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鑑賞中、普段は饒舌なはずの彼はなにも言わなかった。
というか、早々に寝入っていた。
一方の俺は、半身にかかった重さなど全く気にならない位、内容に釘付けになってしまっていた。
話運びは静か。しかし、小物の配置から画面の隅々まで、拾える情報には意図がある、ように感じさせてくる。ぼんやりする暇がない。
あれもこれも、と細部を追うことに意識を取られているうちに、転調。
序盤から置かれていた小物が意味を持った瞬間、本筋が一気に前面へせり出してくる。
以降はもう、画面に喰われるように最後まで見た。
みなとくんがこれ作った時、今の俺くらいの年齢だったとかいう事実、げんなりするな。
作者が寝入っているのを良いことに、同じ場面を何度も巻き戻して見直す。
飽きない。
転の暗転前、もっかい……とリモコンを握ったところで、ぴこん、とスマホの通知音が響いた。
差出人を見た瞬間、肩から力が抜ける。
あーあ。
溜息を吐いた拍子に上体が揺れ、みなとくんが目を覚ましてしまった。
「……んー?」
この体勢だと、内容は丸見えだろう。今さら補足も嘘も挟めない。
成人した息子の現在地と帰宅予定を逐一、丁寧に、繰り返し把握したがる親、という余計な事情を晒してしまった。バツが悪い。
みなとくんは遠慮して視線を外すでもなく、ぼんやりした顔で「ふうん」と小首を傾げた。
「……水持ってきて、冷蔵庫開けていいから」
欠伸と共に頼まれたので、手に持っていたものを預けて台所へ向かい、冷蔵庫を開ける。
「いぶちゃん、スマホ触って良い?」
「うん」
中身、嘘みたいに人間だな。
数種類の酒がバラで寝かされていたり、日持ちするパウチが重ねて置いてあったり。
ドアポケットからボトルを一本抜き取り、振り返る。
「おお……」
コンロの奥には無骨な角瓶が堂々と鎮座し、シンク脇には黄色い箱とライターが数本、散らばっている。
みなとくん、成人専用の娯楽、満喫しているな?
不躾にも色々観察していると、ソファから話し声が聞こえてきた。部屋には俺たちしかいないはず。誰に話しかけているんだ?
カウンター越しにみなとくんを見る。電話してるのか。
ケースそんな色だったっけ?ていうか機種違くない?
むしろ、それ。
俺の。
「え、ちょっと、待って待って、」
みなとくんは喉をころころ鳴らしながら、口元に人差し指を立てる。あ、さっき、言ってたな。そういえば。触っていい?って。このためか!
「そう!昔と全然変わってなくて……うん、身長はね、越されちゃったけど……ね、ほんとに。久しぶりだから、僕がちょっと離したくなくて」
他所行きの、ちょっと甘えたような声。自分のせいで俺が帰れないことにしたいらしい。
そんな、良いのに。
帰らないこと自体はよくあるんだから。嫌味言われるのだって慣れてる。
母親とみなとくんは、楽しそうに俺の話をしている。交渉はとっくに済んでいるらしい。
終わり際「ありがとうございます、おかーさん」と電話口に伝わるくらいの愛嬌をたっぷりと振りまき、液晶が伏せられた。
みなとくんは水を手渡した俺にも同様に礼を述べ、透明な液体を口に含む——寸前で、
「ねー、もう少しいてよ」
と。
こちらを見ないまま零した。
足元まで道を延ばして、声をかける。
手までは引かない。
優しくてずるい人だな、と思う。
こんばんは。閲覧ありがとうございます!
いぶちゃんの親御さん、やっぱちょっと変わってんな〜と思いながらリライトしました。異性親、同性親、いろんな気持ちが絡まってそう。
おうちのなかってそういうところ、ありますよね。不可視のまま。たいへん!
次回は11/9(月)更新予定です。
お待ちしております◎




