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第五話 大阪女 帰る方法を知る

今日はリヒトの兄、アルフレド第一王子が、ロズマ王国から帰って来る日だ。

秋乃はリヒトと共に、ソルタニア王宮内にある、国家間の移動用の大きな魔方陣の前に立っていた。


(昨日リヒトはお兄さんを見たら驚く言うてたけど、どういうことや?)


秋乃が首をひねっていると、魔方陣が黄金色に光り出し、中央に数人の男性が現れた。


護衛兵士の後ろにいる男性を見た秋乃は驚く。

銀色の髪、紫色の瞳、がっしりとした体つき、凛々しい顔立ち。

それらは男性に歩み寄ったソルタニア国王にそっくりだ。


目を丸くする秋乃を、リヒトは横目で見て小さく笑う。


「生き写しで驚いただろう? あれがアルフレド兄上だ」

「ほんまびっくりしたわ」


小声で話しているとソルタニア国王が話し始めたので、二人は会話を止めて見やる。


「ソルタニア王国アルフレド第一王子と、ロズマ王国エレナ第一王女との婚姻が決まった!」


方々から歓喜の声が上がる中、ソルタニア国王は話を続ける。


「大国ロズマとの関係が強固になり、ソルタニア王国は磐石。第一王子アルフレドは、次期国王を継ぐ王太子だと正式発表する」

「おめでとうございます、兄上!」


真っ先にリヒトが讃えると、周りも祝福の拍手を始めた。


(めでたいなぁ!)


秋乃も割れんばかりの拍手をして祝福を伝える。

アルフレドが前に出て、口を開く。


「王太子となるからには、今まで以上にソルタニアのために私の全てを使って行くことを誓おう!」

「アルフレド様!」


アルフレドの力強い宣言に貴族達は感極まって、涙ぐむ者もいた。


(すごいわ、カリスマ政治家ってカンジでかっこええな)


