探知魔法
今日もまた転移の屋敷から名古屋城へ。馬車を使うよりこっちの方が早いからね。
詳しい話は聞いてなかったというか、晴明さんが長考に入ったので聞けなかったのだけど。どうやら私は毎日のように陰陽寮へと通うらしい。
もう給料をもらってもいいのでは?
いや、教えてもらう立場だから逆に授業料を支払わなきゃいけない立場……? 安倍晴明の直系からの授業料とかメッチャ高そう……。うん、何も言われていないから必要ないのでしょう、きっと。
まぁとにかく。あの人は不機嫌なままだというし、エンカウント率が下がるから渡りに船というものじゃないだろうか?
陰陽寮に到着すると、晴明さんが出迎えてくれたので私は一つ質問してみた。
「昨日使ってた魔法陣ってもう消しちゃいました?」
「? いえ、まだ残してありますが」
「じゃあ、私が使ってみてもいいですか? 実地研修ということで」
「姫様であれば基礎訓練は必要ないでしょうが……誰か探しているのですか?」
「誰か、というか……。昨日町を歩いていたらまた子供が五人も行方不明になったみたいで。その子たちを探せないかなぁとですね」
「はぁ、子供捜しですか。何とも甘い――いえ、お優しいことで」
ボソッと本年を漏らしてから晴明さんはアゴに手を当てて悩み始めた。
「そうですなぁ。今は地脈がどれだけ乱れているか分かりませんから……いや、姫様であれば地脈の力を使わずとも自前の真力で儀式を行えますか……。あとは、子供に関する物品があればさらに探しやすくなるでしょう」
「物品ですか」
「えぇ。名古屋だけでもどれだけの子供がいるか分かりませんから。何らかの『縁』があるものがあれば、糸を辿るように目的の子供を探せるでしょう」
「ほっほ~う」
いくら何でもそんなものは持っていないし、これから探しに行くのも大変だ。
というわけで、私は部屋の中を視た。……すると、何もなさそうな壁に例の『ステータス』の表記が。つまりあそこに誰かいるってことだ。
その壁の前まで移動し、声を掛ける。
「すみませーん」
「…………」
どろり、と。
壁の一部が溶けた。
いや、溶けたというか、人型のものが溶け出たとでも表現しようか?
何とも奇妙な方法で出現したのは……初めて登城したとき、私を迎えに来てくれた忍者さんだった。
「いやいや、参りました。姫様相手では忍びを廃業しなければなりませんね」
「陰陽師相手ならバレちゃうんじゃないですか?」
「いやいや、いやいや、そこは他の者の反応を見ていただければ」
「?」
私が振り返ってみると、晴明さんだけでなく、室内にいた陰陽師さんたちが目を見開いたり絶句したり腰を抜かしたりしていた。あれみんな気づいてなかったの?
侍女風の服を着て付いてきていた楓お姉さんだけは「えぇ、当然気づいていましたとも」という顔をしていたけど……ほんとかなぁ? ほんとに気づいていたでござるかぁ?
「姫様は自覚のない御方ですなぁ」
「なぁんか、バカにしてます?」
「まさか、まさか。最大限の敬意を抱いておりますとも」
「まぁいいですけど……。忍者さんの方で行方不明の子供について何か情報を掴んでます?」
「それはさすがに……。職務の外で御座いますなぁ」
「あー、そりゃそうですよねー」
じゃあ、若様にお願いして奉行所に連絡とってもらおうかな? と考えていると、
「いや、いや、そうですな。こちらから奉行所に人をやって、子供に『縁』のある物品を借りてくることもできましょう」
「いいんですか?」
「えぇ。姫様が派手に動かれるよりは遥かにいいでしょう」
「…………」
なぁんか、「何かやらかされると後処理が面倒だから動くなよ?」と言外に注意されているような?
◇
私が晴明さんから別の魔法を習っていると。忍びさんが木箱を抱えて持ってきてくれた。
「姫様。こちら、奉行所より預かってきた物品で御座います」
「え? あ、ありがとうございます。……早くないですか?」
「皆様からご協力いただけましたので」
「…………」
皆様。
それは、行方不明になったという子供の家族のことだろう。
「これらの品々は、我が子を思う親から借り受けたもの。どうか、丁重に扱ってくだされ」
「…………」
そう。『行方不明になった子供5人』というのはただの情報だけど、その先には我が子が行方知れずとなり心配で夜も眠れない親がいるのだ。陰陽師に縋るしかない家族がいるのだ。
それを忘れてはいけない。
…………。
深呼吸。
魔法陣の中心に『縁』ある物品を並べていく。擦り切れた和服。竹とんぼ。片方だけの草履……。
子供たちに会ったことはない。
でも、それでも。これらの先にある日々を察することはできた。
…………。
晴明さんに教わりながら、儀式を開始する。本来なら地脈の魔力を使うそうだけど、地脈はどれだけ乱れているか調査中らしいので自前の魔力を使う。呪文を唱えつつ魔力を注ぎ込んで――
――視えた。
視えた、けど。これは……。
つまり……。
――そういうこと、なの?
「? いかがなさいました?」
晴明さんが問いかけてきたので、勤めて平静を保ちながら返事をする。
「いや、う~ん? 何か見えた気がするんですけど……う~ん?」
首をかしげる。
すると、晴明さんは納得してくれたようだ。
「初めてですからまだ『感覚』が研ぎ澄まされていないのでしょう。しかし、何かが見えたというのなら僥倖。つまりは所持者である子供は生きているのですからね」
「そう、ですか……」
「ふむ。少々顔が青いですな。やはり初めてでは消耗が激しいですか」
「そう、みたいですね……」
「では、今日の授業はここまでに致しましょう。体調が優れぬなら明日もお休みになってくだされ」
「……じゃあ、そうさせてもらいます」
ちょっとふらつく足取りで、私は転移の井戸に向かったのだった。




