親友
土手っ腹に大きな穴を開けた巨体がドシンと音を立て地面に沈む。倒れた悪魔の体はまるでの灰のように風に吹かれて消えていく。どうやら死んだ悪魔の体はこの世界には残らないらしい。
「うわぁ⋯⋯」
俺の真横でミューがドン引きしていた。
「何か言いたいことでもあるのか?」
「いえ、なんでもないですポヨ」
俺が赤鬼相手にやった事は単純で、いつものようにマジカル波をぶっぱなしただけだ。正直、俺からすると挨拶代わりの一発だ。
赤鬼もその一撃を受けて立とう!と笑いながら突っ込んできて、マジカル波に土手っ腹をぶち抜かれて死んだ。バカだと思ったね、うん。
「なんで躱わさないんだあいつ」
「多分、マジカルブラスターだと思ったポヨよ。ボクたちが使うマジカルブラスターを喰らってもあいつはピンピンしていたポヨ!」
妖精が戦えた事に今更ながら驚きはする。結果は惨敗だったがな。
まぁ、魔法少女の力は元を辿れば妖精のものらしい。妖精と契約を交わすことで妖精の力を人間に託し、人間がその力を使えるようになる。それが魔法少女だ。もちろん適性がないものは魔法少女にはなれない。
俺が魔法少女の力の使い方を思い出したのは、ミューの記憶が妖精の力と一緒に逆流してきたからだと思う。
こうして、意識してみると俺のものではない記憶が確かにある。一瞬浮かんできたのはクマ畜生がセンズリこいてる光景⋯⋯うん、後で殺そう。
ミューに対する殺意はいったん置いておくとして、妖精と魔法少女で強さを比べると軍配が上がるのは魔法少女だ。
ミューを見て分かる通り、戦闘に特化した身体はしていない。ミューが特別なのではなく、妖精はみんなアニメのようなマスコットの見た目だ。
なので同じように妖精の力───マジカルパワーを使うにしても人間の方が上手く扱える。なんだったら魔法少女が使った方が強い。その理由をミューは知らないそうなので、俺なりに考えてみた。
妖精は人の善の感情によって生まれ、人の幸福を喰らって在世している。
以前、ミューが世界について話していた一文だ。つまりこいつらの存在は俺たち人間に依存している。
マジカルパワーなんてものも、元を辿ってしまえば人間からこいつらが喰らった『幸福』なんじゃないか?あるいは『善』の感情。
だとすれば元は自分たち人間の力だから親和性は高いし、妖精たちよりも適性が高い事にも頷ける。
もしかして妖精がいない方が人間にとってはいいんじゃないか?ミューを見ていると尚更その思いは強くなる。害獣でしかないもんなこいつ。
ただ、こいつが死んだ場合魔法少女の力がどうなるかも想像できない。最悪を想定すると結局なにもできない訳だが⋯⋯腹が立つのでサンドバッグにはする。
「言ってしまえば慢心か」
「そういうことポヨ」
話を戻すとしよう。とどのつまり、赤鬼はミューたち妖精が使う技と俺のマジカル波を同じものと認識した。
妖精が使うマジカルブラスターなど大した事はない!この自慢の身体で受け止めてやる。そんな感じだろうな。で、土手っ腹に穴が空いて死んだと。バカの極みだな。
幹部とはいえ、頭が足らなければこうなる。流石に幹部が全員が同じでは⋯⋯流石にないよな。そうであって欲しいものだ。
瞬殺できて良かったと思う反面、こんな脳筋チ〇コ野郎と戦う為に魔法少女になったのかって後悔しそうになるからな。頼むから俺にも『アビリティ・ストライク』みたいなバトルをさせてくれ。
「帰るか」
「了解ポヨ!」
───来客を告げる家のチャイムが鳴った。
赤鬼と戦った、およそ3時間後だ。時刻でいえば16時過ぎ。
宅配便の荷物は既に届いている。となるとセールスとかの勧誘だろうか?まぁ、インターホンのモニターを確認すれば済む話だ。
床に転がっていたミューの頭を踏みつけてから、インターホンモニターの元まで向かう。
「誰だ?」
モニターを確認して、思考が一瞬止まる。
そこにいたのは見知らぬセールスマンでも宅配便の兄ちゃんでもない。見知った男性。幼い頃からずっと仲良くしてきた親友と呼べる男が、インターホンの前に立っていた。
「なんで、啓吾が家に」
会う、なんて約束はしていなかった筈だ。メッセージでは俺のことをかなり気遣ってくれていた。飲み物とか果物を買っていこうかと、優しい提案までしてくれていた。当然、全て断った。
だから、家に来る筈がないと思っていた。
どうする? 居留守をしても構わない。鍵を持っているわけではないし、何度も何度もインターホンを鳴らすほどしつこい奴でもない。しばらく反応しなければ諦めて帰るだろう。
それで⋯⋯いいのか? 多分、出なかったら出なかったで啓吾から俺を心配するメッセージが届くだろう。
今はインフルエンザだって誤魔化すことはできているけど、いずれ限界はくる。啓吾も不審に思う。その時、どうする? 会わない選択をするか、会う選択をするか。
どっちだって選べる。会わない選択を選べば⋯⋯俺と啓吾の繋がりはそこで終わるんじゃないか?愛想を尽かされるんじゃないか?
