1
▼
極限までボリュームを絞られたテレビを眺めながら、止血綿を留めたテープをゆっくり剥がす。
薬局は人が出たり入ったり、絶えず忙しない。ごちゃごちゃしている。しかし、室内は清潔だ。白を基調とした壁紙に装飾はない。患者達は長椅子に等間隔で腰掛け、静かに順番を待っている。陳列されているようだ。俺も含めて。
用が済んだ綿とテープを無造作に丸めてジーンズのポケットにねじ込む。指先に薄い診察券が当たるが、無視した。
総合病院直結の調剤薬局は待ち時間が長い。せっかちなおじいちゃんの怒号が響くこともある。
けれど、夕方に差し掛かる時間帯は穏やかなことが多い。
それに気づいてからは、先生に予約時間を後ろにずらしてもらっている。以来、快適な待機時間を過ごせてるって訳です。
幸か不幸か時間は腐るほどある。滞在自体は苦にならない。
硬質のウレタンに身を預けていると、渡瀬さん、と受付から呼びかけられる。張りのある口調だ。
既に何回か呼びだされていたのだろうか。ごめんなさい。
薬剤師さんの説明をぼんやり聞いて、なんとなくのタイミングで頷いたりしてお金を払う。
十代半ばくらいからか。そこら辺から、聴覚がぼやけてきているような気がする。長時間PCを見た後の目みたいに霞んでいる感覚。
以前はこんなんじゃなかった。限定的ではあったけれど、明瞭に聴こえる音があった、のに。
まあ。
(もういいんだけどさ、なんでも)
得るものも失うものも、然程ないもん。
返された小銭を財布に放り入れて、ゴミを入れた方と逆のポケットに埋める。これで今日のタスクはおしまい。
……あーあ。
帰りたくないな。
他に行くところとか、何処もないけど。
何処もないのなら仕方もない。
渋々自動ドアのボタンに指を押し付けようとしたところで、脳内で何度も反芻した声が後ろから聞こえる。
今言われた?俺、いぶちゃんって。
思わず振り向く。だって、俺のことそんな風に呼ぶ人なんて、この世に一人しかいないから。
視界に入った男の人は想像していた姿と少し違っていた。髪の色とか、特に。
それでも間違うわけがない。
だって。
俺の世界でクリアに聞こえるのは彼の声だけだったから。
「みなとくん?」
何年経ってもそれは変わらなかったんだって実感した。数秒前に。
「……マジで?」
本物?って腕を掴まれる。その無遠慮なところ、俺以外にも出してるのかなぁ、今は。
いやもう、そんなんは後。ないしはどうでもいい。そんなことよりさぁ、ねぇ、
「こんなことある?」
だって最後に会ったの八年前だよ?卒業式にさよならして、そのままで。
全部終わってから気づいたの。ただの先輩じゃなかったって。俺にとってのあんたはとてつもなくおっきい存在だったって。
そんで後悔と未練を燻ぶらしてだらだら生きてたんだよ。そしたらこれじゃん。
「わかんない、なんなんだろうね」
つか背伸びすぎでしょ。僕よりおっきくなったの。
みなとくんはそう言って、当時よりずっと骨ばった俺の指を開いたり閉じたりしている。気を紛らわせるように。
……俺もわかんない。わかんないよ?けど。
運命じゃなかったらなんなの、って感じ!
初投稿です。右も左もわかりませんが頑張ります!
見つけてくれてありがとうございます。
どうぞよろしくお願いいたします◎




