第十三話
「……うわあ……」
全体が淡い青色に発光した岩壁。床に溜まった水がそれを反射して、神秘的な輝きを辺りにもたらしている。
その光景を前にして、僕は、ただただ感嘆の声を漏らすしか出来なかった。
「綺麗ですね……危険なダンジョンだなんて、思えないくらい……」
僕の少し後ろを歩く月音さんも、辺りを見回しそう呟く。僕達は今先頭をアイさん、最後尾を月音さん、その中間にサポート役の僕という隊列で進んでいた。
「海底洞窟と海底神殿はどっちも、レジェワス二周年の時に公式でやった『好きなダンジョンランキング』のトップ5入りしてるからねェ。マァ、出てくる敵のいやらしさもトップクラスだけど」
「解ります! レジェワスって本当、グラフィックはすごくいいですよね!」
「それがリリース当時からの一番の売りだったしねェ。その分システムは大味と言うか大雑把と言うか」
アイさんと月音さんが歩きながら、アイさん達の世界の言葉をふんだんに使って会話する。僕にはその内容はほとんど解らなかったけど、アイさんの機嫌がどうやら直ったらしい事に少しホッとした。
「あの、月音さんは今までどんな所を旅してたんですか?」
「私ですか? そうですねえ……大森林とか雪原とか色々と。まあ、魔物が怖いので、ほとんど納品クエストで行っただけですけど……」
「僕はまだ旅を始めたばかりで、クエストも全然出来ていなくて……Leiraさんが、色々手伝ってはくれてるんですけど」
「そう! まさかあのLeiraさんとパーティーが組めるなんて! Leiraさんって言ったら私みたいなエンジョイ勢でも知ってる、超有名プレイヤーですもん! 引退前に、こんないい思い出が出来るなんて……!」
アイさんの通り名を出すと、途端に月音さんのテンションが目に見えて上がる。アイさんはこの世界に来る人にとって、本当に有名な存在らしい。
確かにアイさんはデタラメなくらいに強いし、みんなの前では隠しているけれど、スキルとは違う不思議な力だって使う。でも、アイさんがそこまで特別な存在かというと、それは何だか違うという気が最近はしてきている。
自称カミサマだなんて名乗ってるけど、アイさんもやっぱり人間で。楽しければ笑うし、ムッとすれば怒って。
能力はともかく、中身はきっと何でもない普通の人間なんだって。少しずつ、そう思うようになってきたんだ。
だからかもしれない。アイさんの事がもっと知りたいと、そう思い始めたのは——。
「……ところでマコトさん。一つ、気になってる事があるんですけど」
そんな事を思っていると、不意に月音さんが話題を変えた。
「はい、何ですか?」
「……何でお二人とも、水着姿のままなんですか?」
そう困惑の表情を浮かべて言う月音さんに、思わず何と答えるべきか迷う。そう、僕とアイさんは、今も水着姿のままだった。
実は、一度着替えようとはしたのだ。そうしたらアイさんが「せっかくだからこのまま行こうヨ」と言い出し、更にアイさんの力で装備を替えられないようにされてしまって……。
その間月音さんは、席を外すと言って反応がなくなっていた。だから、その経緯を知らないのだ。
「……ここも海の一部だから、かなあ?」
「うーん……でも正直、目のやり場に困るんですけど……」
「ですよね……」
まさか自分の意思で着替えられなくなってるんですとも言えず、どう誤魔化したらいいのか考えを巡らせていると。
「さァて、世間話はここまでみたいだよ、キミ達」
不意にそう言って、アイさんが足を止める。見れば前方に、何かの影が揺らめいていた。
それはとても、奇妙な姿をしていた。強いて言うならイソギンチャクに似ている気がするが、頭に生えた無数の細かい触手をうねらせる様は、どこか生理的嫌悪感を感じさせる。
「ヒイッ、気持ち悪いっ!?」
「ブルーローパーだヨ。麻痺の追加効果持ちだから、通常攻撃にはよーく気を払ってネ」
「は、はいぃ……」
返事はするものの月音さんはすっかりおよび腰で、どうやら戦いどころじゃない。ここは僕とアイさんで、何とかしなければいけない。
「さァて、ウォーミングアップといこうかネ」
そう言ってアイさんが大斧を構えるのを見ながら、僕もまた、投擲用のアイテムを取り出した。




