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相変わらずやんちゃで

 今回は宝箱もなかったと俺は気づく。


「しょっぱい遺跡だな、宝箱すら無い」

「そういえばそうですね。でも野菜も採れましたし、カレーも楽しみです」

「楽しみにしていてくれ」


 俺はそう話しながらも、治したその冒険者の様子を見る。

 随分と元気になっているようだ。

 これから医者に様子を見てもらうらしい。


 たしかにそういった治癒系の魔法でどうにかなってしまうのも不思議な感じがする。

 けれどそういった世界なので仕方がない。

 そして適当にその問題は頭の隅に追いやって、俺達は自宅に向かう。


 太陽の高さからまだ午前中だ。

 食事をするかどうか、その前に1回畑を見に行くか、いやいやその前にホームセンターのような場所に行くかを考えるが……他の人の意見を聞くことにした。


「ミルル、この後どうする?」

「そうですね、お昼には少し早すぎる気もしますし……」


 そこでミルルはシルフを見て、


「シルフはどうしたいですか?」

「早めに食べたいです。昨日は変な怪盗が来たりしていたしまた今日も会ったので、これからまた来るかも」

「それもそうですね。では……ミィはどうしましょうか」


 そういえば一人食事をする存在が増えていたが、軽く箱を叩いて小声で、


「ミィはお昼をどうするんだ?」


 俺は問いかけるが返事はない。

 どうやら寝ているらしい。

 気楽なものだよなと俺は思いながら、


「どうやらサーシャとミィは今回の冒険の間、気持ちよくお休みだったようだ。……放置で」


 そして俺達は何処に食べに行こうかという話をする。

 今日は肉がいいなとか、甘いデザートが食べたいかもといった内容を話している、ミルルとシルフ。

 バイキングのお店にしようかと言った話になった所で、


 人が反対側から歩いてくる。

 身なりは剣士か何かのようだが、なんというか……常人でないように見える。

 強そうに感じる、そう思いながらも俺は、あの遺跡にはあいつがいると気づいて、


「あの、今は遺跡に行かないほうがいいです」

「……どういう意味だ?」


 そう答える声だけで威圧感を感じる。

 何だこの人はと俺が思いつつも、


「あそこの遺跡に今行ってきたのですが、怪盗バンバラヤンの偽物がいて、襲われたのです」

「……ほう」

「特に彼は、魔石を持っているのが分かるみたいで、『魔石をよこせ』と」

「……君達は良く無事だったな」

「正面から戦うのは危険だと判断しまして、丁度、“アリアドネの糸”を持っていましたので、それで一気に逃げたので今の所大丈夫です」

「なるほど……何階にいたか分かるかね?」

「21階あたりだと思います。そこに待ち構えている感じで……でももしかしたなら俺達を追いかけて上がってきているかも」

「それはそれで好都合かな。しかし偽物の怪盗か……ふむ」

「どうかされましたか?」

「いや、あの怪盗はどこかで見たことがあったなと思っただけだ。情報には感謝する」


 そう言って遺跡に向かおうとするので俺は、


「遺跡にはあいつがいて危険なのですが……」

「大丈夫だ。まあ一度取り逃がしているがね」

「せめてこれ、持って行ってください」


 俺は、“アリアドネの糸”を渡しておく。

 危険な場所なのでとりあえず。


「……こんな高級品を?」

「人の命には変えられませんから」


 それに女神様がこれだけ俺に道具をもたせているのはこ、ういう風に使うのも必要なことなんじゃないかと思う。

 そして俺達は、その謎の男と別れたのだった。





 やってきた食事処。

 バイキングにやってきた俺達だが、


「あれ、リズさん?」


 そこにいたのは大家で貴族のリズさんだ。

 相変わらずあやし魅力のある人妻だが、この間のことを思い出すとそちらの色気を感じる余裕が無い。

 そのうち慣れるかなとぼんやり思いながら、リズさんが俺達を見て、


「あら、タイキさん達……お食事ですか?」

「ええ、久しぶりに外でと思って出てきたのです」


 それを聞いたミルルが、


「では、一緒にお食事はいかがでしょうか?」

「あらそう? 嬉しいわ。最近一人の食事が多くて」

「はい。そしてその、ぜひリズさんの冒険などを教えていただければ!」


 やはりあれだけ強い女性となると、ミルル自身にも憧れがあるのかもしれない。

 シルフも目を輝かせている。

 こうして俺達はリズさんと一緒に食事をすることになったのだが、


「それでね、その時旦那がね……」

「うわー、情熱的ですね」


 旦那との馴れ初め話になっていた。

 しかも四人座る席で、男は俺一人。

 そして女性たちの恋話。


 場違い感が半端ない俺だが、かと言ってその恋話に、そうだよね~、なんて入っていけるわけでもなく、俺という“男”を無視したかのような会話を気配を消しながら効いていた。

 気まずい。

 とても気まずい。


 そろそろ男の友人か冒険者が一人欲しい。

 男が恋しくなってきた。

 もう少し話せる友人みたいのがほしいなと思いつつ、かしましい女性の声に俺は思う。


 何故ハーレムにならないのだろうと。

 現実なんてそんなものだとしか言いようがないが、ハーレム……女神様にお願いしてみようか。

 好みの少女たちが次々と俺に惚れる能力を!


 よし、その能力を後で女神様にねだってみよう。

 俺は心のなかで決める。そこで、


「怪盗バンバラヤンがでたぞ―!」


 そんな声が響く。

 今度は本物か偽物かと思っていると、そこでリズさんが立ち上がり、


「全く、相変わらずやんちゃで。お父様にそっくりですね」

「……お知り合いですか?」

「ええ、今度来ることに……いえ、全く悪い子ですね。人を傷つけない所は評価できる怪盗だと思っていましたが、あの子ったら調子に乗っていますね」


 深々と溜息を付き、リズさんは何処からとも無く縄を取り出した。

 そして傍の窓を開けて飛び出していくリズさん。

 普通の主婦とは思えない身軽な動きに、本当に若い時は凄腕の冒険者だったんだろうなと思う。

 そんなリズさんを見て、ミルル達も、


「私達も行きましょう!」

「はい! 私達も向かいます!」


 そういってシルフも一緒に駆け出す。

 ウキウキとしたようにかけていく二人。

 それを見送ってから俺は、


「さて、会計だけ済ましておくか。随分食べたから、よかったな~」


 そう呟いて俺は、リズさんの分も含めた料金を支払い、追いかけ始めたのだった。


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