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竜皇と魔王と獣王の話  作者: YY
地獄と三人と旅立ちの章
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第十話

連投します。

 



 見たことある不良が、荒々しい行進でギルドに入ってきた。その後ろに、他人を装いたい心境が不良との距離に出ている男女二人。男の方は肩も空気も落とし、女はにやけ面が隠せていない。

 豪狼は床を踏み抜く気かと言いたくなる足音で受付に、矢背と先生は空紀を見つけ駆け寄った。


「ねぇねぇちょっと聞いてアキちゃん!!バカジ君十回はボアに吹っ飛ばされて、二~三十メイト転がされるまで突進し続けてさぁ!よくあれで討伐出来ると思ったよね!?」


 メイトは長さの単位だ。mm(ミリメートル)がミリト、cm(センチメートル)がセント、メイトはm(メートル)である。時刻と同じで区切りは元の世界と変わらない。ちなみにkm(キロメートル)はキロト。


「ココ君の魔法は威力は期待以上だったけど、めっちゃノーコンで!私達に当たりかけるは、音凄いからボアは逃げるは、別の強い魔物を引き寄せるは大変だったよ!もちのろん収穫は無し!まぁ期限があるわけじゃないから、明日また違う方法を考えよう」

「すみません……」


 二人の魔法と普段の生活を見ていれば、結果は予想の範中だ。


 豪狼の魔法は攻撃を受けた後に効果を発揮する。攻撃を与えなければいけない討伐依頼に、どう対処するつもりだったのか。武器を購入した様子もない。ボアと聞けば猪だと分かると思うが、素手で倒した経験でもあったのだろうか。

 称号に身体能力補正とあるが、あくまで称号は過去の出来事に名が付いただけ。昔こういう経験をしたからステータスの数値や性格に変化をもたらしている、その影響を言語化したもの。

 豪狼の称号は暴れるほど調子に乗り、周りが見えなくなる性格を四字熟語で表しているだけ。つまりステータスには猪一匹に勝てる保証が、何も記されていない。何故いけると思ったのだろう。


 矢背の魔法は名前から、威力も派手さも一級品だと分かる。しかしなんでも凄ければ良いわけではない。過ぎたるは及ばざるがごとし、意味あってるだろうか。

 ボアを狩るのに爆弾を使う狩人が居るのか。仮に使ったとして、討伐証明の牙は壊れないのか。調整出来るほど魔法を巧く使えるのか。

 さらに称号が戦闘向きではない。〝先手必中〟はともかく、〝敗走少年〟がその苦手意識を物語っている。本人の気持ち改善を実行しないうちは、宝の持ち腐れだ。むしろよく無事だった。


「転がされたにしては豪狼は元気そうですね。魔物からも逃げられたみたいですし」

「ふふっ、私の魔法、虫の魔物と相性良いんだよねぇ。一発かましてトンズラしました!バカジ君はしばらくしたら傷とか治ったって、凄い回復力だね」

「ロウジだ!!何べんも言わすな!!」

「ひっ!!?」


 いつのまにか近くまで来ていた豪狼。椅子を割る勢いで、腰を下ろす。こんなに激しく貧乏ゆすりする人とは関わりたくないが、当事者の意見は聞くべきだろう。


「ギルドはなんて?」

「あいっつら!依頼はせん滅ではないので、群れの規模で依頼内容が変更することはない、とかぬかしやがる!いっぺんモノ見ろや!!なにが三十だ!?倍はいたぞ!!」

「机にあたらない!壊したら弁償だよ!?借金だよ!?」


 これはギルド側が正しい。依頼書には討伐証明ボアの牙三十体分とあるだけで、群れについての詳細は無かった。

 依頼ランクのE−が初心者なら、E+は一段上なのだ。実物を見ていないのではっきりとは言えないが、それだけで警戒する理由にはなる。


「明日も行く?」

「ったりめぇだ!!」


 復讐しないと気が済まないのも、不良らしい。矢背の顔が今までで一番歪んでいる。


「分かった、次は私も付き合う」


 喜んでるところ申し訳ないが、まずは屋敷に戻って勉強だ。先生に聞きたいことが山のようにある。流石に女子高生が猪狩りを経験済みとは思えないので、人生初猪狩りだ。まさか異世界でやることになるとは。





















 〝魔屈の森〟には明確な境界線がある。〝星穴〟からもたらされる魔力で、空間や生態系に影響を及ぼす〝深界(しんかい)〟。〝深界〟を囲むように〝星穴〟の魔力の飛沫を吸いに来る、魔物の領域〝密界(みつかい)〟。

 この二層になっている森をまとめて〝魔屈の森〟と呼び、〝勇者の街(ブレイブ・バリー)〟はその森から数キロト離れた場所にある。

 攻撃性の高い才能を持った『勇者』はもちろん、優れた冒険者でも小さな失敗で森の養分になる危険なエリア。どんな腕自慢も、見返りがなければ近寄ることもしないだろう。


 ブラウンボアがいるのはそんな森の中、ではなく〝密界〟のさらに外。魔力密度が濃いからか、ただご飯に困っていないだけか。〝密界〟が見える距離を保ちつつ、野草や木の実を食い散らかしていた。

