本当にいけない子達
リズさん達の足が速いので、俺は飛びながら進むことにした。
「“翔べ”っと、よっと」
そう呟いて、空中に飛び上がりながら、人混みの中に見える開いている地面をエリあげて飛び上がる。
放物線を描きながら追いかけて行くとやがて町の外に出た。
町とその他の境界は、木の柵で決められているようで、ここ一体は草原だった。
明るい草原に変な格好をした怪盗バンバラヤンがいる。
しかも一人というわけではなくぞろぞろと黒いフードを目深く被り顔を隠した男? 達が現れる。
人数としても10人以上いる。
それを見てリズさんは、
「あらあら、素敵な人数。久しぶりに腕が鳴るわ」
そんな気楽な言葉だが、俺はここでリズさんの本性……じゃなかった、実力を知ることになる。
そう思ってごくりと俺は唾を飲み込むとそこで、怪盗バンバラヤンが、
「く、こんな所で見つかって追い回されるなんて……お前達、やってしまえ!」
他力本願な怪盗様だった。
だが、それを聞いたその他の男たちは、
「ちょ、ちょっと待って下さい! あの女の人あれでしょう!? 伝説の“血まみれの戦乙女”と呼ばれた冒険者でしょう?」
「そ、そんなのが相手だって聞いていませんよ! 何であんなのがいるんですか!」
「あの騎士団長も若いころ女だからと甘く見て、腕試しをしたら全治三ヶ月の大怪我を負ったとか」
「ちょ、まじかよ……あの騎士団長をか?」
「でも昔の話だし」
「それでも未だにあの女性には勝てないって嘆いていたぞ?」
そんな騒ぐモブ達に、しびれを切らした怪盗バンバラヤンが、
「いいから倒せ! この人数ならばたとえ“悪夢の女”といえどなんとかなる……ハズ」
「チ……いえ、怪盗バンバラヤン様、あの騎士団長は俺達全員相手をしてピンピンしていますが。チ……怪盗バンバラヤン様も、あの騎士団長によくのされていたじゃないですか! それよりも強いんですよ?」
「……」
「……ここは話しあいという平和的な解決ではいかがでしょうか」
モブが怪盗バンバラヤンにそう進言すると、それに怪盗バンバラヤンは冷や汗を垂らしながら頷いて、
「素直にこちらも事情を話しますので、戦闘はなしの方向でいかがでしょうか」
「あら、嫌よ」
リズさんが微笑みながらその申し出をお断りした。
それに全員が固まって、そして、怪盗バンバラヤンがもうヤケクソになったというふうに笑って、
「いけ! 戦うからには勝利だ!」
「「「おう!」」」
そう言ってモブ達全員が一斉にリズさん……だけではなく俺達まで巻き込まれて襲われそうになっていた。
どうやら人質にするつもりらしい。
どうしてわかったかといえば彼らのうちの何人かが、そう言っていたからなのだが……。
そこでリズさんが頬に手を当てて困ったように溜息を付く。
「本当にいけない子達ですね、少しお灸をすえないといけないですね」
リズさんが呟くと同時に、俺は彼女の力をこの目で見ることになったのだった。
約30秒後。
怪盗バンバラヤン意外全員が気絶させられている。
襲いかかるモブたちをリズさんが、嬉々として次々と投げ飛ばしていく光景。
ミルル達が歓声を上げているが、その異常な力は、普段家事で鍛えている女性のものなのかと俺は疑った。
そして俺達を人質に取る前に全員がのさえてしまったわけだが、
「さて、一番悪い子にはどうしましょうか」
「ひ、ひぃ……く、こうなったら私の全力を見せてやる!」
「そんな準備をこの私がさせると思う? クロードちゃん?」
「う、うう……」
これでこの怪盗もおしまいだなと俺は気楽に見ていたのだがそこで、怪盗バンバラヤンがリズさんに、
「く、さすがに狡いです! 我々と経験の差が多いのにこんな攻撃を仕掛けてくるなんて!」
「あら、数の暴力で私に攻撃を仕掛けてきたのはどなただったかしら」
「く……だが圧倒的経験のある貴方と一対一なんて私の負けが確定ではありませんか!」
「そんな甘ったれたことを今更言うのかしら。いつだって敵は、手加減してくれませんよ?」
「でも貴方は“敵”じゃない」
「あなた方を叩きのめそうとしているのに“敵”とは認識しないと? ……困ったわねぇ」
何が困ったのか俺にはよく分からない。
そこでくるりとリズさんが振り向いて俺を見た。
そしてじっと見つめて、うふっ、と笑う。
俺は嫌な予感しかしなかった。なので、
「俺、逃げます。では!」
そう告げて俺は走りだしたのだが、そこで何処からとも無く縄が飛んできて俺の足にその縄が絡みつく。
そのままぎゅと締め付けられるように環が縮まり、片方の足を引っ張られて俺は転ぶ。
しかもそのままズルズルと引っ張られて、
「あらあらタイキさん、どうして私から逃げようとするのですか? 私はただ見ていただけですよ?」
「何となく巻き込まれるようなそんな予感がしたんです」
「その予感はあたっていますね」
「! やっぱりですか! 俺を巻き込まないでください!」
「一緒に追いかけてきた時点で私と共犯なのですよ? タイキさん」
そんな無茶な理屈があるものかと俺は思った。
俺はただミルル達が追いかけていったので、ついていっただけだ。
いわば野次馬だ。
そんなただの背景とかした一般市民である俺になんてことを望んでいるんだ。
しかも更にリズさんは、
「あの子とタイキさんは同い年なようなので、一対一で戦って勝利したら見逃してもいいですよ」
「乗った!」
勢い良く答える怪盗バンバラヤン。
そこに俺の意思はない。
更に付け加えるなら俺が彼と戦う理由もない。
確かに魔石を狙っているらしいが、その人物だと分かれば俺達の“敵”ではない。
冷静に話を聞いてくれたなら、という前提条件が必要だが。
そこで俺にリズさんが微笑んだ。
「実はあの子、イケメンでよく女の子を振っているらしいの」
「……」
「モテモテだから出来るのね」
そういえばこの怪盗バンバラヤンは、見た目は良さそうだ。
男は顔だ、という都市伝説を俺は信じているわけではないが、だが、彼女をふる、だと?
つまりこの怪盗は、彼女をふるといういわば、彼女いない歴=年齢の俺には到底想像の付かない贅沢なことをしているわけで……。
「……許せない。こんなことが許されるはずがない」
俺は不穏な気配を漂わせながらポツリと呟く。
そこでリズさんが、
「それでタイキさんはどうなさいますか? あの怪盗を少し痛い目に遭わせて……」
「そうですね、地獄の苦しみを与えましょう」
「……タイキさん?」
そこでリズさんがなにか触れてはいけないものに触れたと気づいたようだ。
けれどもう遅い。
俺は、強めの魔法の杖を取り出し、怪盗バンバラヤンと対峙したのだった。




