互いの派閥 3
ヴェルガの友達の名前がたくさん出てきますが、あんまり覚えなくて大丈夫だと思います
探偵部の部室でディンヴァード派による秘密会議(笑)が行われていたころ、ヴェルガは委員会の仕事のために図書室に向かっていた。ふと、図書室のドアを開けようとした手が止まる。ドアの向こうから、数人の怒声のようなものが聞こえていたからだ。
(……なんだ? 騒がしいな……)
興奮しているのか、何を言っているのかはよくわからない。だが、声の大きさからして、騒がしい者達はドアからほど近い場所にいるのだろう。もしかすると受付付近かもしれない。できることならかかわりたくないが、委員会の仕事がある以上踵を返すことはできなかった。
大丈夫。図書室では静かに、ただそう言うだけでいい。図書委員が注意すればきっと聞いてくれるはずだ――――そう自分に言い聞かせ、ヴェルガはドアを開けた。
「ここは、図書室だ」
声が上ずらないように、震えないように、どもらないように、噛まないように、大きすぎないように、かつ相手に聞こえるように。絞り出した声はヴェルガが思っている以上に暗く深く響いた。それはまるで静かな怒りを湛えているようで。決して大きな声ではない、けれどだからこその迫力を伴ったその一言は、一瞬にして相手の注目を集めた。
「静かに使えないなら、出ていってくれ」
(真面目に注意しているので愛想がなく)不機嫌そうな顔、(努力の結果の)苛立った声、(言いがかりだが)憎しみに満ちた目。怒れる(ように見える)王子の姿に、騒ぎの元凶だった三人の男子生徒は小さく息を飲む。
一方で彼らに絡まれていた少年は、怯えと期待の混ざった眼差しを王子に向けていた。……達成感に喜ぶヴェルガは気づいていないが。
(言った……言ったぞ……!)
ヴェルガが感動に打ち震えられていたのもつかの間、その青い目が事態を映す。騒いでいたらしいのは三人で、ブレイラブルとローリネストの一年生だった。胸についた真新しいブローチとネクタイの色でわかる。その中の一人、唯一のブレイラブルの生徒は受付の中に入っていて、シエル=エイカーのネクタイを掴んでいた。シエルの頬は赤く腫れている。彼に殴られたのだろう。
ヴェルガの視線がそちらに向いたことに気づいたのか、ブレイラブルの後輩は気まずげにシエルのネクタイを離した。シエルはその場に座り込み、ごほごほと咳き込む。
司書のメイフェルの姿はない。仮にいるならすぐに止めに入っていただろうから、これは予想できていたことだ。他の利用者がいる様子もなかった。ということは、自分が何とかしなければ後輩と一緒に殴られてしまう。
たとえ一歳差とはいえ、曲がりなりにもこの場にいる誰よりも先輩であるわけだし、そういうことになるのは避けたかった。何より、痛いのは嫌いだし素手での喧嘩はからっきしだ。……もっとも、自信がないのは素手の場合だけだが。
「……暴れたいなら、外でやるべきだろう?」
一度の忠告でわかってもらえなかったようなので、改めて告げる。出ていけ、と言外に含ませた二度目の忠告は一度目のそれより言葉少なで、けれどだからこそ三人の男子生徒の想像力を掻きたてた――――王子は、己の手で制裁を下す気だ。
ここは静かに使うべき場所で、暴れるなどもってのほかだ。だから表に出ろ、俺が直々に断罪してやる……彼らは今のヴェルガの言葉をそう受け取った。彼らは理解したのだ。図書室は王子の聖域であり、自分達が喧嘩を売ったのは王子の手駒の一人だったのだと。だってそれ以外に、怠惰にして冷酷、傲慢なる第四王子が下民の騒ぎをわざわざ止めに入る理由がないのだから。
図書室を荒らして手駒を傷つけた自分達に、一体いかなる報復を下す気か。その恐怖は死の恐怖にも通じる。石のように固まってしまった身体に、生物としての本能が命じた。そこでようやく彼らはヴェルガに対する怯えから解き放たれる。すなわち逃走だ。
「……ッ!」
急にこちらに向って走ってきたので思わず避けたが、一年達は構わず我先にと争うようにドアから出ていった。逃げられたが、ひとまず図書室の安寧は帰ってきたようだ。ヴェルガはほっと胸を撫で下ろす。
「エイカー、大丈夫か?」
「せんぱ……ありがとう、ございます……」
受付越しに声をかけると、シエルは怯えたように顔を上げた。わずかに震えているようだ。無理もないことだろう。貴族の子女が通う学院とはいえ、落伍者や勘違いのひどい輩はいるものだ。
自分の家より立場が弱い家の子供なら足蹴にしても構わないとか、少しおどせば簡単に言うことを聞かせられるとか。いい派閥に入っていればそんな馬鹿馬鹿しい行いもほとんど防げるのだが、シエルの場合は入った派閥が悪かったか、まだ無所属なのだろう。
