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ガラス作りの君達へ  作者: リュート
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探索、その先に


俺は鮫島さんの後ろに付いていき、校舎に入った。下駄箱の横に見取り図があり、体育館は校舎からしか入れない別館にあるらしい。

比較的綺麗な校舎を進み、別館の階段を上がりきった三階に、体育館の扉があった。

この中に俺達を連れてきた人が待ち伏せしているのだろうか?

金属の冷たい扉に手をかけ、俺達はゆっくりと扉を開けた。

中は想像を裏切る体育館だった。

壁も床も辺り一面不自然なほどに白く、おおよそ体育館には見えない。

まるで…


「隔離病棟…みたいっすね」


俺と同じことを思ったらしい鮫島が口にした言葉に、まるで剥がし残しのシールのような少しの違和感が心に残った。


「また来た」


不気味な景観に驚き、気が付くのが遅れた。

声がした方に視線を向けると、体育館の一番前にある台の上に、何人もの姿が見える。

俺ら以外にもこんなに人数が居たのか。

声を出した人以外もこちらに気づいたらしく、俺らはその集団に近づくことにした。

この体育館に十数人という数が揃っていた。


「もう良いかしら?」


そう一歩前に出た女性は、髪を後ろで纏め、綺麗に姿勢を伸ばし、後ろまで届くようなよく通る声を出していた。

そんな彼女の顔の半分には赤い花が大きく描かれた仮面があった。


「そろそろ待つのは終わりにしましょう。そこの貴方逹、もうすぐ時間だから少し待って…いえ、時間だわ」


ザザザ、と大きなノイズが体育館に響く。

何だ?

音の発信源は、白銀に覆われた体育館の舞台のスクリーンからだった。

画面には小さな女の子のキャラクターが、左右にチョコマカと動きながら口をぱくぱくと開けている。


「皆様ようこそ。ここは皆様の楽園です」


スクリーンから聞こえる声は機械質で抑揚の無い声だった。


「恐れることはありません。私たちは貴方達に危害を加えることはありません」

「こちらから求めるのは1つです。貴方達はただ生きて下さい」


その声は俺が聞いた仮面の声と同じだった。


「この楽園の敷地内は安全です。仮面を持った者以外入ることはできませんので無くさないようにしてください。

ここなら外敵は侵入できません。そしてここには飲食物から娯楽まで全てが存在します。

そしてこの仮面を外しては行けません。我々が保護できる人間は管理を受け入れた人間だけです」


つまりここから出るなってことか?ふざけてんのか?


「ここは学園です。いくつかの日にイベントもありますのでお楽しみに。それでは良い日々を」


「…」


スクリーンから画面が消えた。

声が止まった。冗談きついぜ、気がつくと手にはじっとりと汗をかいていた。

俺が知らないところで何が起きてるんだ?

