魔法って便利ですね
換金すると、大量の金貨が。
確かに大量の素材が使えきれない程度に大量に手に入ってしまったのだ。
ここでいくらかお金に換えておけば今後の生活費にもなる、と思ったわけだが。
「そういえば、ああいった遺跡の前の店よりも、離れた店で換金した方が高く売れたりするんじゃないのか?」
換金してしばらく歩いていった後、俺はぽつりと呟いた。
するとすぐ傍で漂っていた女神様が、
「周辺の換金場所のレートを調べてあげましょうか?」
「いえ、良いです。もう引き取ってもらいましたし」
そう答えながら俺は思った。
これでもしももっと高値で売れたなら、後悔するだろう事が分かっているからだ。
後悔先立たず。
なので今それを聞いたところでどうにもならなくて、悔しい思いをするだけなので、精神の平穏を保つためにも聞かないでおいたのだ。
そんな俺に女神様が面白がるように、ふふっと笑い、
「ちなみにそこのお店だと、○キブリの羽が1.5倍のお値段で引き取ってもらえたのにね」
「わざわざ言わなくても良いじゃないですか!」
「別にお金には困っていないでしょう? 必要なら私が大量に作って貢いであげるわよ?」
「むぎゅお」
そこで笑いながら女神様が俺の顔に胸を押しつけてきた。
頬一杯に触れる柔らかい胸の感触に俺は、油断していた自分を呪うと同時に、この誘惑に負けたらどうなってしまうんだろうと思って……考えるのを止めた。
しかもぎゅうぎゅう押し付けてくるぽよんとしたそれを感じながら、俺は全てがどうでもよくなってしまうような気がしなくもない。
もう何だか色々疲れたし考えるのを止めよう、そう思って俺は力を抜いた。
そこで俺は女神様に放り出されました。
「うーん、焦らなくなるとやっぱり面白くないわね。こう、純情な男を弄ぶのが楽しいのに、こうも反応がないのも……もうちょっと過激に行こうかしら」
「止めて下さい、切実に!」
「こうも女の子に拒絶反応を示すなんて、まさか、タイキ……」
「俺は女の子が好きです。ええ、大好きですとも! 出来れば同じくらいの年の女の子が!」
こうでも言っておかないと、同性愛好者疑惑をつけられたり年増が良いとかロリコンがとか、変な話に話が転がるだろう事は今までの経験から俺は分かった。
俺だって何時も女神様に弄ばれたりしているわけではないのだ!
こんなぐうに事前に水際で食い止められるのである。
そんな俺を見て女神様が、
「面白くないわ~、タイキが学習しちゃったわ。いっそ記憶を消そうかしら」
「止めて下さい! そ、それよりもお金を貢ぐとか言わないでください」
「あら、嫌なの?」
「だって、女神様のヒモみたいじゃないですか、俺」
「今だってそんな様なものじゃない?」
「……」
俺は沈黙した。
確かに現在女神様に全てを用意してもらったから、そう言えなくもな……。
「女神様は俺を目的があってここに呼んだんでしょう?」
「え?」
「……」
「と言って不安にさせてみたけれど、そうよ」
「本当ですね、本当にそうなんですね、信じていいんですね!?」
「ふふふ」
「笑ってごまかさないでください! ……また弄ばれた気がしますが、ここに来た時の初期装備は報酬みたいなものだから、ヒモじゃありません! 依頼も受けて稼いでいますし」
言われてみればそうね、残念だわと女神様が呟いてから、
「……貨幣価値をインフレさせてみようかしら。大量に通貨を流して、価値を今の100000倍に……」
「止めて下さい、普通の人の生活の影響も考えて下さい。それで、そういえばこの金貨、俺達が使っている物と同じなんですね」
貨幣の柄を見ながら俺は呟く。
本当にゲームの様な世界だ。
同一言語に同一貨幣。
ちなみにこれらの金貨や銀貨には、花の様な草が彫られている。
何故か女神様の顔ではないらしい。
などと俺が考えていると、
「折角だし、女神パワーを見せてあげるわ。ていっ!」
「よ、良かった、金貨が俺の金貨袋の上に突然現れて五枚ほど振ってきただけだった……。というか、金貨も魔法で作れるのですか?」
「そうよ、私は女神だもの」
「魔法って便利ですね」
やはりファンタジーとしてのそういったご都合主義は素晴らしい、そう俺が思っていると女神様が、
「核融合と核分裂? 元素とか考えていくとそうなるんじゃない?」
「……ファンタジーな世界でそんな単語は聞きたくないです」
「そう? まあ私の場合、魔法で何でも出来るから、基本的にそういった分析は不要かもしれないわね。想像するだけで出来るんですもの」
女神さまっぽいですねと俺は思ったが口に出さなかったが、そこで女神様がむっとしたように俺を見て、
「私は女神だもの。何でもできるわ」
「先ほどの様に安い換金所を見つけるのも、ですね。もっと早く教えて下さいよ」
「知っていたし、できる事があったとしても、それを取捨選択するのは私の意思よ? そういったもっと高値で引き取ってくれる場所に行きたいという気持ちがなければ、見つけることも困難だわ」
「……つまりネットには沢山の知識が埋まっているけれど、何を調べるのか、調べる物を決めたり条件を設定したりしないと、より目的の物に近づけないといった感じですか?」
「そうね、近いわ。もっともネットの情報には“嘘”が紛れ込むけれど、この世界で私に“嘘”は通用しないかしら」
くすくす笑うので、何となく俺はスマホを取り出していじってみた。
女神様はスマホの女神様というよりはネットの女神様、集合知その物みたいなものなのだろうか?
と思って何となくニュース欄を見る。
その並んでいる日付を見て俺は、つばを飲み込んだ。と、
「どうしたのかしら、タイキ」
「いえ、何でもありません。それより、ようやく魔王の城に戻ってきました。結果が出ているといいな」
「そうしたらどうする? 戻る」
「それはもちろん。ミルルのお姉さん達にあった話もした方が良いだろうし」
「そしてまた女の子達に弄ばれる日々が!」
「……でもその中に女神様もいましたよね?」
「だってタイキは私の玩具ですもの。全年齢向けでは見せ出来ない様な遊び方をしてあげてもいいのよ」
妖艶に笑う女神様。
それを聞いた瞬間俺は、その場から全力疾走して逃げ出したのだった。