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arcana  作者: 401
page.1
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9

▼

 

 鑑賞中、普段は饒舌なはずの彼はなにも言わなかった。

 

 というか、早々に寝入っていた。

 

 一方の俺は、半身にかかった重さなど全く気にならない位、内容に釘付けになってしまっていた。

 

 話運びは静か。しかし、小物の配置から画面の隅々まで、拾える情報には意図がある、ように感じさせてくる。ぼんやりする暇がない。

 あれもこれも、と細部を追うことに意識を取られているうちに、転調。

 序盤から置かれていた小物が意味を持った瞬間、本筋が一気に前面へせり出してくる。

 以降はもう、画面に喰われるように最後まで見た。

 

 みなとくんがこれ作った時、今の俺くらいの年齢だったとかいう事実、げんなりするな。


 作者が寝入っているのを良いことに、同じ場面を何度も巻き戻して見直す。

 飽きない。

 転の暗転前、もっかい……とリモコンを握ったところで、ぴこん、とスマホの通知音が響いた。

 差出人を見た瞬間、肩から力が抜ける。


 あーあ。


 溜息を吐いた拍子に上体が揺れ、みなとくんが目を覚ましてしまった。


「……んー?」

 

 この体勢だと、内容は丸見えだろう。今さら補足も嘘も挟めない。

 成人した息子の現在地と帰宅予定を逐一、丁寧に、繰り返し把握したがる親、という余計な事情を晒してしまった。バツが悪い。

 

 みなとくんは遠慮して視線を外すでもなく、ぼんやりした顔で「ふうん」と小首を傾げた。


「……水持ってきて、冷蔵庫開けていいから」

 

 欠伸と共に頼まれたので、手に持っていたものを預けて台所へ向かい、冷蔵庫を開ける。


「いぶちゃん、スマホ触って良い?」

「うん」


 中身、嘘みたいに人間だな。

 数種類の酒がバラで寝かされていたり、日持ちするパウチが重ねて置いてあったり。

 

 ドアポケットからボトルを一本抜き取り、振り返る。


「おお……」

 

 コンロの奥には無骨な角瓶が堂々と鎮座し、シンク脇には黄色い箱とライターが数本、散らばっている。

 

 みなとくん、成人専用の娯楽、満喫しているな?

 

 不躾にも色々観察していると、ソファから話し声が聞こえてきた。部屋には俺たちしかいないはず。誰に話しかけているんだ?

 

 カウンター越しにみなとくんを見る。電話してるのか。

 ケースそんな色だったっけ?ていうか機種違くない?

 

 むしろ、それ。

 俺の。


「え、ちょっと、待って待って、」

 

 みなとくんは喉をころころ鳴らしながら、口元に人差し指を立てる。あ、さっき、言ってたな。そういえば。触っていい?って。このためか!


「そう!昔と全然変わってなくて……うん、身長はね、越されちゃったけど……ね、ほんとに。久しぶりだから、僕がちょっと離したくなくて」

 

 他所行きの、ちょっと甘えたような声。自分のせいで俺が帰れないことにしたいらしい。

 そんな、良いのに。

 帰らないこと自体はよくあるんだから。嫌味言われるのだって慣れてる。

 

 母親とみなとくんは、楽しそうに俺の話をしている。交渉はとっくに済んでいるらしい。

 

 終わり際「ありがとうございます、おかーさん」と電話口に伝わるくらいの愛嬌をたっぷりと振りまき、液晶が伏せられた。

 みなとくんは水を手渡した俺にも同様に礼を述べ、透明な液体を口に含む——寸前で、

 

「ねー、もう少しいてよ」

 

 と。

 こちらを見ないまま零した。


 足元まで道を延ばして、声をかける。

 手までは引かない。


 優しくてずるい人だな、と思う。

こんばんは。閲覧ありがとうございます!


いぶちゃんの親御さん、やっぱちょっと変わってんな〜と思いながらリライトしました。異性親、同性親、いろんな気持ちが絡まってそう。

おうちのなかってそういうところ、ありますよね。不可視のまま。たいへん!


次回は11/9(月)更新予定です。

お待ちしております◎

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