第26話 集落へ
(カイン視点)
……………もう日が高い。久々にこんな時間に起きたな……………。普段は朝6時くらいに起きているんだが。
…………嫌な夢見てしまった……………。俺は思わず舌打ちした。
「あ、カイン。おはよう。」
…………メレンより遅くまで寝てたのか……………。
「ああ。おはよう。」
「昨日はだいぶうなされてたけど、大丈夫だった?」
…………うなされてたのか…………。寝言で何か言ってたのかな…………。聞かれてない…………よな?
「ああ。大丈夫。」
「よし、出発しようか。」
「え?もう行くの?」
歩く事であの夢を忘れたかった。疲れればあいつを……………。
「ああ。サッサと行こう。」
ふと、昨日倒した虎の方を見た。死んでいるので当然だがピクリとも動かない。赤黒い血溜まりが周辺にできている。
……………………俺は思わず身震いした。それはグロテスクなためなのか、それとも……………。自分でもどちらかわからなかった。
歩き始めて一時間程した所で、メレンが意外な事を聞いた。
「ねぇ、カイン。カインは…………恋人とか………いる?」
……………は?いきなり何を言い出すんだ。コイツは。
「恋人…………ね。俺は今まで誰かと付き合った事なんてないなぁ……………。」
そう、恥ずかしい…………事かはわからないが俺は16年間恋人がいない。そもそも女子とほとんど関わった事がない。同じクラスの女子と話す時未だに緊張する。メレンとここまで自然に接する事ができるのに自分でも驚いている。
俺が上がらずに接する事ができた女性はメレン(初めは少し緊張した)と母親とあいつくらいだ。
「ふーん…………じゃあ、好きな人は?」
「好きな人…………か。いない事もいないんだが…………。」
「どうかしたの?」
「いや、これ以上は………聞かないでくれ。」
「…………わかった。ごめんね。こんな事聞いて。」
「いや…………いいんだ…………。」
…………忘れよう……………。もう………死にたくなるほど悲しんだんだ………。
で、その後は特に問題もなく3日程。いや、本当に歩いただけ。とくに獣に襲われるとか盗賊に襲われるとか無かった。
あ、でも一回メレンが転んで鼻血出してその時爆笑したな。その後キャメルクラッチ(うつ伏せの相手の腰辺りに跨がって相手の首あたりを両手で掴んで締め上げるプロレス技。有名なのはアイアン・シーク)喰らって殺されるかと思ったけど。いやー、背骨が軋む音がしたよマジで。
しかもその時も完全に鼻血止まってなかったから笑いをこらえるのに苦労した。声にだして笑ってたら確実に昇天させられていた。
…………閑話休題。
とりあえず俺達は集落にたどり着いた。あー、腰痛ぇ………。集落は外壁で囲まれており、入り口は2つ。入り口には二人ずつ兵士が配置されている。しかし、兵士は傷だらけで包帯が巻かれている。こちらを見て僅かに警戒するような素振りを見せた。
「君達のような子供が何のようだ?」
ちなみに入り口の横にはショートランス(文字通り短い槍)が立て掛けられており、兵士はそれに手を伸ばしている。
うーん………異世界から世界を救う為に来ましたとか言って信じてくれるかな…………。普通頭可笑しいと思われても仕方ない。というよりマトモな人間なら絶対そう思う。
と、その時、メレンがとんでもない事をのたまった。
「えーっと、異世界から世界を救う為来ました。」
……………コイツ、馬鹿か…………?