 ブラウンボアは市場でもよく見かける、かなりポピュラーな食肉獣である。生息地の広い魔物で、狩人初心者がよく狙う。繁殖力が高いのもまんま猪だ。

 肉は主に焼くか干して非常食、皮は狩人の衣服になる。強くないが需要のある美味しい魔物だ。慣れた冒険者なら十や二十の団体は歩く食料、罠を張れば三十に増えてもなんとかなる。そういう魔物だ。

 しかし何事にも限度がある。


「いや多すぎ」


 風下から目標の群を見る、匂いは我慢するしかない。突進で木を倒せるブラウンボア達から、身をかがめるだけの雑な隠密。他の魔物にも食料となるブラウンボアは、冒険者にとって別の脅威を呼ぶ種にもなる。

 本来はブラウンボアを発見次第、他の魔物を警戒し迅速に隠れるのだが、念のため『風』に聞いても無駄な心配だった。数が数えられる魔物なら、無理に近付こうとはしないだろう。それほどに、多すぎるのだ。


「昨日襲ってきた百足とこの群れなら、どっちが強いですか?」

「うーん、まぁ百足とボア百匹が正面衝突したら、間違いなくボアが勝つかな!」

「百、より多くありません?」

「……二百はいないと思う、昨日よりちょびっと増えた、かな?」


 木から降り、身をかがめる。豪狼は股を大きく開いた不良座りで、矢背は杖を抱え青白い顔をしていた。


「どう見ても無理ゲーだろ、いつ産んだんだよあの茶色い豚ども」

「無理、絶対無理。帰ろう、ごめんなさい帰りましょう」


 この二人ステータスカードやギルドを見たような時だけ、意見が合う。空紀も憶えていれば同じ反応をしたのだろうか。

 しかし今の空紀の危険基準は、ゴブリンだ。実際に見て確信した、ゴブリン一匹よりボア二・三匹の方が弱い。


「作戦がある。ボア達が移動してしまう前に決めよう」


 仮にも同じパーティー、適度な協力を頼むのが筋だ。成功の確率が上がらないなら、組む意味が無い。


「まず矢背の魔法で、ボアを驚かせる」

「倒せ、じゃねぇのか?」

「どっちでもいい、重要なのは奴らの分散。びびらせて散らせて、後は各個撃破」


 矢背の魔法の音でボアが逃げた、と聞いた時から考えていた。そうでなくても、近くで爆発が起きれば普通は逃げる。


「逃げたブラウンボアはどうやって捕捉するの?走り出すと結構速いよ?」

「捕捉は私の魔法で出来ますし、追うのは十匹前後で森の中を逃げる団体。いくら突進で木を倒せるからって、まっすぐ行って全部倒しながら最高速度で走れるほど頑丈じゃないでしょう」

「よっしゃ!十匹くれぇならイケるぜ!」


 煩い豪狼が気付いてくれるように、小声を強調して話す。


「最低でも二つの団体を捕捉するから、一つは豪狼が行って足止めか撃破。もう一つは三人で行って確実に仕留める。終わったら援護に行くから、無茶しないこと」

「舐めんな、むしろこっちソッコウで片してそっち行ってやらぁ。つうかマジ大丈夫か?一人はノーコン一人は尻軽女だぞ?」

「由華先生だって言ってるでしょ。でもホントに平気?昨日も言ったけど私は監督役だから、事後処理くらいしか手貸さないよ?」

「ケチ軽女」

「ああっ!?」


 ノドに力を入れ再度小声で話す。


「無理そうなら逃げるし、怪我には気を付けます。先生もいるし、試したいです」


 これはチャンスだ。失敗しても死なない戦闘ができる機会は、余さず使うべきである。あの地獄を通ったのなら、なおのこと。


 頷くパーティーを見て、柄を強く握った。











 右の木の上に豪狼、左に先生がいる。ブラウンボアを猪の仲間と考えるなら、木の上が最も手っ取り早く身を隠せる場所だろう。

 一人では登れない矢背のベルトを掴み、枝から落ちないようにする。構えた杖の先にある宝玉から、魔力の風を感じた。美希子と違い濃さが無くスカスカだが、眩しい魔力だ。


「〈火よ踊れ 我が声にその身を焦がせ〉」


 工程が複雑な魔法や強力な魔法ほど、詠唱による調整が要るそうだ。豪狼の才能は体質で、空紀はまだ自分の魔法を深く理解出来ていない。現時点で詠唱が必要なのは矢背だけだった。

