だったらカレーうどんにしよう!
何故、この世界の情報を的確に得ているのか。
それに関して俺達は結局、結論が出なかった。
ただその異世界からきた者達が、何らかの形でこの世界の情報を得ているのは確実そうだ。
けれどそこで俺は疑問に思う。
俺は一応、女神様に連れてこらえたので会話も全てできるが、彼らはどうなのだろう。
それとも世界を越えると会話が可能になってしまうのか。
「相変わらず良く分からないな」
「何がですか?」
ミルルに問いかけられて俺は一人で呟いてしまったのが恥ずかしくなる。
現在リズさんの家の帰り道。
あの怪盗バンバラヤン――クロードは仲間と共にリズさんの家に滞在するらしい。
頑張ったご褒美は手作りケーキで、チョコレートが混ぜられたふかふかのケーキのようだった。
それは置いておくとして、俺はミルルに、
「いや、俺は異世界から来たのに会話がすんなりできたなって」
「? そうなのですか? 異世界には他の言語があるのですか?」
「……この世界には他の言語がないのか?」
認識のずれに俺は驚く。
けれどそこでミルルが、
「確かに、方言などは存在していますが、基本的には会話は通じます」
「……何故だろう」
「言葉は女神様が与えて話せるようにしたと言っていますから、元が同じなのでそこまで大きな変化はなかった、という所でしょうか」
そういった変化のあまりない言語だから、初めに俺も閉鎖的な所にいたといっても会話が通じても気にされなかったのか。
本当に不思議な世界だなと俺は思いつつ、
「その異世界の侵略者との戦闘に俺は備えられているのか。だから錬金術にしろ魔法薬にしろこんな風にお手軽に作れるのかな。でも何で俺なんだろうな」
「タイキに何らかの魅力があるからだと思いますよ?」
「例えばどんな?」
俺がミルルに聞いてみる。
少なくとも見た目は平凡だし性格も普通だし、こんな普通な俺をどうして選んだのだろうと思う。
そこでミルルがほほを染めて、
「わ、私は、優しい所は魅力的だと思います」
「そう言ってもらえて嬉しいよ。はぁ、やっぱり女神様に俺がモテモテになるチートでも貰おうかどうしようか」
嘆くように呟く俺。
もっと女の子にちやほやされたいという望みがあっても、良いかなと俺は思った。
そんな俺にミルルが、
「……タイキは、そんなに女の子にちやほやされたいのですか?」
「……いえ、そういうわけではないです」
この前のただひたすらに素晴らしいと連呼されるのも嫌だ。
でもやっぱり後で女神様に色々聞くついでに、女の子にモテモテになるチートでも貰おうかなとぼんやり思っていた所で、俺達は家についたのだった。
鈴との約束もあるので、俺はカレーを作っていた。
原種らしい野菜だが、とりあえず切ってみると見覚えのある形をしていたので良かったように思う。
それらを茹でている間に、俺は気づいてしまった。
「炊飯器がない」
お釜で焚いても良いのだがそんな道具はこの世界に存在するのだろうか。
生成された白米の状態で米が手に入っているのだが、これは盲点だった。
どうしようかと思ってスマホで検索しようとすると、女神様が顔を露わした。
「どう、タイキ?」
「いえ、異世界の侵略者と戦わさせられるために連れてこられたとは思いませんでした」
「理由はそれだけじゃないんだけれどね」
「そうなのですか?」
「ええ、異世界の侵略者は、前も人知れずこの世界の子達があれをどんな形であれ撃退したし」
「……聞いていませんよ」
「昔のある地域の話だしね。それに、その時は魔王が敵だったわけだし」
魔王との戦いがあったらしい。
それと話が混同されてしまったのか、そう俺が思っていると女神様は笑って、
「でも言葉がそれほど変わらないから、彼らも翻訳魔法を作っちゃったので、この世界の情報は筒抜けなのよね」
「……一般的な情報が、ですか」
「そうよ。そして彼らは現在様子見をしている、といった所かしら」
「女神様が直接どうにかするわけには?」
それを聞いた女神様は、深々と珍しく嘆息して、
「私が出るとあちらの神も出てくるから、面倒なのよ」
「あちらにも神がいると? その世界にも俺みたいな異世界に飛ばされた人間がいるのですか?」
「いないわ。だってあそこの世界と密接に関係しているのって現在この世界だけですもの。もともと世界は密接につながっているものだけれど、あそこだけははずれちゃって」
「それでこの世界と接触したので侵略、と」
「ええ、こことあちらの世界は似ているから。だから異世界の生物が落としたアイテムでも使えたりしているでしょう?」
それを聞いて俺は、異世界の生物の落としたアイテムが何なのかに思い当たる。
この空飛ぶアイテム、その羽はゲーム内で見た事のない物だった。
「あの遺跡でゲーム内では見た事のない敵がいたのですが」
「うーん、タイキがゲームの全部の敵と出会っていて覚えているか、の問題はあるけれど……鈴達と一緒に戦ったテントウムシの魔物かしら」
「はい、そうです」
「それは異世界の魔物ね。異世界から来れる魔物は、世界の壁を超えるから必然的に強くなってしまうから、強めだったでしょう?」
いわれてみれば妙に強かったが、この力があればどうにかなりそうだった。
だから俺の敵ではなかったので、それに関しては良かったと思っていると、
「とりあえずは上手く馴染めてくれているようで良かったわ。そろそろチートの内容は決まったかしら」
女神様が楽しそうに笑っている。
なので俺は今こそ真の願いをかなえてもらうべきだと思って、
「女の子にモテモテになるチートを!」
「あら、それは無理ね」
「いえ、ですが……」
「……無理無理」
女神様に即答されました。
そんなに念を押さなくてもいいじゃないかと俺は恨めしく思っていると、
「聡すぎるのもうざいけれど、鈍感過ぎるのも面倒なのよね」
「! まさかすでに俺の事を思ってくれている女の子が!」
「私はタイキの事を愛しているわよ?」
「……チェンジで」
そう答えると女神様はいつにも増してにっこりとほほ笑み、
「しばらくヒントを上げない事にしたわ。さようなら」
「! 待って下さい!」
慌てて呼びとめようとするが、その時には女神様の姿形もなく、代わりに現れたのは鈴で、
「やっほー、カレー食べに来たよー。……どうしたの、地上で這う魚みたいな目をして」
「……謎生物の話は良いとして、色々あったんだよ」
「ふーん、少し早めに来たのだけれど、あともう少しで出来そうね」
「ただ米が炊けなくて」
「炊飯器を作ればいいんじゃない?」
「今から?」
「だったらカレーうどんにしよう!」
「……それも良いかもな」
全てを考えるのに面倒になった俺は、そう呟いたのだった。