秋乃はそんなことを思いながら眺めていた。


*****


アルフレドの出迎えが終わりリヒトは仕事に行き、秋乃は王宮内の厨房で料理を作っている。


「んーやっぱ美味しいわぁ、豚まん!」


出来上がった豚まんの味見をして歓喜に震える秋乃。


「ほう、肉の餡が入っていて美味しそうですなぁ。たこ焼きのように、手軽に食べられるところも良いですね」


料理長のテオの言葉に秋乃が頷く。


「リヒトが忙しそうやから、片手で食べられるモンがええかなって」

「きっと喜びますよ。冷めないうちに持って行ってはいかがですか。片付けは私がしておきます」

「ほんま? ありがとう! ほなお願いするわ。こっちの豚まんは皆で食べてや!」


テオに頭を下げた秋乃は、豚まんを持ってリヒトの部屋を訪ねることにした。

厨房を出ようとすると、侍女シータが前に立った。


「アキノ様、私がまず周囲を確認しますので、お待ちください」


秋乃の誘拐事件後、結界を張り直されたと聞いているものの、侍女シータはやや過保護になった。

何事もなく、リヒトの部屋の前に到着した。


「リヒトー、軽食を持って来たで!」


ドアをノックをして声をかけると、すぐにドアが開く。


「秋乃! ちょうど良かった……忙しくて昼食を食べられなくて」

「ほんなら、いっぱい食べや!」


秋乃がテーブルに豚まんを置くと、リヒトは歓声をあげてかぶりつく。


「うまい! 白いパンかと思ったが、パンよりもっちりしているな。中の肉の旨味が濃くて、それからシャキッとしたタケノコの歯ごたえが良い」

「気に入ってもらえてよかったわ。豚まん言うねん」


空腹だったリヒトはあっという間に平らげ、紅茶を飲んで一息ついた。


「私も秋乃に話があって、後で行こうと思っていたのだ」

「どしたん?」

「王族のみが使える書庫を隅から隅まで調べていたのだが……勇者が帰還した時の記録は見つからなかった」

「そうなんや……」

「なので、兄上が勇者の帰還について何か知らないか、聞きに行こうと思う」

「ウチも行く!」

「ああ」


リヒトと秋乃はアルフレドの部屋に向かった。

後ろには侍女シータと側近クロードがついている。

秋乃は横を歩くリヒトに話しかけた。


「お兄さんとリヒト、正反対でびっくりしたわ」

「はは、よく言われる。私は亡き母にそっくりなんだ」

「ほんならリヒトのお母ちゃんは綺麗なんやろうなぁ」


リヒトは柔和な顔立ちで、女性だったら美女やろうなと秋乃は思った。


「ウチも死んだ母ちゃんに似てんねん。やから、毎朝顔洗うたびに母ちゃんに会えとるみたいで嬉しいねん」

「! 私もいつも同じ事を思っていたんだ」


リヒトに心底うれしそうな笑みを向けられた秋乃の心臓が跳ねた。


「そっそういえばリヒトって王様になりたいとかなかったん?」

「私は中身も父上に全く似てなくて……王の器ではないから、兄上が次期国王に決まって正直ホッとしたよ」

「そうなん?」

「私は出来が悪く……山に調査に行ってもひとりで遭難してしまい、アキノに出会わなければあのまま死んでいた」

「そんなことないで! みんなのために調査に行ったんやろ? 野菜や果物の問題とかも、リヒトは真剣に国民のこと考えてるええ奴や!」

「ありがとう……」


話をしているうちにアルフレドの部屋の前に辿り着いた。


「アルフレド兄上、私と秋乃が兄上にお聞きしたいことがありまして」


リヒトがノックをするとすぐにアルフレドの側近がドアを開けた。

部屋の奥のソファーに座るアルフレドが見える。


「三人で話したいので、君たちは部屋の外に出ていてくれ」


アルフレドの命令に、側近・クロード・シータは頭を下げて部屋の外に待機した。


「アキノ、入ろう」

「し、失礼します!」


豪奢なドアが閉まる。


「リヒト、俺の留守中の活躍を聞いたぞ! 小さくてよく泣いていたリヒトが立派になったなあ!」

「あ、兄上! そんな話は……いえ、私は何もしてないのです!こちらのアキノのお陰で」


リヒトが秋乃の方を見やると、アルフレドは近づいて秋乃に握手を求めたので応じた。

厚く、大きな手だ。


「アキノ、リヒトと仲良くしてくれてありがとう」

「ウチの方こそ、何から何まで世話になりっぱなしですわ」

「ところで、兄上は勇者がどうやって元の世界に帰還したのか、ご存知ですか? 王族専用の書庫で勇者に関する記録を探してあるのですが、見つからなくて……」

「ああ、それに関して読んだことがある。女神の神殿で、当時のソルタニア第一王子が勇者の帰還を祈ったら帰れたそうだ」

「ありがとうございます兄上! アキノ、やっと帰れるぞ!」


念願の帰還の方法を聞いたリヒトは、喜びを露わにして秋乃の方を向く。

しかし、当の秋乃は複雑な表情をしていた。


「うれしくないのかい?」


アルフレドが尋ねると、秋乃は意を決して口を開く。


「あの……なんで勇者が帰還した時の記録が、王室専用の書庫にしかないんですか?」

「ほう。それが何か?」

「勇者って異世界から来て全世界を救ったんやんな? そんな英雄が元の世界に戻る時って、めちゃお祭り騒ぎになるやろうし、勇者が来た時や戦った記録は他の国にも伝わっとるのに、帰った時のことだけこの国の王様すら知らんのが、ふしぜ……不思議やなって……」


秋乃は言いながら、蒼月が言ったことを思い出していた。


「ーー他の国? ああ、東の蛇の入れ知恵か」

「兄上!? どういうことです!?」


アルフレドの低い呟きに、リヒトが驚く。


「リヒトがいくら王室の書庫を探しても見つかるわけがない。だって、俺が持っているのだから」

「なぜ!?」


困惑しきったリヒトに、アルフレドは射貫くような目を向けた。


「リヒト、お前もソルタニア王族の一員として、闇を背負う覚悟があるか?」


リヒトは一瞬怯んだが、深く息を吐いた後、「もちろんです!」と強い眼差しで答えた。


すると、アルフレドが手を掲げて何か唱える。


「今、周りに防音結界を張った。これで会話は誰にも聞かれない」


そこまでしなければいけないのかーーリヒトと秋乃は固唾を飲んだ。

アルフレドが懐から出したのは、小さな本。


「この手記は、持ち主である当時の第一王子が命を使って永続防衛魔法をかけたから、処分することができないんだ」


アルフレドから手渡されたそれを、リヒトと秋乃は静かに読み始めた。



《○月✕日


信じられないことが起きた。

勇者に話があり部屋を訪ねると、ソルタニア王国第二王子のヴァルガが、勇者を襲おうとしていた。

すぐに拘束魔法を使ってヴァルガの動きを止めた。


両手両足を封じられたヴァルガは『もし魔王が復活した時に聖魔法持ちがいなかったら、また地獄に戻る! そのためには、聖魔法を持った子供を生ませなければ』と喚いていた。


