反省会-2
移動場所を探した結果、スピードのマイルームにお邪魔している。
フレンドであれば、許可を貰って他者のマイルームに入ることができるらしい。待ってる間、暇だったから調べてた、とはスピード談。
これは便利な機能だ。今後も利用頻度は高いだろう。スピードの、嫌味を含んだ言い方はスルー。これに反応するとプロレスに発展するので、話が進まなくなる。
一息ついたところで、本題に入る前に分かれた後の話を共有しよう。
「……取り敢えずこんなところか、と言っても、大半は気絶してたんで情報らしい情報はないけど」
「こっちも、すぐ帰っちゃったし」
すぐ終わったわ。
互いに特に何もなく、そのまま直帰しているので共有もなにも、という状況。強いて言うなら俺が木材の手前を手に入れたことと、俺も武器を無くしたことだが、どちらもスピードにはあまり関係ない。
実際、スピードもあまり興味なさげだ。
なら、本題に入るか。この話し合い結果如何によっては、パーティ解消もやむなしだが、何時かは話し合わなければいけない話だ。であるなら、早いに越したことは無いだろう。
真面目な空気を察したのか、スピードも姿勢を改める。
「俺とお前とでプレイスタイルが違うのは今日一日でよくわかった」
「だね」
「で、別に俺は、どっちのプレイスタイルが間違ってるとか、そういう話をする気は無い」
そもそもゲームだしな。効率を追いかける、って言う訳でもなし、楽しければなんでも良い。否定する理由が無い。
「ただ、一緒に行動している以上、ある程度の譲歩は必要だ」
「勝手な行動はボンドも同じ」
「互いにな。責めたい訳じゃない、喧嘩をしたい訳でもない。建設的な話し合いをしたい、って提案してるんだ」
「話し合い」
つまり、自分は何をしたいか。どこまで譲れて、どこから譲れないのか。事前に明確なラインを引いておければ、今後遊ぶ時に、不要なストレスを溜めることは無いだろう。
まあそもそも、そんな事話したくない、って言うのなら話し合いはここまでだが。
言葉を重ねて説明すれば、彼女も理解してくれたようだった。表情を見て、理解に納得も含まれていることを確信する。
「本当はもっと最初に話しておくべきだったんだろうが、今からでもまだ遅くないだろ」
「……わかった。私は――」
二人で話し合った。
彼女は、想像通り戦闘をしたい事を。それも、確実に勝てるようなものでは無く、勝つか負けるかのギリギリ、命を削るような戦いがしたいという事を。
俺はその逆で、しっかり準備をした攻略がしたいという事を。戦闘自体は嫌いじゃないが、反射神経が早い訳では無いので、策を練って対応したい事を。
逆に、今日一日を一緒に過ごして、互いにやめて欲しいことも話した。
「あ。もうこんな時間」
気付けば現実時間が17:00を回っている。後半、楽しくなって、今まで遊んできた別ゲーの話等に話がズレていたが、建設的な話し合いが出来たと言えるだろう。
ゲームに限った話じゃないが、コミュニケーションの重要性を再確認したな。怠るとろくな事にならないという事は、実体験としてよく知っている。
「この後はどうする?俺は夕飯食いたいんで、一回落ちるんだが、その後。ログイン時間はまだ残ってるけど」
「んー、私は今日はここまでにしとく」
「そうか。じゃ、また明日だな」
今更な話だが、このゲームには一日八時間までというログイン制限が掛かっている。時間加速をしている都合上、らしい。ゲーマーとしては、やりすぎにならないようストッパーがあるのはありがたいような、残念なような。
それはさておいて。彼女ももう落ちるという事なので、一旦ログアウトしよう。
★
ログアウトして、現実に引き戻される瞬間が、一番嫌い。
先程までの“楽しい”から一転、静まり返った室内で、私は身体を起こす。
「今日、楽しかったな」
ポツリと漏れた声。それが自分の声だと気付くのに時間がかかった。自分が発したと理解して、驚く。
楽しかった。楽しかったのだ。
ゲームを遊んでいて、今日程楽しいと感じた日は無い。何故と考えて、今日一日行動を共にしたプレイヤーの顔が思い浮かぶ。
「【ボンド】、か」
……話しかけて正解だったな。
オープニングイベントで見かけた時、本当に気まぐれで話しかけて、まさかあんなに仲良くなるとは思っていなかったけど。
男だと気付いた時は少しビビって警戒したが、話してみれば普通だった。
「……上手く喋れてたかな、私」
「紗枝ー?起きてる?食堂行こ!」
「ちょっと待って」
明日は何をしようかな。
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