それは⋯⋯嫌だな。
「そんな奴じゃないのは分かってるけど」
会わないだけで愛想を尽かすような奴じゃない。それは俺がよく分かってる。逆なんだ。俺が辛いんだ。啓吾に⋯⋯親友に嘘をついて騙すのがきっと、心が痛くて⋯⋯辛くて⋯⋯耐えられなくなる。
「なら、会えばいい」
男だろ、覚悟を決めろよ。
信じて貰えないと思ってるから不安なんだ。なら、それは⋯⋯啓吾に対して失礼じゃないか?俺の知ってる啓吾ならきっと受け入れてくれる。
受け入れて⋯⋯貰えなかったら⋯⋯?
考えたくないな。
多分、泣いちゃうだろうな。
色んな事に目を逸らしてきてるけど、啓吾に拒否されたら⋯⋯それこそ耐えられない。
親友なんだよ、俺にとってかけがえのない。
また、インターホンが鳴った。啓吾の性格を考えればこれが最後だろう。俺がこれで出なかったら諦めて帰る。そんな姿が容易に想像できる。
「⋯⋯⋯⋯」
会おう。会って俺に起きたことを話そう。話して⋯⋯俺だって気付いて貰おう。それで⋯⋯いっぱい俺の話を聞いて欲しい。
足は重たい。けど、確かに玄関に向かっていた。
気が重い。話して⋯⋯啓吾は信じてくれるだろうか? 見知らぬ女の話に耳を傾けてくれるだろうか? 不安はいっぱい。けど、啓吾を信じたい。
その思いで玄関についた俺はドアの鍵を開けた。大きく深呼吸をしてから、扉を開ける。
「⋯⋯なんだよ、ちゃんと生きてるじゃ⋯⋯んか」
そこには見知った顔が、驚きの表情で固まっていた。
こうなる事は分かりきっていた。この家には俺しかいない。なのにそこから知らない女が出てきたら、俺の家の事情を知っている啓吾はびっくりする。
「⋯⋯⋯⋯」
言葉が出ない。いざ啓吾と向かい合うとなんて言ったらいいか、分からなかった。俺だよ、純平だよって⋯⋯そう言葉にしたらいいのだろうか?
答えが分からない。言葉に出ない。驚いた表情で固まる啓吾を見て、少し前まで頭にあった考えが吹き飛んでいくようだ。
「純平⋯⋯か?」
───え?
なんて、言った?
なんで、こいつは俺のことを純平って呼んだんだ。俺はまだ、何も話していない。俺だよって啓吾に伝えていない。
なのに、なんでこいつは俺が俺だって気付いたんだ。
違うんだよ。何もかも。男の俺じゃない。ここにいるのは魔法少女としての俺だ。男の時の面影なんて一ミリもない、啓吾の知らない女の子なんだ。
なんで⋯⋯分かるんだよ。
「なん、で⋯⋯分かるんだよ⋯⋯」
声が震えていた。正直、今にも泣きそうだ。目が熱い。
「オレは⋯⋯答えが解るから、お前が純平だって⋯⋯分かった」
答えが解る?何を言っているんだ、啓吾?
答えが⋯⋯、解る?
『オレには答えが解る。お前に勝つ為の最適解がな』
何故その時、俺の脳裏に『アビリティ・ストライク』のワンシーンが思い浮かんだのかは分からない。
そのシーンは『Los Lobos』との幹部との戦い。
雲雀は初めて戦う幹部に大苦戦を強いられた。幹部はまるで相手の考えをお見通しのように、雲雀の全ての行動に先手を打ち、あらかじめ用意していた罠まで利用して、あと一歩のところまで雲雀を追い詰めた。
負けてもおかしくない戦いだったが、最後は雲雀の機転によって逆転勝利をおさめる。
その時、雲雀が戦った幹部の名前はソルシオン。
なんで、今⋯⋯そいつのことを思い出した?
「純平⋯⋯だよな」
初めて会う女としての俺を見て啓吾は、確信を持っているようだった。
『オレの能力は『解答』⋯⋯最適な答えをオレに導く能力だ。わかるか?オレは最初からこの能力でお前が取る行動を解っていた』
脳裏に浮かぶ、フルフェイスのバイクヘルメットを被った黒のライダースーツの男。武器は鉄パイプと、まるで不審者だ。
その見た目に反して戦いは詰将棋のように無駄がない。ソルシオン───『Los Lobos』の幹部。
主人公に敗れて⋯⋯逃げ帰った先でボスに殺された哀れな男。最後まで素顔も本名も原作で記されることはなかったな。
「俺が⋯⋯分かるのか」
「言ったろ、オレには解るって」
よくよく聞けばアニメで聞いた事があるような声だ。間違ってなければソルシオンの声と似ている。
啓吾と仲良くなったきっかけは『アビリティ・ストライク』のキャラに似ているなって思ったからだったか。特徴のある声優だったしな。
うん⋯⋯なるほど。
───お前、原作キャラかよぉぉぉぉぉぉぉ!!!
ソルシオン。イメージCV 子安さん




