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第十四話

 そこからはのんびり景色を眺める暇なんてないくらい、戦いの連続だった。

 倒しても倒しても、少し進んだだけでまた新手が出てくる。一瞬サンドワームの時みたいにアイさんの細工を疑ったけど、戦うアイさんの手慣れた様子を見るに、どうやらここ自体がそういう場所であるらしかった。


「マコトくん、そっち行った!」

「は、はい!」


 アイさんが撃ち漏らした魔物に向かって、すぐに合成で作った火炎瓶を投げ付ける。この辺りの魔物に固い石は威力不足である事が解ったので、投擲アイテムをより威力のあるものに替えたのだ。


「ピギュウウウウウッ!!」


 火炎瓶の炎に焼かれ、空中を泳ぐ魚のような魔物、フライングギルが悲鳴を上げる。僕は相手の動きが止まったその隙に長剣で何度も斬り付け、やっとトドメを刺した。


「ひ、ひいぃ……」


 ちなみに月音さんはずっとこんな様子で、戦闘が終わるまで岩陰に隠れている。……本当に、戦闘が苦手なんだなあ……。


「よっし、片付いた」


 そのうちそう言って、アイさんが戻ってくる。今までに遭遇した魔物は、ほとんどアイさん一人で片付けていた。

 ……こんなにアイさんに任せきりになってしまうなら、僕ももっと戦闘に向いたジョブに就くべきだっただろうか。合成で色んなアイテムを作り出すのはとても楽しいけれど、戦闘ではお世辞にも役に立っているとは言い難い。

 いつ終わるか解らないこの世界で、悔いのないように生きたいと思っている。けどそれは、自分の代わりに誰かに重荷を背負わせてもいいという訳ではなくて……。


「皆さん、お疲れ様です〜……今回もご無事で良かった……」


 そう思っていると、岩陰から出てきた月音さんが安堵の表情を浮かべながらこっちに近付いてきた。そして、今の先頭で減ったHPを回復してくれる。

 アイさんはともかくまだまだレベルの低い僕は、月音さんがいなければジリ貧だったかもしれない。そう思うと、月音さんの存在はとても心強い。


「ありがとうございます、月音さん。おかげで回復アイテムがすごく節約出来てます」

「いえ! 私戦闘では本当にお役に立てないので! お二人に敵を倒していただけて、こちらこそすごく助かってます!」


 僕がお礼を言うと、逆に月音さんに深々と頭を下げられてしまった。確かに月音さんに頼まれなければ、今ここにはいない訳だけど……。


「あっ、ごめんなさい! ちょっと離席しなきゃ! もう、せっかくいいところなのに〜!」

「用事カイ?」

「残業してる後輩に、どうしてもエラーが出るって泣きつかれてるんですよ〜。こっちはゲームに没頭したいのに!」

「なら、日を改めるカイ?」

「いえ、この勢いのまま今日決めちゃいたいんで! ご迷惑おかけしますがすぐ、すぐ戻ってきますので、お願いだから解散しないで下さい〜〜〜!」


 その言葉を最後に、月音さんの動きがピタッと止まった。目は虚ろで、魂だけがそのまま抜け落ちてしまったかのようだ。


「……さて、じゃあ帰ろっカ☆」

「……アイさん」


 それを確認するなり出会ってから今までで一番いい笑顔で言うアイさんに、思わず溜息が漏れる。冗談だと思いたいけど今までが今までなので、そう言い切る事も出来ない。


「アイさんがずっと乗り気じゃないっていうのは知ってますけど。それにしたって、月音さんへの反応が他の人への反応と比べて冷たくないですか?」

「べーつーにーィ?」

「解りやすく拗ねないで下さい。一体何で、そんなに月音さんに冷たく当たるんですか」


 思い切ってそう聞いてみると、アイさんが目に見えてムスッとした顔になった。不機嫌な子供のようなその顔は、今までに見た事がない表情だ。


「……人任せなのが気に食わない」


 と、やがてアイさんがぽつりと言った。


「人任せって……」

「やりたい事があるのに、その達成の為に最初から他人を宛てにしてるのが気に食わないの。ここのダンジョンは確かにキツいけど、地道にレベルを上げて入念に準備すれば、前衛ソロでも何とか突破は可能なのにサ」

