓鬼が、人通りの多い道でいきなり『糞女神』と呟いている姿のどこに、不審ではない要素があるんだ? ん?』
――確かに。
そう言われて自覚する。
窺うように周りの目を確認。
良かった。
どうやら、誰も怪しんでいない。
露店に陳列する商品に夢中だったり、談笑に興じていたり――。
各々、娯楽を堪能している。
その男女が乗っていた〈ニ角獣〉の馬車も、神都アリオンでは珍しい移動手段ではない。
階級を問わず、一般的に運用されている。
二人組の男女が下りてきたのは、豪奢な装飾がされてもいなければ、家紋が入った自家用の馬車でもない。
他のと比較しても差異はない。
何の変哲もない普通の馬車だ。
『……あの〈ニ角獣〉の死体みたいな目、お前の目と似ているな』
カラカラ、とグラスに氷を入れる音。
さっきから何か準備をしている。
「創造主に似たんでしょう」
まあ、それは置いておいて――。
そこから乗客が下りただけ。
周囲には、そんな風にしか映らない。
神都アリオンでは日常的な光景の一部だ。
そこに誰も怪訝には思わないだろう。
僕だって、同じだ。
いつもなら、気にもしなかった。
たとえ、したとしても見なかったことにして忘れる。
『物忘れ糞爺』
「うるせーよ、ババア」
『……ァ?』
――おっと。
しまった。
つい本音が。
僕は猫を被りなおす。
逃亡のように去っていった不審者から視線を逸らした。
だが、メノア様の発言で自然と目をやってしまった。
「――星凱帝ライリーラ。いまの星凱帝の先代でしたか?」
ヴァミリド神教国の皇帝、星凱帝になるには女神ベルザに選ばれるのが必須の条件だ。
現在、星族には皇子もいるが、男性には資格がない。
星凱帝になれる権利があるのは女性だけ。
故に当代の星凱帝は、当然ながら女性である。
その先代にあたるのが――。
『ああ……ライリーラ・ヴァミリド。三代目の星凱帝だな』
三代目。
いまは紅凱暦852年で――。
ヴァミリド神教国が立国したのが、改暦とほぼ同時期の紅凱暦1年。
そのとき既に、初代の星凱帝がいた。
僕は知識を順番に掘り起こす。
レネイストにいる〈人間族〉の平均的な寿命は100歳前後。
他種族、例えば〈獣人族〉や〈亜人族〉などと分類される種族は、300歳ほど。
〈魔族〉や〈悪魔族〉それから〈竜人族〉という、上記よりも高位の種族は、総じて長命な個体が多数で、最低でも500歳は生き、1000歳を超える個体も稀にいる。
それらとは系統が違う例外もいた。
〈森霊族〉や〈機巧人形〉という存在だ。
この二種族に関しては、半永久的に不老であるとされている。
細胞の劣化がないためである。
〈森霊族〉は自然と共に生きる種族であり、森や川などから生命力となる糧と得ており、それらがある限り死にはしない。
〈森霊族〉の性質とはまた異なるが、同様に不老の〈機巧人形〉にも寿命といった概念がない。
動力源である核を破壊、或いは停止しなけれ絶命はしない。
否、〈機巧人形〉に死生観はないので、停止しないといった方が適切だろう。
その他にも例外は存在する。
僕のように死んでから生き返った、所謂転生者。
転生者の中にも、様々な境遇の者がいるようで――。
女神の力で転生をした者や〈人間族〉や、その他の種族の術師の手による、半ば強制的な転生。
僕は違ったが、転生をした際に前世の記憶がある人とない人がいるらしい。
転生とは異なる手法だが、同じように異世界に招かれるのが、転移である。
これも過程や結果は似通ったもの。
唯一、違いがあるとするなら、生まれ変わるかどうかだろう。
彼ら彼女らのような転生転移者は、普通の〈人間族〉よりも平均寿命が長い傾向にあるようだ。
これは転生転移をするさいに世界と世界の狭間で、星に循環する星力を得るからだとされている。
それにより身体が昇華しているのだろう。
まあ、でも――。
僕の場合は、例外中の例外なような気がするけど。
知識を参照する限り、レネイストで過去に〈邪神族〉に転生をした人はいない。
いや、そんな化け物が何体もいたら困るだろうが。
ともあれ、種族別の寿命はそんな感じかな。
だとすると、星凱帝は――。
ヴァミリド神教国の星族は長命な種族なのだと思われる。
三代目がライリーラなら、200歳位は生きていそう。
〈人間族〉ではないのかな。
『――いいや? ライリーラも、他の血族も全員〈人間族〉だよ』
ただ。
と、少し間を取って続けた。
『星族は代々、神痕術という儀式で、人為的に身体を昇華させている。それゆえに〈人間族〉でありながら、通常の〈人間族〉とは格段に長生きするんだよ』
