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第十二話

 月音(つきね)と名乗った女の子の話はこうだった。

 彼女はこの世界が過疎になり始めてから来始めた人で、最初は自分のペースで気ままに旅をしていたらしい。しかし人が更に減り続けた事で、それにも限界が出始めた。

 それでこの世界から離れる事を考えたが、その前に、旅を始めたばかりの時に立てた目標だけは達成したい。けれど一人でそれを達成するのは難しく、すっかり困り果てていた……という事らしい。


「ちなみに目標って何サ?」

「聖者にジョブチェンジする事です。こう……いいじゃないですか、聖者。私、追放聖女もの好きなので」

「ツイホーセイジョ……?」

「その説明は長くなるからまた今度ネ、マコトくん」


 ……ともかく。彼女は聖者になる為の仲間を欲しがっている、という事のようだ。


「なーるほどネー。聖者の解放クエストって確か、海底神殿のボス討伐だったもんネ。そりゃあヒーラー一人じゃ無理だ」

「はい……他の前衛ジョブに転職しようかとも思ったんですけど……やっぱり敵と直接戦うのは怖くて……」

「そうだねェ……」


 そう言うと、アイさんが僕の方をチラリと見る。その微妙な表情は、これから僕がどう答えるか解っているかのようだ。


「……僕、月音さんに協力してあげたいです」

「そうだよねェ。キミならそう言うよねェ。本当、お人好しと言うか何と言うか」

「ほ、本当に協力してくれるんですか!?」


 僕の返事にアイさんは溜息を吐き、月音さんは目を輝かせた。……もっとも月音さんが戦力としてアテにしているのは、僕じゃなくてアイさんの方だろうけど。

 そして僕のその予想は正しいと言うように月音さんはすぐにハッとなって、恐る恐るといった風にアイさんに目を向けた。


「……あの、あなたは……」

「マァ、気は乗らないけどねェ。ワタシが行かなくてもマコトくんは行くって言うだろうし、そしたらまず死ぬだろうし、知らない所で勝手に死なれてもつまんないし」

「あはは……」


 ちょっとトゲのある言い方に、思わず苦笑するしかない。そりゃあみんなと違って本当に生死がかかってるのに自分の身の安全を最優先にしようとしない僕は、アイさんからしてみれば自殺志願者のようにも見えるんだろう。

 でも僕は、やりたい事を我慢して少しでも長生きするよりも、例え危なくてもやりたい事は全部やって生きたいんだ。

 何より僕にそう思わせてくれたのは、他ならぬアイさんだから。


「あの、本当にありがとうございます! 何てお礼を言ったらいいか……!」

「お礼はワタシじゃなくてカレにネ。カレがやるって言わなかったら、ワタシは協力する気はなかったし」

「あっ、そ、そうですね。あなたもありがとうございます、ええと……」

「あ、僕はアント……じゃなかった、マコトって言います」

「マコトさんですね! 本当にありがとうございます、お世話になります!」


 安心した笑みを浮かべる月音さんに、こっちも釣られて笑顔になる。彼女がこの世界を離れるまでの縁ではあるけれど、それまでの間、精一杯力になろう。

 ……それにしても。


「……」

「何? マコトくん」

「……いえ、何でもないです」


 僕の視線に気付いて振り返ったアイさんに、そう答えて目を逸らす。……何だろう。月音さんの話を聞いてから、アイさんがどことなく不機嫌になったように見える。

 彼女が、この世界を去るつもりの人だから? ……解らない。だって僕はまだ、アイさんの事を何も知らない。

 一緒に旅をするようになって、まだ少し。その間、アイさんが自分の事を語った事は一度もない。

 アイさんは、自分の世界で、一体どんな風に生きているのだろう?


(……もし聞いたら、アイさんは教えてくれるのかな)


 再びアイさんを横目でチラリと見ながら、僕は、初めてそんな事を思った。

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