第29話 挨拶
兵士に連れてこられて入って来たのは3人。長い金髪のキザっぽい爽やか系の二枚目と、目付きの鋭いやや長い黒髪のこれまた二枚目。二人とも身長は180くらいか。そして赤い短髪の可愛らしい女の子。メレンよりやや低く、あどけない顔つきをしている。10歳くらいだろうか?
金髪の男性が笑いながら声をかけた。
「やあ。君たちが言い伝えの勇者サマたちかな?俺はリッド。よろしくね。」
なんか、見た目通りフランクな人だ。
「こっちの目付き悪いのがサネス。」
「…………お前等が言い伝えの………?どうだか……。」
気だるそうな感じでサネスと呼ばれた男性が言った。
「ごめんねー。こいつ口も悪い上に無愛想だからさ。でも、根はいい奴なんだぜ?ほら、サネスも。しばらく一緒にいるんだからさ。」
「フン………まあ、よろしく頼む。」
「で、こっちの可愛い子がリリちゃん。」
「………よろしく。」
この子もサネスさん同様そっけない感じだ。
「あはは、この子も無愛想で悪いね。こんなのが兄だからしょうがないけどさ。」
「悪かったな。こんなのが兄で。」
あ、この子サネスさんの妹なんだ。
しかし、こんな小さな子で大丈夫なのだろうか?
「あの……こんな小さな子で危なくないのですか?」
そうするとリリちゃんが怒った様子で食って掛かった。
「何よ!あたしが小さいからって馬鹿にして!!あたしの事何も知らないくせに!!」
「いや、別に馬鹿にしている訳じゃなくて、君を心配して……。」
「あたしは心配される程ヤワじゃない。どうせ心配される程弱いとか思っているんでしょ!!」
と、その時リッドさんが止めに入った。
「まあまあ、リリちゃん、落ち着いて。心配されてもしょうがないよ。君……えーっと、名前は?」
「カインです。こっちがメレン。」
「カイン、心配しなくても大丈夫だよ。この子はこの集落の中で一番剣術に長けているからね。俺だって一度も勝った事がないんだ。」
「そうなのか……ごめん。」
しかし、リリちゃんは不機嫌そうにそっぽを向いてしまった。どうやら嫌われてしまったらしい。
サネスさんも口を挟んだ。
「俺も心配だ……。確かにお前は実力が高い。しかし実戦経験が全くないからな……こんな危険な仕事、お前みたいな奴には早すぎる……。」
「大丈夫よ!!お兄様。実戦経験なんてなくても実力があれば絶対に成功できる。」
「甘い。俺もお前くらいの頃、それくらい自信過剰になって凶暴な魔物の討伐に一人でいって半殺しにされた。今回の獲物はそいつが可愛いと思える程だ。お前はあまりにも幼い。俺はお前は待機していたほうがいいと思うんだが……。」
「大丈夫大丈夫!!危ないのは分かってるから気をつけていくし、それに……」
そう言ってリリちゃんは一呼吸おいて続けた。
「それに……いざとなったら……お兄様が守ってくれるかな……って。」
それを聞いてサネスさんが一瞬びっくりしたような表情になった。
「ケッ……しょうがねぇ。くれぐれも無理するなよ。」
その間リッドさんはニヤニヤしながらこの光景を見ている。
「………何が可笑しい。」
「いいや、別に。」
リッドさんが俺達に向き直った。
「さて、早速バロンガ討伐に向かいたいところだけど、色々と準備があるだろうし、それに君たち、ここに来るのに疲れただろう?今日は休んで、明日出発しよう。それでいいかな?」
俺とメレンは頷き、サネスさんとリリちゃんも同意した。
族長が俺達に言った。
「君たち二人は宿屋を使いなさい。わしの承諾を得たと言えば金は取られんだろう。」
「はい。ありがとうございます。」
そう言って俺達は族長の家を出て、宿屋へと向かう。宿屋へは歩いて三分程だった。
受付の女性に族長の承諾を得たというとすぐさま部屋の鍵を渡してくれた…………一部屋だけ。
女性にもう一部屋お願いしたが、色々あって一部屋しか使えないらしい。なら仕方ないかな。
部屋はやや狭い部屋で大きめのベッドが一つとテーブル、クローゼットくらいしかない。メレンは俺と一緒の部屋が気に入らないのか不機嫌そうな顔をしている。
「あの……俺、床で寝ようか?ベッドで一緒な寝るのはちょっとアレだし……。」
「………別にあなたがいいのなら一緒でもいいけど?」
「………床で寝るわ。」
その後は二人でゆっくりとくつろぎ、女性が持ってきてくれた夕食を食べた後、メレンはベッドに、俺は床に横になった。
「じゃ、おやすみ………。」
「おやすみなさい……。」
床なので寝付けないと思っていたが、以外とすぐ眠ることができた。