0章転生先は悪役令嬢
1992年、夏。
栄二は嫌な夢で目が覚めた。
「くそ……嫌な夢をみたな。」
栄二は冷や汗でぐしゃぐしゃになった浴衣の襟首をつかんだ。
「そういえば、今日は緑の晴海の手伝いもあるんだった。」
栄二は嫌な夢を頭の中から振り払うように頭を掻きむしった。
外を見ると暗闇だった。
「まだ、夜が明けてもいないのか……。」
栄二はまた目を瞑った。
今度はゆっくり寝られそうな気がした。
そして、気がつくと夜が明けたのか鳥の鳴き声が聞こえた。
「何とか……眠れた。」
二度寝のせいで体にだるさが残っている。
「あの変な夢さえなければなぁ……」
栄二は思い返した。
どうして自分は女だったのか。どうして竜と共に戦場にいたのか。
いやいや、それよりもどうして自分が高貴な服を着ていたのかまるで辻褄が合わない。
「緑の奴のお気に入りの小説を昨日見かけたりしたからか?」
理由はそれ以外考えられない。
それを考えても時間は無駄なような気がしたので朝食を食べて、緑の待っているステーキハウス麒麟で晴海の話し合うという名目の昼食会の予定である。
だか今回はそれだけではないようで、緑はニコニコしながら金髪縦ロールの女の子が赤いドラゴンの上に乗っている表紙を見せながら話してきた。
表紙には
アリスの秘密の扉
2エミリーと赤いドラゴン
作者:マーガレットミッシェル
翻訳者:鈴木晴子
挿画:赤城洋子
と書いてあった。
栄二はパラパラと適当にページをめくって本の内容をチラ見する。
「緑……こんなの読んでいるのか?」
栄二の疑問にも答えず、黒髪ワンレンの肩パッドをした女子、緑は答えた。
「これ面白いのよっ!確かアリスのライバルのエミリーって子がいるんだけどそれがもうライバルでさ、ガラスの仮面の姫川亜弓みたいな感じの子でさ〜」
緑は早口でぺちゃくちゃしゃべる…
栄二はまだ本の中身をまた読み直そうかと思った位だ。
「……、俺にこの本をじっくり読めってのか?」
「そこまで、言ってないけれども、読んでいた方が晴海の時に困らないでしょー?」
緑はコーヒーフロートのアイスをスプーンですくいながら話した。
栄二は緑のわがままに付き合う事にした。
「他に、キャラクターが出てきているのかい?」
「出てきてるわよ。たしかシンシアでしょー、リリーナでしょー、後はカッコいいケイトとか、優しいジセルとか。」
緑は栄二が飲んでいるアイスコーヒーが飲めなくてさらに冷たくなる位の勢いで話していた。
「男性キャラクターも魅力的なのよ、エミリーの婚約者のレオナルド王子!、ウィリアム君もいいけど、庶民出身のジャックが一番カッコいいのよ!聖女様助けたりとか」
「……、あーはいはい」
緑のおたくトークを、左から右に聞き流していた。いくら姪っ子だからといって晴海の協力する程なので、話しまくるのは仕方ないだろう。
「緑ー、お前の話でアイスコーヒーが薄くなるじゃねぇか。」
栄二は呆れながらアイスコーヒーを一口飲んだ。
「ナタリー様が聖女でさー。」
緑はよどみなくしゃべり続けた。
しゃべり続けたおかげてショッキングピンクの口紅が消えている、
「そんなに話しているいるからあ、コーヒーフロートの上のアイスクリームが溶けてしまっているじゃんか。」
栄二は緑のコーヒーフロートのアイスがコップから溶けて溢れそうになっていた。
「もっと早くに言ってよ〜」
緑がスプーンで溶けたアイスの部分をすくういながら飲んで話を続ける。
「アリスの住んでいるパトリック公国は森が広がる雄大な自然のあるヨーロッパとかのイメージの世界でお城もあるし!綺麗な川もあるし。」そのアリスの秘密の扉の世界観の良さとモデルの場所の話も。し始めた。
「そういえば、アリスの秘密の扉は寄宿舎があるんだよな」
栄二はアイスコーヒーを半分位飲みながら聞き返す。
そうでもしない限り緑のおしゃべりに負けてしまいそうになるからだ。