私は勇者を連れて女神の神殿に急いだ。

イシェーラ像の前で勇者の帰還を祈ると、勇者の全身が現れた時と同じように白い光に包まれた。

光が消えると勇者の姿も消えていた。

未遂とは言え、全世界を救ってくれた少女に対してこんな愚行は絶対に許されることではない。

真実をここに記し、揉み消されぬよう、私の命を使って永続防衛魔法をかける》


手記の最後には、当時の第一王子の名前エルバートと血で記されていた。


読み終えたリヒトは力なく崩れ落ちる。


「ソルタニア王国史には、ヴァルガ王子は事故死と書いてあったのに……」

「事件を知った当時のソルタニア国王が、罪を償わせるために事故死"させた"のだ」


アルフレドの追い打ちにリヒトは顔を覆う。

秋乃は、勇者教信者たちに誘拐された時のことを思い出していた。

秋乃という人格を無視され、転移者という属性だけで誘拐・軟禁。

彼らは一度たりとも秋乃自身の名を呼ぶことはなかった。

おそらく知らなかったのだろうし、知ろうとも思わなかったのだろう。


(勇者は元の世界で幸せになってたらええな……)


「今の世界平和は勇者なくてはあり得なかった。勇者は約100年経った今も、全世界で慕われている。そんな世界の救世主を、当時のソルタニア王国の第二王子が人権を蹂躙する行いをして、勇者は逃げるように元の世界に帰ってしまった。

この事実が露呈したらどうなる? ソルタニア王国の信頼が揺らぐ。

大国ロズマの王女との婚姻も白紙。

勇者を信愛する者が多い国は、ソルタニアとの国交を断絶するだろう。

ソルタニアは古い国だが、強大な国ではない。あっという間に滅びかねないのだ。

だから俺はソルタニア王国のために隠し続けるーー間違っているとしても」


アルフレドは苦しげに目を閉じた。

リヒトは立ち上がり、第一王子の手記をアルフレドに渡す。


「……アキノ、女神の神殿に行こう」

「えっ!? それどこにあるん……?」

「王宮の地下にある」


リヒトが秋乃と共にアルフレドの部屋から飛び出し走って行くのを、ドアの横で待機していた侍女シータと側近クロードが驚きの顔で見ていた。


「!? お二人ともどこへーー」

「二人だけで行かせてやれ。行き先は王宮内だ、危険はない」


追いかけようとしたシータとクロードを呼び止めたのは、アルフレドだった。


「もしや、わかったのですか……? 帰り方が」


シータの問いにアルフレドはただ頷いた。


*****


「……リヒト、イシェーラってどんな神様なん?」


神殿に向かう階段を降りながら、秋乃はリヒトに尋ねる。


「女神イシェーラは聖なる力……聖魔法を司る神だ」

「聖魔法……勇者だけが持っとった魔法やね。魔法力は遺伝性って聞いたけど、どうして異世界の勇者しか使えなかったんや?」

「それは、魔王が聖魔法を使える人達を……幼児に至るまで皆殺しにしたからだ、と歴史書に記されている」

「……そうなんや……」


残酷な事実に秋乃は言葉を失った。


「着いた、ここが女神の神殿だ」


両側には立派な白い石柱が並び、中央に美しい女性の石像が建っている。

神殿は簡素で古びてはいるが、それが逆に神聖な雰囲気を醸していた。


「約100年前、勇者がここに転移して来たんやっけ」

「そうだ。……勇者がこの世界に転移してきたのは、ソルタニア国王が世界平和を願ったから。そして、第一王子が帰還を祈ったら勇者は帰れた。つまり異世界転移は、ソルタニア王族が女神イシェーラの力を介して起こしているのではないか?」

「ウチが転移した時は、女神の神殿やなかったのになんでやろ……?」

「女神イシェーラよ!どうか、お答えください!」


リヒトが女神イシェーラ像の前に跪き、両手を組んで叫んだ。


「ちょっリヒト! 待って!」


慌てる秋乃の目の前。

女神像が白く輝き、そしてーー女神イシェーラが現れた。


目を丸くして驚く秋乃を見て、イシェーラは慈しむような微笑を浮かべる。


『あぁ、秋乃……華乃(かの)の面影があるわね……』

「華乃はウチのひぃばあちゃんの名前やけど……なんで知っとるん!?」

「カノは勇者の名前だ」

「えぇ!? どういうことや……?」


女神イシェーラは語り始めた。すべての真実をーー



つづく

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