メノア様は感情のこもらない無機質な口調だった。
説明書を抜粋して読み上げるように。
メノア様と意識が繋がっている僕は、そこに微かな嫌悪を感じ取った。
それは星族に対してか、それとも――。
「昇華、と言うと聞こえは良いですけど……それって人体改造同然ですよね」
路地から出た僕は、そこら辺の適当な建物の壁に寄りかかった。
人の往来を眺めながら指摘する。
「何の副作用もないまま、寿命が延びるとは思えないんですが……」
それは転生や転移とは違う。
昇華に星力を用いず、神痕術なる技法を取っている。
僕の中にある知識は、断片的でしかない。
そこに神痕術は含まれていなかった。
『無論、そんな都合の良い秘儀があったなら、世界中の人間は不老不死になっている……ああ、実におめでたいことだな』
と、全然そうは思っていないメノア様は乾いた拍手をした。
何の代償も払わず不老不死になれる。
そんな甘言が真実なら、誰もがそれを求めるだろう。
しかし、それは与太話。
メノア様の反応で明らかだった。
『神痕術は〈人間族〉の魂に《権能》を強引に宿して、必然的に上位の種で昇格させる……まあ、私からすれば神の劣化版でしかないがな』
フンッ、とメノア様が鼻を鳴らす。
先程の種族ごとの寿命では挙げなかったが――。
メノア様のような女神〈神族〉と分類される種族には、そもそも寿命の概念がない。
永久に不滅の存在である。
その亜種であるのが、僕ノワールが転生をした〈邪神族〉だ。
一応、僕も転生者なのだが〈邪神族〉なので、同様に寿命がないらしい。
知らない間に不老にされた。
『不死ではないがな』
あ、そうなんですね。
死ぬことはあるのか。
『お前の身体を構成しているのは、私の愛情と星力……それから魔力だ。仮に〈聖女〉にパンツ一丁で土下座をすることがあっても、星力だけは奪われるなよ?』
どういう状況を想定しているのやら。
何か余分な構成要素が混ざっていたような気がするが無視しよう。
『あのドブのように臭い吐息の〈聖女〉は、重度のブラコンなんだ。お前のような幼気な童子は、絶好の獲物だろうな』
クックック、とメノア様が悪魔のように嗤う。
こちらの未来を予想して愉しんでいた。
それを知った上で、僕の容姿と年齢を設定したのかな。
『……いや、それは私の趣味だ。阿婆擦れ〈聖女〉の性癖は関係ない』
違った。
なら、良かった。
『良いんだ』
――というか。
今更、文句を付けた所でどうにもならない。
転生をしたいまの自分を受け入れるしかない。
『現実を冷静に直視しているようでなによりだ。まあ、お前が無事に転生がかなったのは、私が過去に何度も転生者で実験をしていたおかげだな』
得意げに告白するメノア様だが――。
いや、素直に感謝していいのか。
ちなみに、その実験の結果を聞いても?
『無論、お前以外の転生者は全員失敗だった。ガラクタにもならん不良品の集まりだな。軽い症状だと精神が崩壊する奴がいたり、酷いのだと世界に災厄を齎すような化物に成り果てたな』
髪先でも弄りながら言っているのか。
メノア様は興味なさそうである。
「……それ、軽傷で済ませる問題ですかね。精神崩壊を起こしている時点で、重篤者だと思いますけど……」
とりあえず、そこらを観光しようと話をしながら歩きだす。
女神の都合で転生をさせられた挙句、身体を改造され精神を崩壊されたりしたら、たまったものではない。
僕がそうなっていたらと思うと最悪だ。
『……安心ひろ。万が一にも、ほまえがそんな結果にはる事はない』
メノア様は何か口に入れた状態で喋っている。
頭の中に咀嚼音が聞こえた。
耳元でバリバリ、と鳴っている。
気持ち悪いな。
ポテトチップスでも、つまんでいるんですか。
『ほう……? 凄いな、正解だよ。そんな酒のつまみの正体を見通したお前には、千里眼の称号を与えてやろう』
ゴクゴク、と今度は飲料が喉を通るのが聞こえる。
お酒だろう。
完全に気を抜いている。
リラックスした状態。
下界にいる僕を高見の見物を、いや監察をしていた。
【次話予告】
ノワールは神都アリオンの路地から出たところで、怪しげな二人組の男女を見かける。
その片方の女性は魂が先代の星凱帝ライリーラだとメノアが告げ、神痕術という儀式を教える。
それは人間が神の力を宿す術式だった。
神都アリオンを観光しながら、ノワールはとある女主人が経営をする宿屋に泊まる事となった。
最後まで読んで下さりありがとうございます。
良ければ評価を貰えると嬉しいです。