「エーデルワイス学院の事ね!」
緑はまた続ける。
「エーデルワイス学院は本の挿絵のイラストがとーっても細かくて、ステンドグラスや教会、私が一番好きなのは監督生の服かな?」
まだ緑は話している。
栄二のアイスコーヒーが飲み終わった頃、四角く大きな電話機、携帯電話から着信音が鳴っていた。
電話を取ると、優しいが緊張感のある声が聞こえた。
でも、ステーキハウス麒麟では今はまずい時間帯だ……
人もお昼時で多いし!何より緑がいるので仕事の話は出来ないだろう。
「悪いけどちょっと電話が来たから席を外して話してるわ!亅
「何の電話!」
「外に出て、話してくるわ」
栄二はそう言って外に出た。
ステーキハウス麒麟は冷房がきいていたのか、外に出ると熱気で頭がくらくらした。
ステーキハウスは裏通りに面しているので人通りもまばらである。
「これなら、聞かれないか……」
栄二は壁にもたれて話を聞いた。
『兄貴!』
「竜雄!」
電話口から聞こえる声がおっとりした口調でありながら危機感を伝えていた。
『蛟龍会って知ってますか?』
竜雄は、ゆっくりと話し始めた。
「蛟龍会……だと?」
栄二の眉間が険しくなった。
特定指定暴力団『蛟龍会』
最近力を伸ばしている暴力は団で栄二のいる四龍会の宿敵になりそうな程力をつけているのだ。
『あいつ等のナンバー2はもうとっくに俺らが締め上げたはずだろ?』
栄二は聞き返した。
その発言に竜雄は電話の向こうで黙ってしまった。
「それが……蛟龍会の奴らもおとなしくしている訳もなくて俺等のショバを荒らしまくっているんですよ。』
「例えばどんな事だ?」
栄二は聞き返した。
『俺等が取り立ててるみかじめ料を下っ端から騙し取ったり、後祭のテキヤの場所を妨害して蛟龍会しか使えないように仕組んだり、そりゃやりたい放題ですわ。』
竜雄は深くため息をついた。
『俺等の下っ端の康夫が殺されましたしが、蛟龍会のリンチだったようで……。』
竜雄は言葉を詰まらせた。
それは死体の状態はあまり良くなかったた、死体がが見つからないよりか。
康夫は山奥に蛟龍会の車で箱パラで捨てられたのだ。
栄二は冷や汗を浮かべながら聞いていた。
アスファルトの照り返しの熱にやられていたのもあるが、最近力をつけてきた相手の仁義の無さも、栄二の取っては、冷や汗をかかせる程の恐怖だった。
『だから、俺等5人でカチコミに向かうことに決めました。』
竜雄は決意を固める。
『狙撃手の信一、、格闘のリョウ、暗殺の敬太、日本刀の仁です。』
栄二には顔が一人一人思い浮かんだ。
「この、5人で戦うのか?」
栄二は竜雄の発言は疑問符だらけだった。
第一目的のためなら手段を選ばない蛟龍会てある。たった5人で立ち向かえるのが心配をしていたので思わず栄二は口を開いた……。
「俺も行くぜ!そうすれば敵討ちが出来るだろ!」
栄二は息巻いて話した。
『それじゃ、帰ったら作戦会議しましょうか。』
竜雄は、そう話した後に、電話を切った。
(でっけぇ事になってしまっているじゃねぇか……)
栄二は心の中でそう呟いた。
『栄二さーん!何話していたの?』
ステーキハウス麒麟の中から大声で呼ぶ声が聞こえた。
緑が呼んでいるらしく、ステーキハウスの中がざわざわしていた。そんなに呼ばなくてもいいだろうと思いながらステーキハウスの中に恥ずかしさのあまり元の席に戻った。
「何の話をしていたの?」
緑は残っていたコーヒーフロートを飲みきったのか空っぽになったコップと白い皿……。
多分海老ピラフでも頼んだのだろう。
ご飯の粒が少しだけお皿についていた。
「昼食は要らねぇ」
栄二は緑に昼食は食べない事を伝えると。緑はけげんな顔をした。「もしかして……たっちゃんが報告してきたのね。」
緑は竜雄の事は知っているし、下手するとよく金銭や勉強まで教えてくれた恩人みたいな人だ。
