第41話 出発
あれからなんとかリリちゃんの誤解を解き、宿屋に戻ってきた。まだ朝っぱらだというのにメッチャ疲れた。
リリちゃんは自分の家で泣いてたけどなんで泣いてたんだろう?不純異性交遊(実際はメレンが寝ぼけて俺の腕に抱きついてただけ)は確かに刺激の強い光景ではあるが、泣くほどのものか?あと、かなり長い間俺に抱きついたまま離れなかった。今朝はよくハグに縁がある。
で、部屋に入るとメレンがさっき起きたのか大きく伸びをしていた。
「あ、カイン、おはよう。どこ行ってたの?」
お前のせいで女の子泣いてその尻拭いだよ。メレンはそれを知らずいい笑顔。クソ、可愛いな………。
メレンは普段は起きてしばらくは眠たそうにしてるが、今日はなんかさわやかだ。珍しい。
「うーん、カイン、昨日宴始まって私達何したっけ?全然覚えてないけど。」
「あれ?お前も覚えてないのか?」
二人して首をかしげる。
まぁ、リッドさんかサネスさんなら何か知ってるだろう。さっきリリちゃんの家に行った時サネスさんに聞けばよかったのだが、泣いてるリリちゃんに駆け寄る俺をメッチャ怖い顔で睨んでいたのでできなかった。事情を知って納得したみたいだが………。
俺らが部屋をでてロビーに向かうとそこにリッドさんがいた。受付の女性と何か話している。俺が戻ってきた時は居なかったからついさっき来たのだろうか。
リッドさんは俺らに気づくととっさに右手をズボンのポケットに突っ込んだ。
「や、やぁ。カイン。眠れた?」
そう言うリッドさんはどこか動揺してるようにみえた。
「………?何か隠してます?」
「いや、気のせいじゃないかな?」
…………ま、いっか。俺はリッドさんに昨日の事を聞いてみた。
「リッドさん、俺ら二人とも昨日宴始まった後の記憶が無いんですけど、何かあったか知ってますか?」
それを聞くとリッドさんは明後日の方向を向いてしばらくなにか考え、こう答えた。
「えーと、二人とも普通に飲み食いして楽しんでたよ?疲れが溜まっていて覚えてなかったのかな?」
疲労で記憶なくなるとか聞いたことないけど………リッドさんがそう言ってるからそうなのだろう。
メレンはリッドさんの右のポケットをじっと見つめていた。気になって俺も見てみると何か四角い物を入れてるみたいだ。
そしてメレンは受付の女性の方に視線を移し、何かに気づいたかのような表情になった。
「じゃあ、リッドさん、私達族長様に挨拶してきます。」
そう言って俺の腕を掴み引っ張って宿屋から出る。引っ張られてかなり痛い。
宿屋を出た後、俺はメレンに言った。
「痛た……メレン、いきなり何するんだよ……。」
すると、メレンは呆れたような表情に。
「カイン、あなた本当に気づいてないの?」
「え、何を?」
「………あの二人の様子を見ても何も気づかない?」
「いや、別に。」
「……………朴念仁。」
「え?何が?ちょっと、メレン?」
メレンはそのまま族長の家へ歩いていく。結局、族長の家に着くまで口を聞いてくれなかった。
で、族長宅。
「そうか、出発するか………気を付けていきなさい。本当にありがとよ。」
「いえ、こちらこそ………。では、失礼します。」
「ありがとうございました。失礼します。」
族長宅を出て、集落の出入口までくると、リッドさん達三人が待っていた。
「………出発するんだ。気を付けてね。」
リッドさんがそう言った。
「はい、色々とありがとうございました。」
「どういたしまして。楽しかったよ。色々と。」
リッドさんが笑いながらそう言った。
「…………じゃあな。」
サネスさんがそれだけ言って俯いた。
「はい、ありがとうございました。」
メレンがサネスさんにそう言うとサネスさんが微かに笑ったように見えた。
「カインも、メレンも、今までありがと。楽しかったよ!」
リリちゃんが笑いながらそう言った。今朝泣いてたけど機嫌直ったみたいでよかった。
「こちらこそ。じゃあね。リリちゃん。」
まずメレンがこう言った。
「じゃあな。リリちゃん。」
俺もそう言った。三人に挨拶が済み、集落を出ようとすると、
「カイン!!」
リリちゃんに呼び止められた。
「あの、その………。カイン、本当にありがとう。それで、これ………。」
リリちゃんは俺に大きさ、形は不揃いだが綺麗な赤や青の石に穴を開け、糸を通して作られているブレスレットを差しだした。
「これ、俺に?」
「うん。昔、お母さんが私に作ってくれたの。カインに合うように、糸長くして………。どうかな?」
俺はそのブレスレットを右手に着けた。若干緩いが結び直せばいいだろう。
「ありがとう。リリちゃん。大切にするよ。」
俺はそう言ってリリちゃんを軽く抱き寄せた。
「気を付けてね。カイン。」
「あぁ。」
「…………また、会えるかな。」
「もちろん。また、会いにくるよ。」
俺はリリちゃんを離し、リリちゃんに手を振って集落を後にした。
集落を出るとメレンが腕を組んで待っていた。
「別れの挨拶はすんだ?」
「あぁ、待たせてごめんな。」
「別に。じゃ、行こうか。」
「うん。じゃ、まずは城に戻ろう。街でまた情報も集めないといけないだろうし。」
「わかった。」
そう言って俺らは再び二人で歩きだした。
(???視点)
「…………それ、本当?」
「どうやら本当みたい。バロンガが殺られた……しかも、異世界からきた奴等にね。この世界の人間も混じってたみたいだけど。」
「異世界から………か。ついに来たのか?英雄とやらが。」
「面白くなりそうじゃない。あのお城が拠点………すると、次に向かいそうなのはゲヴォノ火山………。」
「火山か、あんた、確かそこにも凶暴になった奴がいたって言ってたよな?」
「えぇ。………恐らく、あの獣も殺っちゃうでしょう。あなたたち二人。ゲヴォノ火山で英雄達を待ち伏せして。」
「それは………始末しろと?」
「いいえ。殺さずに今は見のがして。でも、ちょっと遊ぶくらいならかまわないわよ?」
「…………何を考えているの?見のがすって…………。」
「私には考えっていうのがあるの………黙って従いなさい。」
「……………。」
「さて、せいぜい楽しませてもらおうかしら。英雄達。」