【第三章】第三部分
メイド長がいなくなって、急に静かになった遼斗の部屋。広いのでひとりでいると、余計に静寂感を覚えてしまう。
「あたし、いったいどうなってしまうんだろう。遼斗だって、年頃の男子。やっぱり、薄い本とか持ってる、いや盛ってるのかな。積み上げがすごかったりして。ちらり。」
玲羅は視線を大きな書斎コーナーに移した。
「あ、あたしは、この部屋の専属メイドなんだから、本の片付けとかしなくちゃいけないし。あ、あのショタな、じゃない、書棚を見るのは許されることよね。てか、見ないと掃除なんてできないからね。うんうん。」
掃除宣言しながらも、手ぶらで書棚にアプローチする玲羅。掃除道具レスの両手をゾンビのように前に突き出して進む姿は、掃除態勢からは果てしなく遠い。
「もう少しで、青少年の秘密の花園に侵入できるわ。ギヒヒ。」
メイド長ばりの卑猥さを身に付けつつある玲羅。発展途上国の成長には欠かせない欲望に餌付けされている。ついに男子の秘密の花園に到着した玲羅。
「さあ、玲羅。ここからが重要よ。あ、あたしの広辞苑では、悪さ、悪意、悪巧みという言葉は削除されてるんだから、安心編集よ。あたしは掃除を死に来ただけなんだからねっ。」
すでに死地にやってきた覚悟を標榜している玲羅。
「さあ、探すわよ、薄い本!」
書棚は玲羅の身長に対してかなり高く、とりあえず、手の届くところにある装丁の厚い本を手にする玲羅。タイトルは、『製薬業界百年史』。
「何よこれ。真面目な本じゃない。こんな本を読んでるって、バッカみたい。」
ひとことで、製薬業界人全員を敵に回した玲羅。
「こんなことで、あたしの覗き見詮索探究心はめげないわ。」
覗き見シュミは、探究心に極めて近い観念であることを主張する玲羅。
「きっと、分厚い本のいちばんうしろに、薄い大魔王がこっそり隠れているはずよ。これを見つけられないのは乙女の恥よ。」
腕まくりして、書棚の奥に手を突っ込んで、グリグリやっている玲羅。端から見れば、探索行為の方がよほど乙女の恥ずべき行為である。
「あっ、この感触。薄い本、あったわ!あたしは、自分に勝ったのよ。昨日まで弱かったあたしにサヨナラよ!」
薄い本獲得という勝利宣言した玲羅。当然ながら、昨日も今日も浅ましい自分に別れを告げることはできていない。
玲羅は腕を引っこ抜くようにして、薄い本を取り出して、両手に持った。
「ついに突き止めたわよ。薄い本という犯罪の温床。」
玲羅の盗み見こそ、犯罪的行為である。
「さて、タイトルから見るわよ。『Your Memory』。ずいぶんと陳腐なファンジータイトルねえ。それにしても本当に薄いわね。これのどこにエロが隠れているのかしら。」
薄い本の実態を知っているらしい玲羅は、開いてみた。