「今日は、もう帰れ。あとは俺がやっておくから」
委員会の仕事も、教師への報告も。逃げられたとはいえ、身体的特徴はわかっている。素行の悪い生徒を中心に調べてもらえばすぐにわかるだろう。
「……いや、三人の内二人は、お前と同じローリネスト生か」
「はい……」
シエルが寮に戻っても、あの推定いじめっ子と鉢合わせしたら意味がない。助けてくれる者か、いじめっ子を牽制できる大人が周囲にいればいいのだが、そう都合よくはいかないだろう。それもシエルはわかっているのか、椅子に座り直しただけで帰り支度をしようとはしなかった。
「……自分、エイカーの名前はもらいましたし、ここに入学するまでエイカー家で育てられてましたけど……エイカー伯爵の私生児ってやつなんで。あいつら、それが気に食わないんですよ。よその家のことなんですから放っておいてほしいんですけどね。異母兄と同じ派閥の人ですから、焚きつけられてるみたいで。それで困ってたんです」
「……」
何でもないようにシエルは言った。苦笑さえ浮かべ、気にしていないと言うように。だが、無理をしているのは傍目でもわかる。
イーヴレオス地方の夫婦の形で主流となっているのは一夫一妻だ。アルフェニア王国もその例に漏れない。聖典においては、結婚の女神マリラが認める限り一夫多妻や一妻多夫も許されるとされているが、さすがに現代ではそうそう見られるものでもない。経済面やら後継者やらの問題で、複数の配偶者がいる家庭を維持するのは困難だからだ。だから、結婚はせずに愛人のまま囲う富裕層が多く、彼らのもとに婚外子が生まれてしまう。
周辺諸国を含めても、多くの配偶者を持つのは国主ぐらいのものだろう。王の血を絶やさず、常に優れた血を取り込むことで子孫の能力を洗練し、かつ優秀な後継者を取り逃さないようにする。そのためどの国の君主も、最低でも二人か三人の配偶者がいた。
その意味ではヴェルガも私生児のようなものだ。もちろん実際は違うが、それは父親の血のおかげに過ぎない。普通なら、第二夫人など側室としかみなされないのだから。もしもエスティメス家が普通の貴族の家だったなら、ヴェルガの扱いは今とはまた違う意味でひどかっただろう。
「実は、自分はまだ派閥に入ってなくて。あの……先輩が許してくれるなら、なんですけど……自分も、アルフェンアイゼ派に入れてもらえないですかね?」
「……?」
目を泳がせたシエルが問う。シエルが加入したいというなら別に構わないが、ヴェルガの派閥に加入することでシエルが得られる利益は―少なくともシエルが得ようとしている利益は―浮かばなかった。
(まあ……俺はよく勘違いされるから、俺の名前を出せば抑止力ぐらいにはなるのか……?)
アルフェンアイゼ派の者達も、みな相応に義理堅い。シエルが加入するなら、唯一の一年生ということもあってみなよくしてくれるはずだ。
派閥内にエイカー家の関係者はいないし、ローリネスト生もいる。校内でも寮内でも、一言気をつけるよう頼んでおけばシエルを守ってくれるかもしれない。それにしたって、シエルはそのことを知らないはずだ。シエルの願いはいささか早計すぎると思った。
「もっとよく考えたらどうだ?」
「前から考えてたことなんで。中々言う機会がなかっただけです。……どの派閥に行っても、うまくやっていけるとは思えないんですよ。先輩のところだけなんです、自分が入れそうなのは」
「……俺が卒業すれば、アルフェンアイゼ派はなくなるぞ?」
「自分がいれば持つでしょう? 少なくとも、自分が卒業するまで先輩の名前を冠した派閥は残ります。一度入れてもらえたなら、よその派閥に移籍する気ないんで。……さすがにそのころには、自力で何とかできますよ」
どうやらシエルの意志は固いらしい。そこまで言うなら拒んでも可哀想だろう。迷いながらでもあるが、ヴェルガは承諾の意を示した。
* * *
(一体何の用なんすかね……)
星ノ日の昼下がり、休日であるにもかかわらずシエルは校舎に向っていた。補講があるわけでも、図書室で自習がしたいわけでもない。つい二日前に滑り込むことができたアルフェンアイゼ派、その先輩方に部室まで呼び出されたのだ。
派閥の面々との顔合わせ自体は昨日済ませている。ちょうど昨日が活動日だったこともあり、ついでに第二ダンジョン探索部の活動も見学した。活動内容自体は噂で聞き及んでいる。あの暗く深いダンジョンに倒れるまで入り浸るのは考えただけでしんどそうだったが、それでアルフェンアイゼ派の一員として認められるならいくらでもやってやるつもりだ。
