第44話 拉致されて(ジェルス)
俺が目をさましたら、そこは森の中。大木が数多く存在しており、空は晴れているものの少し薄暗くなっている。今は昼くらいだろうか。
俺は立ち上がり体に付いた葉っぱを払い落とし、改めて辺りを見渡した。ここが………異世界。
「やっと気がついたねー。ようこそー、ボクらの世界へー。魔法があってー、君達の世界じゃ空想のー、妖精とかー悪魔とかー、魔物とかがいる世界さー。君にはー、この世界の危機をー、救ってもらいたいんだー。というかー、世界救うまで帰す気無いけどー。」
おいおい、世界救うまで帰れないのかよ………。
「もちろんー、一人で救うんじゃないよー。君の他にもー、あっちの世界から来た人がー、いるからさー。その人達とー、協力してー救えばいいんじゃないかなー。因みにー、この世界の人間じゃない気配がー、4つあるよー。」
へぇ、俺の他にもいるんだ………。しかも四人。俺と同じように拉致されちゃったのだろうか………。
「その人達がーどこにいるのかはわからないけどさー、多分ボクらの王様のお城を拠点にしてると思うんだー。だからさー、ボクらの王様のお城に行こうよー。どーせー、王様に挨拶しないといけないしー。そこで会えたらー、一緒に世界を救うって事でー。」
このキツネの言う通りかな………。とりあえず、お城に向かおう。
「じゃ、行こうかー。ボクにはーレーダーが内蔵されているからーお城までの道は簡単にわかるんだー。」
便利だな、改造動物。
「あ、そうそうー、お水欲しい時はー遠慮せずに言ってねー。食べ物はないから自分で探してもらうけどー。」
遠慮せずに言えなどと言ってる割には、このキツネは水筒を持ってない。どういうことだ?まさか………いや、そんな事は………。
「でも、お前、水筒持ってないでしょ?どこに水があるの?」
「ほらー、ここにー。」
なんか空気中に裂け目みたいなのができたかと思うとそこから水筒と思われる筒状の容器のようなものが。
「今のは、一体………?」
「別の次元にしまってあるんだよー。この世界に平行するように存在している空間があってーそこでかさ張るものとか収納してるんだー。別の次元って保存に最適なんだよー。しかもー、自分が入れたものかー、他人が許可してロックを解除したものしか取り出せないからー、物盗られる心配ないんだー。」
すごいな、異世界って。
で、城を目指してひたすら歩いていく。一時間、二時間と歩いて、歩いて、歩いて…………。
大体七時間後…………。
ぜー……ぜー………ぜー……。
疲れた。足痛い。毎日長い距離チャリンコ漕いでるから大丈夫とか歩き始めて一時間くらいは思ってたけど、全然そんな事は無かった。
「なぁ、キツネ。お城まで、後どれくらいかかる?」
「うーんと………五日だよー。」
え?五日?五日間歩きっぱなし?
うわー。無いわー。モチベーション下がるわー。
「まー、今日はこの辺にして休もうよー。夜にはー、怖い獣がいっぱいいるからー、あぶないんだよー。ほら、火をおこしてー。」
「火をおこすって、何もないのにどうやって火をおこすっていうんだよ。」
「わかってないなあー。君にはー、魔力があるって言ったでしよー?火をおこすなんてー、魔法を使えば一発だよー。そうそうー、魔法使いたい時はー、心の中でやりたい事を強く念じればいいからねー。」
そうなのか、俺、魔法が使えるんだ………。信じられないけど………。
俺は落ち葉を少しかき集めて、そこに火が点くのを強くイメージする。
しばらく何も起こらなかったが、二分くらいして
ボッ!!
という音が鳴り、火が点いた。本物の火だ。温かい。
俺は昼の間にとっておいた果物を食べた。…………うわ、不味い。なんだこれは。灰色の柑橘類なのだが………。雑草を搾って出てきた汁みたいな味。しかも青臭い。
我慢して食事を終え、俺は落ち葉を集めた寝床に横になった。
なんか、凄い事になったな……。俺が、世界を救うなんて………。俺なんかにできるのかな………。
そんな事をしばらく考えていたが、疲れていたのか急に眠気が襲ってきて、それに逆らえず目蓋を閉じた。
ま、いろいろ悩んでいても、しょうがないよな………。まずは、城に向かう事を考えよう………。
そして、俺の意識は夢の世界へと落ちていった。