第十九話
「はっ!」
急激にクリアになった意識に、バッと瞼を開ける。見上げた先には相変わらずの、深い緑の天井があった。
「あっ、お兄ちゃん目が覚めたぁ!」
「……えっ?」
その聞き慣れない幼い声の方に視線を移すと、先の長く尖った奇妙な耳が特徴的な、ツインテールの金髪の小さな女の子が僕を見下ろしていた。何が起きているか飲み込めず、僕はマジマジとその顔を眺めてしまう。
「ルミア、マコトくんはもう起きタ?」
「あっ、Leiraお姉ちゃん! うん、起きたよぉ!」
困惑する僕の前に、今度はアイさんが顔を出した。その見慣れた姿にいつも以上にホッとしながら、僕はゆっくりと身を起こした。
「ア……れ、Leiraさん、僕は……」
「アア大丈夫、眠り状態になってたのはほんのちょっぴしだかラ。良かったねェ、永眠しなくテ」
「……おっしゃる通りです……」
ちょっぴり刺々しいその言葉が胸にザクザク刺さって、バツの悪さから思わず目を逸らす。アイさんからちゃんと忠告されていたのにこうなって、返す言葉もないとはこの事だ。
「もう、大袈裟だよぉLeiraお姉ちゃん」
すると女の子が、朗らかな笑みを浮かべてそう言った。
「本来眠りの状態以上なんて、異様に眠くて動けなくなるだけなんだからぁ。まぁ、お兄ちゃんみたいに暗示にかかりやすい人だと、ホントに寝ちゃう事もあるみたいだけどぉ」
「……あの、君は……?」
「ルミアはぁ、ルミアって言うのぉ。この森を守るエルフだよぉ」
「……エルフ……?」
またも出て来た耳慣れない単語に、僕は助けを求めるようにアイさんを見る。アイさんは小さく肩を竦めて息を吐くと、面倒臭そうな顔で口を開いた。
「ルミア、その子ネ、全然ファンタジー知らないんだヨ」
「えぇ? 今時ぃ?」
「ソ。レジェワスってエルフいないでショ。だから一から説明しないとダメだヨ」
「ふぅん、そっかぁ……」
アイさんの言葉に、女の子——ルミアちゃんの青い瞳がキラキラと輝いた、気がした。彼女は改めて僕に向き直ると、こほんと一つ咳払いをして語り始める。
「お兄ちゃん、エルフっていうのはねぇ。森に生まれ、森と共に生きる森の守り人なんだよぉ」
「……森の、守り人……?」
「そう。ルミア達にとっては、この森が総て。人より長い人生の総てをこの森に捧げ、守り、生きるの」
「……というなりきりプレイをしている一プレイヤーさ、要するニ」
「ちょっと、Leiraお姉ちゃん!?」
ルミアちゃんの説明に聞き入っていると、そこに呆れたような顔のアイさんが口を挟む。ルミアちゃんはそれに頬を膨らませ、ポカポカと胸を叩き始めた。
「も〜っ! 折角ルミアが雰囲気出してるのにぃ!」
「イヤァ、エルフがいないゲームでわざわざ課金アクセのエルフ耳付けてなりきりプレイやるってのモ、なかなか変態性高いと思うヨ?」
「変態とか言わないでぇ!」
「しかもコレ、バ美肉だかラ。ってマコトくんは知らないカ。バーチャル美少女受肉、要は男がこういうゲームで美少女になりきるコト」
「あっ、ちょ、そこまでバラすなんて酷いよぉ!」
「へ……?」
ますます揉める二人を見ながら、僕はアイさんの今の暴露を反芻する。……男、が、美少女になりきる。つまり、それは……。
「ルミアちゃん、は、本当はルミアくん……?」
「くんですらないネェ。本職医療関係者だシ」
「もーっ、バカバカぁ! 折角久しぶりにルミアを知らない人に会えたんだから、もうちょっとロリとしてチヤホヤされる感覚味わわせてよぉ!」
「真実を知るのは早い方がいいでしょーニ」
いっぺんに明かされる怒涛の事実に、理解のスピードが追いつかない。ルミアちゃん……いやくん?さん?は男で?大人で?自分を子供として扱って欲しがっている?
解らない。理解が及ばなすぎて目が回ってくる。折角目覚めたのにクラクラして……。
「……アッ、マコトくん?」
そうして混乱しているうちに。考えすぎた僕の頭は真っ白になって、再度その場に倒れたのであった。




