第76話 山の戦い
熊には悪いが殺すのは決定した。こっちだって殺りたくて殺るわけではないが生きる為に必死なのだ。運がなかったと諦めてもらうしかない。
問題はどうやって殺すかだ。剣で脳天貫いて殺すのは確定しているのだが、奴がじっとしてくれる訳はない。突進とか、パンチとかしてくるだろう。ましてやあっちは(あっち“も”の方が正しいかもしれない。こっちだって殺るつもりだし。)殺る気満々だ。
突進してくるところに剣構えてつっ立っていたら殺れるかもしれないが、余力で押し潰されて相打ちだろう。むしろ当たりどころが良くて(こっちにとっては悪いが)生き延びるかもしれない。
「おおっと!!」
突進を再びかわす。奴はくるりと振り返った。こっちを血走った目で睨む。
「ひいっ!!」
ドガァン!!
なんとなく殴ってくるかなと思いしゃがんでいたら(頭を下げて構えていたら)数瞬前まで頭があった場所に凄まじい速さでパンチが飛んできた。目視できない速度のパンチは勢い余って背中近くの大木を木っ端微塵に吹っ飛ばした。恐怖で情けない声が漏れる。こんなモンかすっただけで粉砕骨折は免れないだろう。
熊との距離はほぼ零。獣臭さが鼻につく。……………嫌な予感!横転!!
ブンッ!!
つき出していた腕がハンマーパンチ(握り拳を相手の背中にハンマーのように降り下ろすプロレス技。)の要領で降り下ろされた。あっぶね、死ぬとこだった……………。
「おおぉう!?」
即座に振り回される腕。剣を抜いて刃を向ける。これで自ら腕をぶった斬ってくれないか、と期待していた。
「え……………?」
腕を止めた。ほんの僅かに刃が食い込んで軽い切り傷になっただけ。こいつ、刃物の危険性を知っている……………?マジかよ……………。
て、そんな場合じゃあないッ!!なんとかしないと死ぬ!!
腕を振り上げる熊。ああ、運がないのは、俺の方だったのか……………。
ズドン!!ズドン!!ズドン!!
ドゴオォ!!
なんだ!?銃声!!?
「大丈夫ですか!!?ジェルスさん!!」
まさか……………キュリアさん……………!?
その手には大型の拳銃のようなものが握られている。ターコイズブルーの銃身をしている。不思議な事にその色をした部分は“何か”を常に吸収してるのが直感的に理解できた。
ズドンズドン!!
再び発砲。銃から射出されたのは鉛弾ではなく、エネルギーの塊のような、半透明の球体だった。僕は青い部分が吸収している“何か”がエネルギー弾を生成していると推測できた。
そのエネルギー弾は熊に命中すると小規模な爆発を起こした。小規模といっても一般人が喰らえば吹っ飛ばされそうな威力だ。熊がうめいて苦しそうにもがく。
「早く、トドメを!!」
「う、うん!!」
そう言って剣を持って頭に突き刺そうとした。これで…………終わりだ……………!!
しかし、熊はそれでも抵抗した。爪で刃を受け止め、その豪腕で押し返してきた。やばっ……………。
「このっ……………」
ズドン!!
発砲音。援護射撃か!!
弾は熊の頭に命中して爆発した。しかし、爆風は僕も巻き込んで吹き飛ばした。
「…………ッ!!」
転がった俺に熊が爪を降り下ろす。なんとかかわしそうとしたが爪の一本が脇腹をかすった。脇腹から真っ赤な血が吹き出す。
「うああああぁ!!!」
痛い…………血がドクドクと溢れる……………。………………あれ?この感覚、どこかで………………?
ズドンズドンズドン!!
弾が再び熊の頭に直撃。爆発して熊の顔は血だらけ。流石に効いたのか俺のすぐ側に倒れこんだ。まだ弱々しく息をしている。しかし、もう助からないだろう。
俺は熊の頭に剣を突き刺した。熊の体がブルンブルンと大きく痙攣し、動かなくなった。
俺はキュリアさんの元へ駆け寄った。キュリアさんは今にも泣きそうな顔で俺を見ていた。
「ありがとう、キュリアさん。」
「でも、わたしのせいで、ジェルスさんが…………その怪我…………」
「ん?これ?大丈夫だって。掠り傷だよ。」
実際尋常ではない激痛だが、キュリアさんを元気づけるため、全く効いてないようにふるまった。
ま、あんなのに遭遇してこれだけで済んだのは幸運と言えるだろう。
「ここ、危険区域なんです。帰りましょう。」
キュリアさんが、絞り出すようにして言った。そして村の方へと歩き出す。
俺もそれについていった。




