お誘い
注文していたお茶も出てきたので、そのまま春様と雑談という空気になった。
「父上によれば、和は真法が使えないのではなかったのか?」
「なんか死にかけた結果、使えるようになりました」
嘘は言っていないと思う。たぶん。重要なことをまるで話していないだけで。
「ふむ? 真法を使えるようになった人間は幕府への報告が義務となっているはずだが……?」
「そうなんですか?」
「そうなんですか、って……。まぁ、和なら知らなくても当然か。しかし、吉村公なら当然分かっているはずだが……」
「あ」
「あ?」
「……そういえば、お父様には魔法が使えるようになったと話してなかった……かも?」
てへっと舌を出す私だった。
なんだか春様だけでなく、背後の忍びからも呆れ果てた空気が漂っている気がする。なぜだ。年頃の娘と父では話せないことも多いでしょうに。
「し、知らなかったのなら仕方ないが、早急に申請しなければならんぞ?」
「そうなんですか? では、春様の方から申請しておいてもらえますか?」
「……わしの正体を知りながら、こうも簡単に頼み事をするとは……面白き女よ」
あれマズかった? やっぱり書類一式とか準備しなきゃいけないとか?
「まぁよい。父上に説明するという意味でも、わしが動いた方が早いか。して、和よ? 今日はどういった用件で町に?」
「ちょっと婚約破棄されまして」
「う、うむ」
「これは気分転換に町に出よう、となりまして」
「う~む?」
何言ってんだコイツ、という顔をされると私としても反論したくなってしまう。
「納得できていないご様子ですけど、春様だけにはとやかく言われたくないですよ? 自分のお立場を分かってます?」
なにせこの人は次期征夷大将軍。この国の実質的なトップに立つお人なのだから。
「はっはっはっ、これは痛いところを突かれたのぉ」
全然気にした風でもなく笑い飛ばす春様だった。何だろう、この、のれんに腕押しというか糠に釘というか。
「姫様の同類ですね」
断言する楓お姉さんだった。一体どの辺が?
◇
意外なことに。春様との会話は弾んでいた。私ってずっと入院していたからそんなにコミュニケーションの経験値も高くないはずなのだけど。なんというか、特に気を使わずに会話できていたのだ。
そして。それは春様にしても同じ感じだったらしい。
「婚約破棄がきっかけということは、和は町が初めてなのか?」
「そうですねー。なのでどこか名所でもめぐってみようかなと」
「で、あるか。――ならばわしが町を案内しよう」
ガタッ、と。
春様の背後で物音がした。たぶん隠れている忍びが『若様ぁ!?』とツッコミを入れたのだと思う。
そして私の背後でも物音がしたので、楓お姉さんと蔵人さんが『マジでぇ!?』みたいな反応をしたのかな。どっちとも、忍びとしてどうなんです?
「案内って……春様もお忙しいのでは?」
「なに、市井の様子を見ておくのも次期将軍――ごほん。将来のために必要なことだからな。特に目的もなく町を歩くのもいいだろう」
おー。次の王様や殿様が町歩きするときのテンプレ言い訳。まさか本物を聞くことになろうとは。
私が謎の感動をしていると、春様が「いや、」と目を細めた。
「和との町歩きであれば、どんな予定も脇に置くべき目的となるだろうな」
「……くっ!」
好みのイケメンから格好いいことを言われてしまった。ずきゅーんである。
あと、楓お姉さん。「おのれ姫様を口説くなど……」と呟きながら殺気を放つのはやめてください。




