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忍者?

「んぁ?」


 目を覚まし、布団から上半身を起こす。――たったこれだけのことを無理なくできるのたまらなく嬉しい。前世ではもう起き上がることすらできなかったからなぁ。


「さて、と」


 お姫様は暇というわけではなく、日中は習いごとをしたりして過ごすそうだ。けれど、私は死にかけたばかりだということでしばらくゆっくりするよう仰せつかっている。


 なので今日は爺に案内されて、伊達家の名古屋屋敷にある文献を読ませてもらうことにした。爺によると過去にも銀髪になったり、別の世界のことを思い出した人がいたそうだからね。


「おおー」


 爺に案内された書庫は思ったよりも狭かった。大名の屋敷の書庫だからもうちょっと大きいのかなと思っていたんだよね。まぁ、それだけ本が貴重ってことだろうか?


 本や本棚にはうっすらとホコリが積もっていた。あまり頻繁に読まれている感じじゃないみたい。そもそもまだ読書趣味というか習慣がないのかもね。


「姫様。こちらの棚が魔術関連の書籍となります」


 爺が指し示してくれた棚には、数十冊の本が並べられていた。


「意外と多いですね。魔術にハマった人でもいたんですか?」


「いえ、伊達家にはかつて将軍家から魔術使いが輿入れしてきまして。その御方の持参品で御座います」


「へぇ、そうなんですか」


 将軍家由来のものであるおかげか、こちらの本や本棚にはホコリが積もっていなかった。この維持管理のついでに他の本棚も掃除すればいいのに……。


 しっかし、将軍家から嫁をもらえるって、この世界の伊達家って結構重要なポジションにいるとか? いや、もしかしたら前世でも嫁をもらっていたのかもしれないけど。その辺は詳しくないんだよなぁ。


 ちなみに。

 自動翻訳(ヴァーセット)のスキルをもらった影響か、爺たちの言葉も何となく分かりやすいものに変化したような気がする。まぁ私の耳が江戸時代語(?)に慣れただけかもしれないけどね。


(あ、言葉といえば)


 書庫の本に注目する私。背表紙もない、いわゆる和綴じ本だ。


 こういうのって、ミミズがのたくったというか、にょろにょろとした字で書かれているのでは? それだと私じゃ読めないなぁ。爺や他の人に朗読してもらうのも悪いし……。


 ちょっと不安に思いながらテキトーに一冊抜き出してみる。表紙に書かれていたのは『魔術の基礎・1』という文字。

 なんだろう? にょろにょろした字なのに、自然と読むことができる。これももしかして自動翻訳(ヴァーセット)のおかげなのかな?


「読めますね」


「そうで御座いますか。では、ごゆるりと。拙者は別の仕事がありますので」


 爺は奉行といって、他の藩で言うところの家老(江戸詰家老)というものらしい。まぁつまり、江戸における仙台藩の活動を取り仕切る立場なのでとても忙しいのだとか。


「はい、ありがとうございました。書庫の本はどれでも読んでいいのですか?」


「えぇ、ご自由に」


 爺が恭しく一礼してから出て行ったので、手にとっていた『魔術の基礎・1』という本を読み始める。


 ……ほうほう? まずは自らの中に流れる魔力を感じ取り、それを自由に動かせるように……?


 魔力自体は感じ取れている。あのお医者様(?)が魔力を流し込んでくれたからだ。あのときよりはマシになったとはいえ、今も血管に血以外の『何か』が流れている気がするし、心臓がもう一つできたような感じがある。


 その、もう一つの心臓に意識を集中。

 出力を絞ったり、増やしたり。手を握るような感覚で魔力(?)の量を増減させることができた。

 ただし、これで本当に合っているかどうか自信はない。


(う~ん、お姉さんももう少し教えてくれれば良かったのに……)


 布団に倒れた後。気がつくともういなくなっていたんだよね。


 まぁ文句を言ってもしょうがないということで、本のページを捲る。初心者向けの訓練に風の魔術を飛ばすというものがあったので、それを試してみることにする。少し離れたところに蝋燭を立てて、火を消せたらもう少し離して――というのを繰り返して訓練するみたい。


 蝋燭はなかったので、机の上に本を縦にして立ててみる。これが倒れれば風の魔術が出たってことだ。


 蝋燭の火を消すより本を倒す方が強い風を必要としそう。というわけで、魔力を多めに使って魔法を使ってみることにする。


「え~っと? ――風よ、我が元へ(ヴェントゥス)!」


 立てて置いた本に手のひらを向け、呪文を唱えてみる。


 すると、上腕部から魔力が抜け、手のひらから放出された。ような感覚があった。


「わ!?」


 風の魔法を受けたのか、本は机ごと吹き飛び、本棚は軋み、何冊もの本が床に落ちる。


 机は近くの壁にぶち当たり、天板に大きな亀裂が入った。魔法を受けた衝撃のせいか、脚は全てへし折られている。


「……え? うそ……?」


 ちょっと呪文を唱えただけなのに、机がバラバラに。もしも人力でこれほどの破壊をしようと思ったら……素手では絶対無理。大きなハンマーとかを使わないと……それでもどれだけの体力が必要となることか……。


「これは、ヤバいわね……」


 魔法の威力。そして、机の弁償が。いやお姫様なんだから請求書が送りつけられることなんてないだろうけど……。どうしよう? 庭に埋めて隠しちゃう?


「――ご安心ください」


「ひゃい!?」


 いきなり背後から声を掛けられて私は飛び上がった。え? え!? この部屋には私以外誰もいなかったよね!? なんかいかにも『くノ一!』って格好をした女性が片膝を突いているんですけど!?


「机の残骸については我らが処分いたします。片倉様への報告も我らが。お怪我などされては大変ですから、姫様は触れられぬようお願いいたします」


「あ、はぁ」


 我らってことは他にもいるんですか?

 片倉様って、爺のことですか?

 ずっとこの部屋にいたんですか?


 など、など。聞きたいことはたくさんあったけど、とりあえず一番気になっていることを尋ねることにした。


「お姉さんは忍者ですか?」


「お姉さん……? はっ、我らは伊達家にお仕えする黒脛巾(くろはばき)組で御座います」


「つまり、忍者?」


「……はっ、忍者でよろしいかと」


「お姉さんのお名前は?」


「は? その、影の者なので名前など……」


「そういうの、いいですから」


「……楓で御座います」


「じゃあ、楓お姉さん。片付けをお願いしてもいいですか?」


「片付けは当然行いますが……その、ここならとにかく、他の者がいる場所で名前を呼ばれますと……」


 忍者だから名前も秘密なのだろうか? なにそれ格好いい。


「なら、お姉さんで」


 おっとそれだと医者(?)のお姉さんと被っちゃうのか。……ま、いいか。また会うかどうかも分からないし。


「…………。…………。……ご随意に」


 なぁんか微妙そうな顔をしつつ頭を下げる楓お姉さんだった。





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