「でも、明日は夏コミの荷造りだもん。」緑は、困ったような顔をした。。
「分かった、荷造りだけでも手伝うから。それでいいだろう?」
栄二は緑を説得させた。
そして、栄二はステーキハウスを出て、家に帰った。
家に帰ると竜雄と、信一リョウ、敬太、仁が首を揃えて待っていた。
「お前ら、本気なのか?」
全員の首が頷いた。
「蛟龍会ってのは!何をしてくるのか分からないし、下手子いたら死ぬぞ。分かってんのか!」
栄二はドスの効いた声て脅した。
「わかっていますよ。」
狙撃手の信一は口を開いた。目の前で正座をしている茶髪の男がそうだり
髪色と態度で見た目がチャラそうと判定されそうな男たが仕事は実直である。
「でも、このまま一方的にやられてばかりもいられねぇと思います。」
スキンヘッドのいかにも武道の心得のありそうな男性、格闘のリョウが武骨な見た目の感じで栄二の言葉に珍しく反論した。
今までならば、リョウも黙って聞いていただろうが、どうも今回ばかりは違うらしい
「下手したら全滅するかもしれません」
紳士のような見た目の親父の代から仕えてい暗殺の敬太は答えた。
名前とのギャップに驚かれるだろうが、彼は四龍会に何年もいるベテランなのである。
「誰だってあんな奴ら相手にするのは怖いが構成員の一人がリンチされて黙っていられるかっての」
リョウとは違った武道の心得のありそうなのは日本刀の仁。
黒い髪を一つにくくって、胡座をかいている。
「確かに、こっちも防戦一方ではいつか潰されるかもな。」
栄二は、皆の話を聞いていて、手に顎を添えて考えた。
ふと、栄二は外が気になって外を眺めたら夕立が来ているのが、雨がしとしとと降ってきた。
枯山水のある庭が、雨に濡れ始めた。
「こりゃ、明日はひどい雨にかなりそうだぞ。」
栄二は雨の様子を見ながら話した。
「大丈夫ですよ。」
信一が心配ないとばかりに、返事をした。
「明日の天気予報もちゃんと確認してあるからな。カチコミに行くには其れ位しておかないと頭の面目が立たねぇ。」敬太はきっぱりと言い切った。
「だから大丈夫ですよ……兄貴は俺等の士気を上げる役として来ていればいいのですから。」
竜雄は栄二に対してお願いをしてきた。
「お前らの決意は固いんだな」
栄二は竜雄や他の4人の話を聞いていたほっとしていた。
栄二は安心したのか緑の言葉を思い出してぎょっとした。
(確か…緑の奴、晴海の荷造りをすると言っていたよな……)
いつも晴海の荷造りはいつ頃していたのだろうかとカレンダーを確認していたら、シンプルな、日にちのカレンダーの思いっきり明日に赤丸を着けていた。晴海の日に至っては花丸の印であった。
「明日はカチコミの応援遅れるかもしれない。」
思わず栄二は呟いた。
(緑の性格と、同人誌の量だからな……)
栄二は昨年の晴海の手伝いを思い出して頭を抱えていた。
昨年の晴海は既刊と新刊本
段ボール5箱位あった。
しかも、一冊一冊が分厚く、箔押しとかもしてあった。それを丁寧に扱ってねー!と頼まれるのだ。
考えただけでも頭が痛くなった。
果たして、カチコミの時間に自転車を飛ばして間に合うだろうか。
(今日の件だって、延々と自分のおたくトークでアイスコーヒーも飲めるチャンスもなかったからな。それプラス竜雄からの電話で昼飯すらも食べてない)
栄二は舎弟5人との話し合いの後に解散して家で一人黙々とカップラーメンを昼食にして、食べ始めた。
定番の醤油味にしたのは今日は沢山考える事がありすぎて、どの味にしようかも気力がないからだ。
(緑の話以上に、蛟龍会へのカチコミか……四龍会始まって以来の大事件だぞ……!)栄二は心の中でそう思った。
蛟龍会へのカチコミは刻々と迫っていた。舎弟の5人もカチコミへの支度をし始めてあいるだろう。
特に竜雄は、決意が固まっていた。
外は雨がまだしとしとと降り続いていた。今朝までの事だった。




