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最強OL、羊に転生する。  作者: 月羽めい
雨の日の羊姫編
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プロローグ 白い奇跡は、雨とともに

「きゃあああっ!」


夕暮れの駅に、少女の悲鳴が響いた。


ホームにいた人々が一斉に振り返る。


「女の子が落ちた!」


幼い少女が足を滑らせ、線路へ転落したのだ。


遠くから電車の警笛が鳴る。


「危ない!」


誰もが叫ぶ。


だが、身体は動かない。


あと数秒で電車が到着する。


助けに飛び込めば、自分も助からない。


その恐怖が、人々の足を縛りつけていた。


その時だった。


「待ってて!」


一人の女性が迷わずホームから飛び降りた。


黒髪を後ろで束ねた四十歳の会社員。


スーツ姿のまま、全力で少女へ駆け寄る。


その名は――田辺ミオ。


普段はどこにでもいる普通のOL。


誰も知らない。


彼女が空手、剣道、截拳道、柔術、プロレスなど、数々の武術を極めた最強の格闘家であることを。


強すぎるあまり、恋人もできず、職場では力を隠して生きてきた。


それでも。


彼女は迷わなかった。


「大丈夫!」


少女を抱きかかえ、渾身の力でホームへ押し上げる。


駅員と周囲の人々が少女を受け止めた。


その瞬間――


轟音が響いた。


世界が白く染まる。


(あぁ……助かったんだ。)


少女が泣きながら母親に抱きしめられる姿が、ぼんやりと見えた気がした。


(よかった……。)


それが、田辺ミオの最後の記憶だった。


◇◇◇


どれほどの時が流れたのだろう。


柔らかな風が頬を撫でる。


草の香り。


鳥のさえずり。


「……ここは?」


目を開ける。


そこには青い空と、どこまでも広がる草原があった。


起き上がろうとした、その時。


「……え?」


身体が思うように動かない。


手がない。


足も違う。


声を出そうとしても――


「メェ?」


羊の鳴き声しか出なかった。


「メェェェーーーッ!?」


混乱した。


飛び跳ねる。


転ぶ。


また跳ねる。


目の前の水たまりを覗き込むと、そこには一頭の真っ白な子羊が映っていた。


「メェ……?」


(え、私……羊!?)


前世最強の格闘家。


誰よりも強かった女は――


異世界で、一頭の羊として生まれ変わっていた。


「メェェェ……。」


しばらく呆然としていたミオ――いや、アルマだったが、不意に優しい手が身体を抱き上げる。


「なんて綺麗な子羊だ。」


柔らかな声。


振り向くと、そこには初老の牧場主がいた。


「迷子かい?」


アルマは答えられない。


「メェ……。」


「大丈夫。今日からここがお前の家だ。」


そう言って優しく頭を撫でてくれた。


その温もりに、不思議と涙がこぼれそうになる。


(生きて……いいんだ。)


アルマは静かに目を閉じた。


それから一年。


辺境伯家の牧場へと引き取られたアルマは、多くの動物たちや使用人たちに愛されながら育っていく。


そして、ある雨の日――


空から落ちた一粒の雨が、その運命を大きく変える。


白い光に包まれた身体。


羊の姿は消え、代わりに現れたのは、雪のように白い髪と桜色の瞳を持つ、一人の美しい少女だった。


「……人間に、戻れた。」


しかし、それは雨の日だけの奇跡。


晴れれば再び羊へ戻ってしまう、儚い魔法だった。


そんな秘密を抱えながら生きる彼女は、まだ知らない。


やがて出会う、一人の青年のことを。


動物を誰よりも愛し、優しい笑顔を絶やさない辺境伯家の次男――ナザール・パルネリック。


彼との出会いが、羊だった少女の運命を変え、平和な辺境の地を巡る数々の事件へとつながっていくことを。


これは――


雨の日だけ人間になれる白い羊と、心優しき青年が紡ぐ、笑いあり、涙あり、恋あり、そして冒険に満ちた物語。

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