 大変そうだが、当人はむしろ嬉々として唱えている。ブラウンボアの群れ中央上空、火を練った赤い塊が膨らんでいく。


「〈炸裂せよ 〝暴炎球(ブラスト・バーン)〟〉!!」



 爆音―――――。



 この距離でも目をしかめる爆風と爆音に、ブラウンボア達は跳び上がった。気合の入りすぎていた魔法、他の魔物の動きが心配だ。時間はかけられない。

 鳴き声や足音が、四方八方から上がっている。しかし空紀が聞くのは『風』の音だけ。


「左下を抜けた十三匹は私達がやる!!右から今来る七匹は任せた!!」


 矢背と武器を持ったまま、枝を飛び降りる。追いかけようとしたが、豪狼が木にしがみついた状態で降りようとしているのを見て踵を返す。あれでは間に合わない。


「ぐえっ!?う、うおおおおおおぉ!!!?」


 首後ろを掴み、七匹のボアへ向かって投げる。叫んでいたが狙い通り、ブラウンボア達の背中に乗った。それ行け豪狼。


「うおおお、おおおおおお止まれーーーー!!!」


 しばらくは大丈夫だろう。

 〝重覚魔法〟で空紀に掛かるあらゆる重力に抵抗、走り出せば顔を叩く空気すら障害物にならない。


「速っ!?」


 矢背達も声も置いて駆ける。予想通り木々の合間を縫うボアの足は、そこまで早くない。最短ルートを走り、五秒で進行先に回り込めた。


 腰より下に構えるのは、あの鉈だ。地獄(ダンジョン)を共に生き抜いた相棒にして、恐怖の欠片。染まった血が完全に消える事はなく、切れ味は初心者鍛治師の作品とどっこいどっこい。

 しかし記憶のない空紀にとっては、こんなものでも思い出の品だ。悪い思い出だったとしても、慣れた武器を使わないでいる方が命に関わる。


 感じる重さを調整する。軽過ぎれば慣れた武器を使う意味が、重すぎれば魔法を使う意味がない。まずは一発。


「せいっ!」


 全力で振ればあら不思議、猪がまるで落ち葉のように舞うではありませんか。


「弱っ!?」


 想定以上の弱さだ。空紀を撥ね除けようと突進するボアを、ことごとく返り討ちにする。迎撃は刃ではなく峰を使う。高価ではないが、毛皮も立派な収入源だ。

 魔獣に求めるべくもないが、理性は粉一粒もないのだろう。一匹も逃げる素振りを見せず、全て撃退できた。

 唯一ゴブリンを上回っていただろう突進力を封じれば、空紀が手こずる要素も無い。知性はゴブリン(ヤツ)より低く、肉体も巨大ゴブリン(ヤツ)より脆かった。

 自信がつけば行動は早くなる。


「討伐証明と素材回収頼んだ、私は豪狼の援護に行く」


 返事を聞く前に走る。豪狼の位置は戦闘中も把握していた。


「くそがあああ!!!サシで勝負しろおおお!!!」


 何も考えていないのか、同じ所を回るようにボアから逃げている。離れた場所にいなかった理由が分かった。ボアの数に変化はない。援護、ではなく救援に向かう。

 得意技となった奇襲を掛ける。群れの後ろから、確実に仕留めていった。最後のボアがようやく空紀に気付く。


「だらっしゃあっ!!!」


 逃げる側から狩る側へ。ボアが突進の方向を変える前に殴り飛ばし、動かなくなってからも殴り続けた。勝利の雄叫びを上げる、うるさかった。


「やってやったぜ!!おい!テメェもなかなかやるじゃねぇか!!」

「はいはい」


 速攻でカタをつけるとか、十匹くらい楽勝とか言ってなかったろうか。深く問うのは辞めた、別に喧嘩がしたいわけじゃない。


「おーい!大丈夫ー!?」


 先生と矢背が合流。素材を回収し、次の標的を探す。爆音の効果はまだ残っていて、ばらけたブラウンボアの団体を『風』で見つけていった。


 風下から慎重に近付いて襲撃、それを三回繰り返した。一方的な展開だった。少し余分に素材を集める。

 豪狼は最後の一匹だけ取っていき、矢背はただ震えていた。先生は手持ちの魔法鞄で素材を回収していく。男達の存在価値が低い。


「四十六体分ゲッツー!いい時間だし、そろそろ帰ろっか?」

「だな、腹減った」

「やっと……帰れる」


 最後尾を歩きながら、今日を省みる。ブラウンボア程度なら二・三十匹だろうが問題無い。これからも魔物と戦って生計を立てるなら、自分と相手の力量を理解して行動するべきだ。

 ちゃんとしたパーティーを組みたいが、伝手はなくあてもない。そもそも組みたい理由が明確ではない、ただ他に思いつかないだけ。

 それに『相手』とは誰だ、生計を立ててどうするのか。


 足が止まった。

 異世界(ここ)で生きていくことは、もう難しくない。ただ言われた通りにギルドに入り依頼をこなすだけで、必要な物資が入手出来る。だが異世界(ここ)で生きていくのは、元の世界に帰る為、なのか。

 憶えていない世界に帰りたいと、空紀は嘘でも口にはしない。思ってもいない。

 思えるようになるまで生きるのか、記憶が戻れば思えるのか。記憶がまだ頭に残っているか分からない、保証のないモノの為に生きるのか。

 死にたくはない、しかし()()()()のか……。










 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァ!!!!!!!!!!










 そして、()()、は来た。




閲覧有難う御座いました。

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