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世の中深く考えてはいけない事がある

 落ちてきた石は、何の変哲もないただの石ころのように見えた。

 違う、ただの石ではなく、透明な窓ガラスの破片が落ちてきたように見えた。

 けれどそれが落ちてくると同時に、あまり見ないようにしていたというか、ふよふよ浮かぶ幽霊のようなものがその石の周りに集まっていく。


 集まっていく魔力そのものである霧。

 それはやがて、球状のものからいくつも腕を伸ばしたかのような、薄気味悪いものに変わる。

 全体の色は明るい蛍光色の緑色。


 そしてその腕のような枝を伸ばしているものがうねうねと動く。

 けれどすぐにそこから鋼のような鋭く光沢のある刃が現れて、


「“白光の壁(ホワイト・ヲォール)”」


 シャルが魔法を使い、白い光り輝く壁を作り上げる。

 それにガツンガツンと何かが当たっている音がする。

 先ほどの腕のようなものに、大きな刃ができていて、それをこの壁に打ち付けているのだろう。


 とりあえずは、この壁でどうにか持っているけれど……と思っていると、その壁にもひびが入り始めている。

 相手の攻撃があまりにも強いのだろう。

 俺は更に防御の結界を選択する。


 確か地面系の魔法で固い防御を誇る技があったはずなのだ。

 だから俺は選択画面を表示させて、良さそうな防御を選択し、


「“金剛石の壁ダイヤモンド・ヲォール”」


 同時にシャルのはった結界の更に外側に、ガラスのように外が透けて見える障壁が現れる。

 がんと何かがぶつかる音が聞こえると共に、シャルのはった結界が光の粒になって霧散する。

 どうやらギリギリ防御が間に合ったようだと安堵していると、


「く、またしても出遅れてしまったが……タイキ、助かった」


 ウィークがちょっと悔しそうにお礼を言ってくる。

 確か、エルフというと魔法なんかが強そうな感じなので結界に関しては彼に任せても良かったのかもしれない。

 そんなふうに俺が悩んでいると、シャルがかるくぺちっとウィークの頭を叩いて、


「こらっ、そんなふうに言わないの。素直にありがとうでいいでしょう、ウィーク」

「うう……だが次は弓であいつを仕留めてやる」

「どうやって? 今も連続してガツガツとタイキが張った結界に何かが当たっているけれど」

「……それさえなんとかなれば、俺が倒してみせる!」


 そう言い切ったウィークに、じゃあそちらの方は譲ろうかと思う。

 ただ今回見た魔物だけれど、


「あんな魔物は見たことがないな」

「あら、タイキ、そうなの?」


 女神様はクスクスと笑いながら俺を見ている。

 そうなってくるとこの魔物は、俺がやっていたゲームの何処かで出てきたのだろうかと思っていると、女神様は、


「そうでしょうね。ここ、異界から何かが送り込まれたみたいだし」

「異界って、この前の?」

「さあ、彼らとの関係は分からないけれど、異なる世界からやってきた“異物”があの石みたいね。タイキも見たでしょう? ガラスの大きな欠片のようなものが輝きながら落ちてきたのを」


 それは俺も見た。

 そしてそれが地に落ちると同時に白い霧の魔力が集まりだしたのだ。


「つまり周囲にある魔力を吸収し、巨大化していく魔物なのですか? そうなってくるとこの遺跡全体の魔力を吸収して……」


 恐ろしい想像が浮かんで俺がつい呟いてしまい、そしてそれにシャルとウィークが息を呑む。

 けれどそれに女神様がおかしそうに笑う。


「やだわ、タイキ。一か所の白い霧の魔力が薄くなったからと言ってすぐに流れ込んでくるわけではないわ。周りを見てみなさい、さっきよりも視界がよくなったままでしょう?」

「そういえば……まさか低濃度の白い霧からは吸収できない?」

「もしくは、少量しか吸収できていないという事でしょうね。あれは私が見ていた限り、魔力がこの空間内に“飽和”状態でありながら魔力が結晶化していない中に、“異物”を放り込んで、それを核として成長させている……そんな魔物のように見えるわね」


 そうやってこの魔物は出来ているらしい。

 一体何の目的か、もしかしたならただ試しているだけかもしれないが……。


「魔物の出来方よりかはどうやって倒すかの方が重要か。でもここから出るには……」


 俺がそう呟きながら見ると、未だにその魔物は結界に攻撃を加えている。

 この結界を解いたと同時に、攻撃される。

 だからとくと同時に攻撃をする必要があるが、それは危険な賭けに思える。


 この結界を維持したまま攻撃は可能かどうかだが、、少し離れた場所に魔法陣の攻撃部分を生じさせて、そこからこちらからのコントロールで攻撃する手もある。

 視覚の範囲内でその場所に命中させるのも可能であるから、その方法が一番安全で打倒に思える。

 ただこの腕の様な物を全て倒したとしても、その本体部分から新たにこの腕の様な物が生えてきては困る。

 そんな風に俺が思案していた所で女神様が俺の肩を叩いた。


「ねえねえタイキ、今日は特別にサービスしてあげてもいいわよ?」

「……なんのサービスでしょうか」

「あの魔物の腕みたいな物を、一斉に切り落として無力化する方法?」

「ぜひお願いします!」

「素直ね~、私も何だか見ているだけだとつまらなくて、ここが最後になって戻りになりそうだったから、ここで戦わないと私の出番もなさそうだし。というわけで……えい!」


 女神様がそういって手を空に掲げた。

 唐突に何もない空間から、幾つもの剣の様な物が現れる。

 それを見たウィークが、


「あれは伝説の炎の剣、マグリカ、そしてあれは、深淵の剣“クラウザ”そしてあっちは……」

「! あそこにあるのは、氷結の剣“フリア”他にも伝説の……」


 シャルも一緒に驚いたように叫ぶ。

 確かにこんな強そうな剣がゲームにもあった様な気がするなと俺は思いながら女神様に、


「召喚したんですか?」

「いえ、今作ったわ」


 そう気軽に言って、一気に全てを振りおろす。

 剣は大雑把に数えて23本ほど。

 それがバッサリと切り落とされるのを見ながら、こういう剣が唐突に作られた場合、核融合とか突っ込んだら負けなんだろうなと俺が思っているとそこで女神様が、


「これで魔物はもう抵抗できなくなったみたいね。後は好きにふるぼっこして頂戴?」


 そう俺達に告げて、片目をつむったのだった。

 

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