第三十六話 王都に潜む影
華やかな街並みの裏側で、静かに動く影があった。
ナザール・パルネリックを狙う者たち。
魔導塔での襲撃以降、表立った攻撃は止んでいた。
しかし、それは敵が諦めたという意味ではない。
むしろ――。
次の機会を待っているだけだった。
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パルネリック家の屋敷。
朝食を終えたナザールは、書類の山を前に小さくため息をついていた。
「兄上のお手伝いをしたいのですが……。」
ナザールは王都でも、辺境伯家の政務を支えていた。
身体が弱いと言われ続けてきた彼だが、頭脳は誰よりも優れている。
領地経営、外交、法律。
様々な知識を身につけ、エルオーニの大きな支えとなっていた。
「無理は禁物ですよ。」
アーマルが心配そうに声をかける。
「大丈夫です。」
ナザールは笑う。
「昔から身体だけは弱かったですから。」
「だからこそ、別の方法で兄上を支えたいと思ったんです。」
その言葉を聞き、アーマルは静かに頷いた。
(優しい人。)
(自分が苦しいのに、いつも誰かのことを考えている。)
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その日の午後。
ナザールは王都の役所へ向かう予定だった。
「護衛は私一人で十分です。」
アーマルが言う。
しかし騎士たちは苦笑した。
「アーマル殿。」
「あなたの場合、護衛というより護衛される側が心配になります。」
「え?」
アーマルは首を傾げる。
騎士たちは苦笑した。
彼女が強すぎることを、王城の襲撃事件で全員が知っている。
「一人で敵集団を倒す護衛など、聞いたことがありません。」
アーマルは困った顔をする。
「普通に守っただけなのですが……。」
ナザールは思わず笑った。
「あなたらしいですね。」
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王都中央区。
二人が歩いていると、突然アーマルの足が止まった。
「……。」
「どうしました?」
ナザールが尋ねる。
アーマルは周囲を見る。
人の流れ。
建物の影。
風の音。
(いる。)
(誰かが見ている。)
前世で培った危険察知能力が警告していた。
「ナザール様。」
「少しだけ、私の後ろへ。」
その瞬間。
屋根の上から黒い影が飛び降りた。
「見つけた。」
「王家の血を引く者。」
黒装束の男。
ナザールを狙った暗殺者だった。
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「またですか……。」
ナザールは苦しそうに呟く。
「なぜ私なのですか。」
男は笑う。
「まだ何も知らないのか。」
「お前が生きている限り、あの血は消えない。」
「血……。」
ナザールの表情が曇る。
しかし、次の瞬間。
「それ以上は聞かせません。」
アーマルが前へ出る。
「ナザール様を傷つける人は許しません。」
男は鼻で笑う。
「小娘が。」
「俺たちは王国でも――。」
最後まで言葉を続けることはできなかった。
アーマルの姿が一瞬で消える。
次の瞬間。
「ぐっ……!」
男は地面へ倒れていた。
「な……。」
周囲にいた仲間たちも驚く。
「速すぎる……。」
アーマルは静かに構える。
「まだ続けますか?」
暗殺者たちは動けなかった。
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事件後。
王城の騎士たちが駆けつけ、暗殺者たちは拘束された。
しかし、一人だけ逃げた者がいた。
その人物は遠くの屋根から二人を見ていた。
「やはり……。」
「羊姫の力は本物。」
「そしてナザールも……。」
黒い仮面の人物は呟く。
「二人を引き離す必要がある。」
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帰り道。
ナザールは静かに歩いていた。
「アーマルさん。」
「はい。」
「私は……弱いですね。」
突然の言葉に、アーマルは足を止める。
「そんなことありません。」
「私は身体が弱い。」
「剣も振れない。」
「誰かに守られてばかりです。」
ナザールは寂しそうに笑った。
アーマルは首を横に振る。
「違います。」
「ナザール様は、人を信じることができます。」
「優しいから、人があなたを守りたいと思うんです。」
ナザールは目を見開く。
「……アルマも。」
「え?」
「アルマも、あなたと同じ目をしています。」
アーマルの心臓が跳ねた。
「優しくて、誰かを心配している目。」
ナザールは微笑む。
「不思議ですね。」
「あなたと話していると、あの羊を思い出します。」
アーマルは小さく笑った。
「きっと……。」
「アルマも喜んでいますよ。」
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その夜。
王都地下。
ゼルヴァンの前に、一枚の報告書が置かれる。
「アーマル。」
「白い髪、桃色の瞳。」
「間違いなく羊姫。」
ゼルヴァンは目を細める。
「だが問題は……。」
「ナザールとの距離だ。」
「二人の絆が強くなるほど、計画は難しくなる。」
暗闇の中で、不気味な笑い声が響く。
「ならば次は――。」
「彼女の秘密を利用するとしよう。」
王都に、新たな危機が迫っていた。




