回復魔法は破壊力
なんか楓お姉さんのやる気がUPするような出来事でもあったのかなーっと首を傾げつつ、大人しくなった青年の骨折箇所に腕をかざす。
そして、回復魔法の呪文を唱えながら、骨折箇所に直接魔力を流し込んだ。
回復魔法とは『時間を戻してケガや病気になる前の状態にする』という理屈らしい。
いや理屈じゃないじゃん。トンデモじゃん。と突っ込みを入れたかったけど、本にはそう書いてあったのだからどうしようもない。文句なら本を書いた人に言ってほしい。……なぜかあの銀髪お姉さんの姿が思い浮かんでしまう私だった。
大体このくらいかなーっというくらい魔力を注ぎ込むと、青年が驚愕の声を上げた。
「お、おおお!? 痛みが引いていく!?」
引いたのなら大丈夫かな?
一応青年の腕を改めて視てみると――うん、骨折した場所がつながっているね。すごいなぁ回復魔法。
…………。
……うん?
なぁんか、骨折した腕に私の魔力がまとわりついているけど……大丈夫な、はず。たぶん。きっと。おそらくは。しばらくしたら抜けるんじゃない?
と、周りの人たちも「どうやら骨折が治ったらしい」と察したみたい。
「おい、治ったのか!?」
「たったあれだけで!?」
「まことか!?」
他の人には骨折の詳しい状況までは見えないはずだけど、腕の腫れが引いていることは分かるので驚きつつ青年を取り囲む。
「おお! まことだ! まったく痛くない!」
青年が喜びからかブンブンと腕を振り――勢い余ったのか、近寄っていた一人の男性の肩に当たった。
瞬間、バキィっとした音が中庭に響き渡った。骨折した青年から、ではなく、青年の腕がぶつかった男性から。
「ぐ、ぐおおお!?」
「おい、どうした!?」
「すごい音がしたぞ!?」
「まさか、肩が外れたのか!?」
「あれだけで!?」
なんかやばそうだなーっと思った私は、肩からやばい音がした男性を視た。
……あら、肩が外れてる。
たったあれだけで?
当たり所でも悪かったのかなーっと首をかしげた私は、ふと気づく。そういえばあの青年。骨折が治った場所に私の魔力がまとわりついていたなと。
…………。
……まさか、私の魔力が変な影響を及ぼしたとか?
いやいや、
そんなまさか。まさかそんな。
ありえないなーっと思いつつ、とにかく今は肩が外れた男性を治すべきかと考え直す。
魔力を注ぐ。
肩が治る。
そして、やはり肩にまとわりつく魔力。
なんかヤバい。
ヤバいと私の直感が言っている。
「……すみません、ちょっと石を投げてみてもらえますか?」
「へ? あぁ、印地打ち(投石)ですか?」
「はい。肩が治ったかどうかの確認に」
「そういうことですか。どれ、姫様に自慢の腕をお見せしましょう」
投石は意外と殺傷能力が高く、戦国時代でも多用されていたらしい。で、武を重視する伊達家では中庭に的を作り、印地打ちの鍛錬もやっているのだ。
丸太を地面に立てただけの簡単な的。塀のすぐ近くに立てられているので外れた石がぶつかり、塀のところどころが傷んでいる。
でも、それはあくまで表面が傷む程度。人間の力ではそれが限界だ。
だというのに。
「――ふんっ!」
男性が投げた石は丸太を貫通し、壁にめり込んだ。
鉄砲でも丸太を貫通するのは無理なんじゃない? ましてや投石でなんて。
…………。
……う~ん、これは気のせいじゃなさそう。
間違いなく私の回復魔法が原因だ。
「……姫様は、もしや、力加減に苦労なさっておられるのですか?」
楓お姉さんが――私の机破壊から今日の出来事まで見守ってきた楓お姉さんが、なんとも遠まわしに「魔法が下手くそなので?」となじってきた。泣くぞ?
う~ん、これは力加減を鍛えなきゃダメか。数をこなした灯火はちゃんと力加減ができるようになったから、不可能じゃないと思う。
問題は、回復魔法の力加減ができるようになるまで、ぶつかっただけで相手の肩を外してしまう腕力や、丸太をぶち抜く肩を量産してしまいそうなことだけど。
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