ちょっとソロ
再々ログインっと。
夕飯を食べた俺は、誘惑に負け“やがて”の世界に戻ってきた。ちなみに、スピードとは、必ずしも攻略を一緒にしなくてもいい、という事で合意している。勿論、ボスや何らかのイベントはなるべく足並みを揃えるが。
それぞれにやりたいことがあって、それがもう一人には興味の無いことであるならば、別行動の方が良いだろうという判断である。
所謂“自分時間”ってやつだな。多分、知らんけど。
「まずは装備更新だな、武器を新調しないと」
だが、所持金200Cでは何も買えないだろう。昼の攻略で手に入れた素材を売るには……ギルドかな。
で、移動する為にマイルームから、すっかり夜になっている街の広場に出たのだが……。
「人多くね?」
何故か昼の倍以上のプレイヤーの姿があった。あまりに多すぎて、かなりの広さがあったはずにもかかわらず、キャパオーバーしかけている。
しかも皆が思い思いに喋るものだから、賑やかさも昼以上。
そんな、不思議がっている俺の様子を認めたのか、鉱人種の男が話しかけてくる。
大きいな。バールより背が高いんじゃないだろうか。
「驚いてるな、初ログインか?」
「いや、昼はこんなにいなかったのに、と思ってね」
「再ログイン派か……掲示板は見て?」
「ない」
「だろうな、その様子じゃ」
【クロガネ】と名乗ったその男が教えてくれた話によると、ここにいるプレイヤーは皆、諦めた人達なのだという。
「つまり、夜の迷宮は、暗すぎたんだ」
少なくとも開始初日の俺達にはな、と続けるクロガネ。装備も経験も足りない、と愚痴をこぼす姿は、実際に挑戦し、酷い目にあったのだろうとわかる重みが伴っていた。
「だが、中には夜闇をものともせず攻略を進めているパーティもいたな。一瞬で見えなくなったが」
「へぇ……」
それはすごい。
そういう人達がいずれ有名になって、最前線組とか呼ばれたりするのだろう。
というか、今日はもう迷宮に行くつもりは無かったのに、怖いもの見たさで欲が出て来ている。スピードなら迷わず行くんだろうな、と考え、苦笑。
今日一日で、大分影響を受けたようだ。
「でだ。帰ってきたプレイヤーの中に、いきなり広場で鍛治を始めたヤツがいてな」
「鍛治!?こんなところで?」
「簡易キットを借りてきたらしい。で……」
「装備更新したい人が列を作った?」
「それもあるだろうな。だが、ここに居るヤツの半数以上は――」
クロガネの話を聞いていると、突然、人集りの中心から悲痛な叫び声が上がる。
「ああ!また失敗した!!」
「っぱ無理か」
「設備が整わない内は、少なくともマニュアルは辞めとけって事か?」
叫び声を皮切りに、さらに騒ぎしくなる。あまりの騒々しさに辟易とするが、何のために集まっているのかは理解出来た。
「なる程、検証目的」
「……ん?あ、ああ。まあ、そういうことだ」
急に上の空になったクロガネを不審に思い、彼の視線をたどれば、その先に先程叫び声をあげていた集団が。
クロガネは真剣な眼差しでその様子を観察している。
……何となく、彼の生産職種が何か分かった気がする。しかも、かなり本気のようだ。
これは当たりかもしれない。初対面の俺にも優しく話してくれていたし、今の内にフレンド申請しておこうか。
端末を取り出そうとしたところで、聞き覚えのある声が広場に響いた。
「オマエら、今何時だと思っていやがる!オマエらは眠らなくても平気かも知れねぇが、全員がそうだと思うなよ!ちったァ周りの迷惑も考えやがれ!!」
「ちょ、団長の声も充分迷惑ですって!え、えーと、そういうことですので、迷宮人形の皆さん!騒ぎたい場合は、迷宮か、格納庫でお願いします!」
怒鳴り声を出したのは、昼間ギルドで話していたガストだった。彼と、……初見の眼鏡君の注意を受けて、広場は冷や水を浴びせられたかのように静まり、バツが悪そうに一人、また一人と居なくなる。
あっという間に、俺とクロガネと、数人だけを残して静かになってしまった。あれ程の人数を見たあとだからか、少し寂しい。
ガスト達は満足したようで、ギルドへと戻っていく。
「こんな事もあるのか」
「騒音問題……ゲームってより、異世界に来た感じだな」
「我々は常識外れか」
まあ今回の件だけで信用されなくなる、ってことは無いだろうが。いや、そもそも信用されていないのか。
確か、今朝を境に迷宮人形の記録が初期化された、という話だし、街側も距離感を図っているところなのかもしれない。
「……さて、俺もマイルームに戻って作業するか」
「待った」
「?」
「クロガネ、お前、鍛冶師だろ?」
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