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arcana  作者: 401
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▼

 

 極限までボリュームを絞られたテレビを眺めながら、止血綿を留めたテープをゆっくり剥がす。


 薬局は人が出たり入ったり、絶えず忙しない。ごちゃごちゃしている。しかし、室内は清潔だ。白を基調とした壁紙に装飾はない。患者達は長椅子に等間隔で腰掛け、静かに順番を待っている。陳列されているようだ。俺も含めて。

 用が済んだ綿とテープを無造作に丸めてジーンズのポケットにねじ込む。指先に薄い診察券が当たるが、無視した。


 総合病院直結の調剤薬局は待ち時間が長い。せっかちなおじいちゃんの怒号が響くこともある。

 けれど、夕方に差し掛かる時間帯は穏やかなことが多い。

 それに気づいてからは、先生に予約時間を後ろにずらしてもらっている。以来、快適な待機時間を過ごせてるって訳です。

 幸か不幸か時間は腐るほどある。滞在自体は苦にならない。


 硬質のウレタンに身を預けていると、渡瀬(わたらせ)さん、と受付から呼びかけられる。張りのある口調だ。

 既に何回か呼びだされていたのだろうか。ごめんなさい。


 薬剤師さんの説明をぼんやり聞いて、なんとなくのタイミングで頷いたりしてお金を払う。

 十代半ばくらいからか。そこら辺から、聴覚がぼやけてきているような気がする。長時間PCを見た後の目みたいに霞んでいる感覚。

 以前はこんなんじゃなかった。限定的ではあったけれど、明瞭に聴こえる音があった、のに。

 

 まあ。


 (もういいんだけどさ、なんでも)


 得るものも失うものも、然程ないもん。


 返された小銭を財布に放り入れて、ゴミを入れた方と逆のポケットに埋める。これで今日のタスクはおしまい。


 ……あーあ。

 

 帰りたくないな。

 他に行くところとか、何処もないけど。


 何処もないのなら仕方もない。

 渋々自動ドアのボタンに指を押し付けようとしたところで、脳内で何度も反芻した声が後ろから聞こえる。

 

 今言われた?俺、い(・)ぶ(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)って。


 思わず振り向く。だって、俺のことそんな風に呼ぶ人なんて、この世に一人しかいないから。

 視界に入った男の人は想像していた姿と少し違っていた。髪の色とか、特に。

 

 それでも間違うわけがない。

 だって。

 俺の世界でクリアに聞こえるのは彼の声だけだったから。


「みなとくん?」


 何年経ってもそれは変わらなかったんだって実感した。数秒前に。


「……マジで?」


 本物?って腕を掴まれる。その無遠慮なところ、俺以外にも出してるのかなぁ、今は。

 いやもう、そんなんは後。ないしはどうでもいい。そんなことよりさぁ、ねぇ、


「こんなことある?」

 

 だって最後に会ったの八年前だよ?卒業式にさよならして、そのままで。

 全部終わってから気づいたの。ただの先輩じゃなかったって。俺にとってのあんたはとてつもなくおっきい存在だったって。

 そんで後悔と未練を燻ぶらしてだらだら生きてたんだよ。そしたらこれじゃん。


「わかんない、なんなんだろうね」


 つか背伸びすぎでしょ。僕よりおっきくなったの。

 みなとくんはそう言って、当時よりずっと骨ばった俺の指を開いたり閉じたりしている。気を紛らわせるように。

 

 ……俺もわかんない。わかんないよ?けど。

 

 運命じゃなかったらなんなの、って感じ!

初投稿です。右も左もわかりませんが頑張ります!


見つけてくれてありがとうございます。

どうぞよろしくお願いいたします◎

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