名古屋城天守
じゃあさっそく町歩きでもするかーっとのことで、私たちは茶屋をあとにした。
「名古屋ってどこか名所とかあるんですか?」
「うむ。やはり一番の見どころは名古屋城天守となろう」
「おー! 天守閣! まさか中に入れたり!?」
「はっはっはっ、さすがに無理だ」
「ぬぅ、残念無念……」
「……天守に入りたがるとは面白き女よな」
「そうですか? デッカくて、格好良くて、高い! そりゃあ一度くらい登ってみたいと思いません? 天守最上階で『この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたることもなしと思へば』って一句詠みたくありません?」
「はっはっはっ、分からん」
分からないらしい。ロマンのない人である。
「……よく考えてみれば、名古屋城天守閣を見たことはないですねー」
なぜなら私は半引きこもりで、私のメイン行動範囲(自室、中庭、書庫)からは天守閣が見えないからだ。というか伊達屋敷からだと大櫓が邪魔してほとんど見えないのだとか。
「ほぉ。まぁ大大名の姫ともなれば屋敷から出るもの難しいと聞くからな。ほれ、ここからならよく見えるぞ?」
春様が背後を指差したので振り返ると――
――おー!
……おぉ?
名古屋城、天守閣?
私の記憶にあるのはなんか緑っぽくて、どっしりしていて、金のシャチホコがあるお城だ。壁の色は白。
でも、私の目に飛び込んできた名古屋城天守閣は――金。赤。黒。白。と、なんだか色んな色が使われてド派手だった。瓦は黒っぽく。壁は黒と白。所々が金や赤で装飾されている。
なんというか、どちらかというと安土城天守閣っぽい? いや織田信長が建てたのだから当たり前だろうけど。
正直、記憶にある名古屋城と色々違いすぎて脳が『名古屋城』と認めるのを拒否していた。ほんとに異世界に来たんだねー今さらながら。
◇
「うむ、せっかくの町歩きなのだから普段は行けないようなところに行ってみるか」
「と、言いますと?」
「市場よ」
「おー、市場。それは確かに行けませんね」
「だろう?」
なんか背後で幕府&伊達家のニンジャーズがざわめいた気がするけれど、気のせいに決まっているので気にしないことにする。
「厄介なのが二人に増えた……」
楓お姉さん? 聞こえてますよ? 一人目は誰のことかなー?
それはともかく市場に到着。イメージでは地面にゴザでも敷いているのかなと思ったのだけど、簡易ながらも木製の屋台が建てられ、かなりの盛況だった。
おー、時代劇じゃ果物とかあまり見ないけど、たくさん売っているね。リンゴに、みかんに、バナナ。――バナナぁ!? そんなバナ(自主規制)。
「バナナとか売っているんですねぇ」
「うむ? ……ああ。仙台では見ないのか? 名古屋には南洋との定期航路があるのでな。あちらからの物品も多く入ってくるのだ」
「ほほー」
さすが織田信長世界。バンバン海外進出しているらしい。まぁそうなると「なんでみんな和服のままなの? 洋服着ないの?」というツッコミが思い浮かぶのだけど……時代劇だものね。細かいことに突っ込んでもしょうがないか。
「どれ、一つバナナでも買ってやろうか」
「え? いいですよ悪いですし」
「はっはっはっ、姫なのに謙遜するでない。ここで普通の姫なら洋服をねだってもおかしくはないのだぞ?」
「さすがに初対面の男性に服をねだる度胸はないっすわ」
あと、ちゃんと洋服もあるらしい。口ぶりからするとかなりの貴重品っぽいけど。……まさかちょんまげ洋服という奇抜なファッションをお目にかかれる日が来るのだろうか?
と、そんなことを考えているうちに春様がバナナを購入してしまった。いやー、しょうがないなー、買ってもらったんだから食べないとなー。うきうき。
皮を剥いて、食べてみる。
おぉ、バナナ。バナーナ。こういうときのテンプレとしては『甘くない! 品種改良されてないんだ!』という展開になると思うのだけど。ちゃんと甘い。
これ、もしかして品種改良とかバンバンやられてる? すげぇな織田信長。
「はっはっはっ、良い顔で食べるものよ。これはこちらも奢る甲斐があるというものだ」
思わず自分の頬を手のひらで覆い隠す私。
「……どんな顔してました」
「なに、気にするな。良い顔であったぞ?」
「いやだからそれがどんな顔なのか……まぁいいや」
のれんに腕押し。早々に諦めた私であった。
「なんと、あの姫様が押し負けるとは……」
背後から楓お姉さんの呟きが聞こえた。ちょっとこの忍者さん主張が激しすぎません?




