何となく嫌な予感がする
あんなに急がなくても良いのにな、というかこの世界ではあんな風に早く走れるのか、羨まし……まさか俺もあんな風に走れるのだろうか。
試してみたいという欲求が俺を襲うが、ミルルとシルフがいるので諦める。
二人があの速度で走っていけるとは思えないからだ。
そんな鈴を見ていたミルルが、
「凄いですね、私も足に自信があるのでそのうち競争してみたいです」
「そ、そうなのか」
どうやらミルルはあれくらい走れるようだ。
この世界の人間の足はどうなっているのかと思いながらもそれに関しては問いかけずに俺はギルドに向かう。
昨日の今日で連日ギルド行きだなと思いながら、ギルド繋がりで昨日とってきた花を思い出した。
「ミルル、“発光銀花”を飾っていたみたいだがどうだった? 部屋に持っていったみたいだが……」
「確かに明るくてランプみたいだったのですが、光の波長が月の光に似ていて眠るにはとても心地よかったです」
「そうなのか、それは良かった」
「それにあの花からはとてもいい匂いがしますし。眠くなるような……」
それってあの遺跡が眠り攻撃をしてくる魔物だけでなくこの植物にも眠りの効果があるのではないかと思ったがそれ以上言わなかった。
理由はギルドについたからだ。
この前家を借りた場所で良いのかなと歩いていくと、今日は妙に混んでいた。
なので長い列の端に並び、ミルル達と話す。
「食事をとってからどうしようか。その後は日用品の購入に行くか?」
「私の場合は必要最低限の物でないと移動できませんし、あまり荷物が多くても困ってしまいます」
ミルルが困ったように言っているので、買いもの話は無しになった。
そこでシルフが、
「遺跡に潜りたいです! 東に少し行った所の砂地に野生の野菜が採れる道があって、その先の遺跡にも花や植物が沢山あるのです!」
「へー、夕飯は野菜カレーでも良いな」
「? カレー?」
「……この世界にカレーはないのか? 試しに調べてみるか」
俺はこっそり隠れるようにスマホを操作する。
まずこの植物の様な部分に触れて、検索画面を呼び出して、
「カレーって調味料の調合からはきついよな。普通にカレールーは出てくるのか? ……NGM食品の中辛、っと」
そこで出てきたレシピを見ながら、本当に出来るのかといったある種の驚きを覚える俺。
加工食品するまできる辺りは凄いと思うのだが、ふと元素レベルにまで分解されているんじゃないかという疑惑が持ち上がる。
けれどすぐにそれはないな、あったら怖いしと俺は考え、きっと異世界の不思議魔法パワーでどうにかなっているんだろうと俺は片付けた。
そしてカレーに必要な物は野菜と肉と米だが、肉は魔物を倒した時に手に入れた肉があり、味もそれぞれが鶏肉、牛肉、豚肉のような味だった。
だから肉はどうにかなるとして、米はどうしようかと俺は悩んでから試しに聞いてみることにした。
「ミルル、米ってあるか?」
「? ありますが……その遺跡でも採れたはずです。でもこの地方の人は主食がパンですから、米は食べなかったような……私もあまり食べた事がなくて」
「よーし、お米の美味しさをたっぷりと教えよう! えっとカレールーの作り方は、調理時間10分か。相変わらずの時短レシピで、助かるなぁ」
目をトロンとさせながら俺はそれをチェックした。
さて、夕食はカレーだと決めた所で、すぐ前に並んだ男が新聞を見て、
「おい、またでたらしいぞ」
「え? また? 物好きがいるものだな、怪盗バンバラヤンだったか」
そう言って、次は何処にやってくるんだろうなという話になっている。
怪盗って、また懐かしい感じのする単語が聞こえるな、と俺が思っていると、
「怪盗バンバラヤン、ですか」
「ミルル、知っているのか?」
「ええ、他の街でも話題になっていましたから。確か、怪盗バンバラヤンと呼ばれる人物はひとりいるのですが、この怪盗の場合は手引する人間やサポートする方も沢山いる集団なのですよ」
「よくそんな集団が野放しになっているな」
「そういえばいつの間にか立ち消えになっていますね。以前、警官隊の派遣も検討されているとの話でしたがが……やはり、高純度の魔石を盗んでは返すを繰り返しているからなのでしょうか」
「盗んでから返す?」
「ええ、件の怪盗は魔石を盗みながらも後日傷一つなく返してくるそうです。しかもお騒がせしましたという謝罪の手紙と共に」
「……魔石が目的のものと違っていたから、なのか」
「おそらくは。高純度の魔石なんてそうそう数がありませんしね、それこそあのサーシャの……」
そこまでミルルが呟いてすぐにまさかという顔になった。
俺も、何となく嫌な予感がする。
魔石。
一応俺でも見れば、どの程度品質がいいか、というか濃縮された魔力がどの程度かは分かる。
それが純度と呼ばれているものだろうが、そういえばサーシャが取り付いた魔石も元は純度が良かったんじゃないかという気がしないでもない。
というか、まさかサーシャの魔石を探しているんじゃないだろうな、広いようで狭い世界のような気がして仕方がないと俺は思っていると、ミルルが、
「ちなみにその怪盗は奇抜な格好をしたイケメンで、攻撃技は花びらだそうで」
「……そうか。うん、別に構わないぞ」
俺は微妙な表情になりながら答えて、その怪盗が探しているのがサーシャの魔石でないといいなと思う。
そこでようやく順番が来て、
「まずはどのようなものがご入用でしょうか」
「畑が欲しいです。薬草を育てたいので……」
「薬草ですか。ではこちらの畑はここ近辺ですので、これくらいで」
「もう少し安い畑はありませんか?」
「ではこちらでいかがでしょうか」
そこは自宅から少し離れた場所だが日当たりもよくお値段もお手頃だ。
なのでそこを借りることにする。
それを考えながらも俺は、ちょっと高級な薬草は植木鉢で少し育ててみるかなと思う。
その方が手入れが楽だよなといった気持ちからだ。
放っておいても育つような薬草を畑メインにするかと俺は決めて、その書類にサインをする。
これで畑が借りられるなと思っていると、
「タイキー! 丁度終わったみたいね。じゃあ食べに行こうよ!」
鈴がやってきて、俺に声をかけてきたのだった。