「……それは」


 それは正直、僕も全く思うところがない訳ではない。月音さんは戦闘が終わればすぐに駆けつけて回復してくれるけど、戦闘中は、ただ隠れているだけで本当に何もしない。

 いくらヒーラーという名前だからって、本当に回復しか出来ないという事はないはずだ。僕のジョブである錬金士にだって、レベル1の時点で使えるスキルがいくつかあったのだから。

 それでも戦闘後に回復してくれるのは本当にありがたいから、その事は感謝しているけど……。


「ワタシさァ、本当に嫌いなんだよねェ。自分では何も努力せず他人の成果にただ乗りして、楽して美味い汁吸おうとする奴って」

「……」

「そりゃレジェワスはただの娯楽だ、ゲームだ。でもだからって何をしてもいいって訳じゃない。ゲームだろうが何だろうが、楽しむにはそれに見合った努力が必要だろう?」


 ……それはハッキリとは口にせずとも、アイさんが、何度も僕に主張してきた事だ。そして僕自身も、それを正しいと感じている。

 僕はアイさん達と違って、本当に命懸けだけど……でも、一生懸命に全力でやる事は楽しい事だって思うようになった理由は、きっとそれだけじゃないから。


「まずは自分なりに試行錯誤して、それでも手に負えないってんだったらワタシだって進んで手伝うサ。それくらいの情は持ち合わせているからネ。でもあの子はそうじゃない。楽な事だけして困難を避けようとするような奴にまで、いちいち手を貸す義理はないってコト」


 素っ気ない様子で、アイさんが言い捨てる。確かにアイさんのポリシー的には、今の状況は不満そのものなんだろう。

 ……けど、僕は……。


「……それでも、僕は、月音さんの力になってあげたいです」


 僕がそう言うと、アイさんの眉間のシワが更に深くなる。それでも怯まず、僕は更に言葉を続けた。


「確かに、もう少し積極的に協力してくれたらと思う時はあります。でも、それ以上に……僕は月音さんに、この世界に来て楽しかったってそう思って欲しいんです」

「……」

「この世界に来た人には、この世界で過ごして楽しかった、来て良かったって、そう思って去っていって欲しいって思うんです。……ここは、僕が生まれた世界だから」


 真っ直ぐにアイさんの目を見て、そう微笑む。そう、アイさん達と違って、僕は本当のこの世界の人間。

 全てが訪れた者に娯楽を提供する為だけにあるこの世界に、やるせなさを感じる時もある。でもアイさんと出会い、旅を始めて、この世界が好きだという気持ちが少しずつ形になりつつある。

 僕は、出来れば、この世界を訪れた人みんなに同じように思って欲しい。……そんな事を、考えたりするんだ。


「……ハァ。そーんな真っ直ぐな目でそんな事言われたらサァ、ワタシがメチャクチャ心狭くて嫌なヤツみたいじゃないカ」


 やがてアイさんがそう言って、盛大に溜息を吐いた。もちろんアイさんも、真剣にこの世界と向き合ってくれてるからこそのあの言い分なんだろうけど。

 それでも僕も、ただ他人の意見に流されるだけじゃない、一人の意思ある人間だから。


「マァ、そういう目的だったら、ワタシもちょーっとはヤル気になるケドさァ。自分のハマったものを、つまらないなんて言われるのも腹立つしネ」

「ふふ、ありがとうございます」

「でもコレ貸しイチだヨ? 解ってるネ?」

「はい」


 アイさんの言葉に、思わず笑みが漏れる。僕達の関係を一体どう表すべきなのか、正直よく解らないけど。

 それでも友達とか、仲間とか、そういった関係に少しでも近付いているんだったら、とても嬉しいと思うんだ。


「すみませーん! ただいま戻りました!」


 そこにタイミング良く、月音さんが戻ってきた。僕は何もなかったという風に、月音さんを振り返る。


「もう大丈夫なんですか?」

「はい! 何とかなりました! もう呼び出しはないと思います!」

「それは良かったネ。じゃ、そろそろ出発しよっカ」


 アイさんも自然な様子でそう言い、また先頭に立って歩き出す。僕も周囲を警戒しながら、その後に続いた。

 月音さんに、いい思い出を作ってもらう為にも……改めて、頑張るぞ!

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