パンっと音が鳴り、花柄の仮面の女性が皆の視線を集める。


「事情は判ったかしら?私達はまだ人が居るだろうと思ってここで待機していたの。

でもそろそろ動き出したいから貴方逹で待つのは最後にするわ」


「あれってどういう意味なんだ?」


俺の質問に、真意を知らないのは私も同じとばかりに頭を振る。


「それを知るために人が集まるのを待っていたの。少しでも有益な情報があればと思ってね」


少し強気な彼女を中心に、不思議と輪が出来ていた。


「とりあえず皆で話し合いましょう。まずここに来た経緯を知ってる人は居ないかしら?」


来た経緯?俺は自分の記憶を少しずつと手繰っていく。


「…」


誰からも上がらない。


「誰も覚えてないのね?」


「あの…これからどうなるんでしょうか…?」


一人の女性が小さな声で問いかける。伸長や声からして俺たちよりも幼い。中学生ぐらいだろうか。


「まだ分からないわ。イタズラだったら良いのだけれど。でも心配しないで、私達は一人じゃないわ」


少ない会話からも彼女の手腕が見て取れる。

このメンバーの中には少なくとも彼女の進行を阻むものは居なかった。

突然の状況に、頼れる人も居ない。そんな中でも彼女は冷静で、配慮まで配っている。

そんな彼女の人々を纏める力に、皆異論はないようだ。


「これからの行動はどうするのが良いのかしら?流石にこの様な体験は初めてで迷っているわ」


こんな経験何度もあってたまるか。


「それならまずは校内を探してみたらどうかな?」


色々考えることよりまず、安全を確認することはどうだと告げた彼は、制服の上からでも分かる鍛えられた体をしていた。


「そうですね、とりあえず校内を探してみましょう」


反論が無いのを確認すると、彼女を先頭に歩き始めた。

彼女の後ろに皆が続き、一旦体育館から出て、階段を下に降り続けて本校舎へと向かう。


「楽園ってこの学校の敷地が全部保護されているって考えるのが良いのかな?」


「帰りたいですねぅ」


「…何がなにやら」


歩きながらも思案する人や、愚痴を溢す人など様々な人達が居る中、俺が感じていたのは閉塞感だった。


「どうかしたんっすか?」


「うぉ!?」


急に後ろから声を掛けられて驚き肩が思いっきり上がった。


「なななんでもねぇよ?」


耳打ちをするように話しかけられ、振り向くと距離が近く、言葉がつまってしまった。


「何で疑問形なんっすか…」


一旦呼吸を落ち着かせると、俺はここに居るメンバー全員を見渡した。

異なる制服を着た学生に共通点らしきものは見当たらない。


「さてこれからどうするかだけれど、学校の中に居る人を探して職員室の電話から連絡を取りましょう」


彼女は落ち着いた声音でプランを告げる、反応を示したのは眼鏡を着けた背の低い男だった。


「確かにそうだ。それにしても何がしたかったんだか。こんな無駄なことで時間を取られるハメになるとはな」


態度が大きく、背が小さく、先輩か後輩か分からない彼は腕組みをしながらそう話した。

仕草も落ちいているように振る舞って居るが、落ちつきなく爪先が動いていた。


「動機は不明ですが要求が無いのがまた謎ですね」


「早く帰りたいよぉ」


俺たちは先の見えない暗闇を歩いているようなものだった。


「…」


それを遠くに思いながら考えを巡らす。

それにしても目的が分からない。

ただ生きろ。その言葉にずっと引っ掛っていた。


「とりあえず行動しましょう。あなた達は校門前で新しい人が来るのか確認してください。残りの皆さんでまずは職員室を探しましょう」


二班に別れ、俺達は教員室へと向かった。

本校舎にある一階の下駄箱がある廊下の途中に目的の教員室があった。

扉は鍵などかかっておらず、少し埃っぽい教員室に入るとリーダーの彼女は電話を、残りの俺達で机や棚を探し始めた。

埃がかかった部屋の机の引き出しの中に、名簿らしいものを見つけた。

表には「生徒名簿」と書かれた黒の名簿を開いて中身を確認する。

中身は生徒の名前だけが埋め尽くされているだけだった。


「何だよ……これ」


その名簿の途中にあったのは

【天井弥彦】

俺の名前だった。


最後まで目を通すが、少なくとも鮫島の名前は無かった。


なんで俺の名前だけがここに載っているのだろうか。


「皆!駄目よ…電話が通じないわ。皆はどうだったの?」


「何もないな」


「何もありませんでした」


「特にないっすね」


「…何も見つからなかったよ」


俺は声が上ずらないようにするのが精一杯だった。


「仕方ないわ、合流しましょう」


そういうと少し疲れたような溜め息を漏らす彼女は、少しの間を開けてから先導して部屋を出る。


「…」


これは皆に見せられない。少なくとも俺がこの事態に少しでも関与していると思われたくはない。

俺はとりあえず名簿を机の奥に仕舞うと皆の後ろに続いた。

それから皆と合流すると校舎内を巡り、分かったことは給食室にあった大量の缶詰などの非常食。

視聴覚室にはDVDプレイヤーを始め、様々な娯楽設備があったことだった。


「後は屋上だけね、仕方ないわ。無理矢理開けましょう」


俺たちは鍵が掛かっていた屋上を後回しにしていたのだった。

校舎を探し終えた今、何かの手がかりがある可能性は屋上だけになった。


「私に任せてくれ」


そういったのは探索を進言したガタイの良い男だった。

彼は皆を下がらせると上着を脱ぎ、肘の辺りに巻いた。

そして勢いを付けると思いっきり窓に肘を振り下ろす。

バリーン

と窓ガラスを叩き割る大きな音がし、割れた窓ガラスから手を入れて鍵を開ける。

まるで空き巣のそれと酷似した行動をとった彼は


「一度やってみたかったんだ」


と明るく笑った。

少し分かるかもと俺も共感してしまった。

そして屋上へと出た。

学校とは勿論生徒が居なければ成り立たない。

そんな当たり前を覆す光景がそこにはあった


「おい…まじかよ…島だ!」


俺が本校舎の屋上から見た景色は、深い木々が一面を埋めつくし、そしてその奥には青々とした海が見える。


「孤島…だよな?」


確かに水平線上に陸が見えない。

周りから息を飲む音が聞こえる。

俺は少なくともどこかの山奥の学校なのだと思っていた。

何かあれば下って人里まで降り、助けを呼ぼうと考えていたのだ。

しかしいくら周りを見ようと建物の影すら見えない。

孤島…いったいどうやって?船で?飛行機で?

なんなんだここは…

そうこれが俺達の、迷い混んだ楽園の正体だった。

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