……しかし、実際はそんなことは特になく、探索班は適度に休憩を取って楽しそうに潜っていたし、サポートという名目で部室に控える待機班までいた。シエルは結局待機班の一人になることになったので、派閥の活動はとても楽だと言うほかなかった。しかし派閥の活動が楽なら楽で別の懸念が生まれる。シエルの存在意義だ。これから一体派閥内で何をすれば釣り合いが取れるのか、対価に何を差し出せば納得してもらえるのか、今から不安で仕方ない。
シエルがアルフェンアイゼ派に下ったのは、派閥の主であるヴェルガの悪名をもって自分の身を守るためだった。恐らくヴェルガもそれはわかっているだろう。だからシエルは示さなければならないのだ、ヴェルガに守ってもらうだけに足りる価値を。ヴェルガは、それを求めてシエルを配下に引き入れたのだから。
一昨日、いじめの現場に偶然鉢合わせたヴェルガがシエルを助けるという気まぐれを起こしたのは奇跡だ。あれがなければ、シエルはまだ言いだせていなかっただろう。
ヴェルガが同じ委員会の先輩だったことには水と幸運の神と出会いの神に最大の感謝をささげたが、なかなか派閥の話を持ちかける機会と勇気がなくずるずると無所属のまま学園生活を過ごしてしまっていた。敵はどんどん増えるばかりで、最後の砦だった図書室にまで押しかける輩が来た時はもう終わったと思ったが、神々はシエルを見捨てていなかったらしい。
だが、派閥に入れたぐらいで安堵するのは早い。一日でも早く派閥になじみ、確固たる居場所を作らなければ。そのためにも今日の呼び出しでへまはできない。何のためのものかはわからないが、相応の覚悟で臨まなければ。
「失礼しまーす……」
部室のドアを開ける。中には中心人物である五人以外の全員がいた。決して狭いとは言えない部室だが、二十人以上が揃っているのにまだ余裕があるのはすごい。部室の中央にはテーブルがあり、そこでは大勢の利用を目的としているらしいお茶の用意がされていた。いくつも用意されたケーキスタンドに乗った食べ物に一瞬目を奪われる。
「やあ、よく来たね」
シエルを真っ先に迎えてくれたのは、柔和な笑みを浮かべた男子生徒だ。名はオルリッド=ティック=レルンハイム。ライドワイズの二年生らしくシエルとは直接かかわることも少なそうだったが、派閥の中ではそれなりの実力者のようだった。軽く接するべきではないだろう。きっちり挨拶すると、オルリッドは「そう固くならないでくれ。私達は同志なのだから」と言ってくれる。気さくな人柄のようだ。……一瞬だけ彼の紫の目が昏い熱を帯びたように見えたのは気のせいだろうか?
よく考えたら、昨日の顔合わせの時点で「馴れ馴れしくてすまないが、シエルと呼んでもいいかい? アルフェンアイゼ派は、みな互いを名前で呼んでいてね。新入生は君一人だから、君一人を姓で呼ぶのもなんだか疎外感があるようで……。もちろん君も、差し支えなければ私達のことは名前を呼んでくれて構わないから」と初めに言ってくれたのはオルリッドだった。親しみやすいというか、堅苦しいことが苦手なのだろう。
「今日は君の歓迎会なんだ。リディーラやロランがまた別に催してくれるだろうが、その前に一度私達のほうでもやっておきたいと思ってね。ほら、あの五人がいると君も緊張するだろう?」
「あ……えと、何とお礼をしたらいいのか……」
思いがけない気づかいにシエルの挙動が怪しくなる。まさかここまで優しくされるとは思っていなかった。あの五人と言うのは派閥の中心人物達のことだろう。確かにそうそうたるメンバーなので近寄りがたさはあった。顔を真っ赤にしてわたわたと動くシエルを、先輩達は笑いもしない。さあこっちへ、とテーブルの近くに連れていかれる。この瞬間、顔に向かってケーキが飛んできたり熱い紅茶をかけられたりする可能性をシエルはすっかり忘れていたが、別にそんなことはなかったので問題はなかった。
(……なんだ。アルフェンアイゼ派の先輩も、いい人達ばっかりじゃないすか)
アルフェンアイゼ派の面々が優しいというよりも、シエルが今まで置かれていた環境が劣悪なだけだったが、そんなことはおいしいサンドイッチを頬張る今の彼には関係ない。
「君も今まで大変だったみたいだね。だけど、アルフェンアイゼ派にいればもう大丈夫だよ」
「ヴェルガさん達に助けていただいたことがきっかけでこの派閥に入った方は多いわ。実は、ここにいるバルドやわたくしもそうなの。だから、変に気負うことはしないでね。ヴェルガさん達は、何の見返りも求めずにわたくし達を傍に置いてくれるんですもの……」
「とはいえ、感謝の気持ちだけは忘れるなよ。我らが神の加護を当然とだけは思ってくれるな」
「他の派閥のことなんて気にしないでくださいね。色々とうるさいことを言ってくる輩もいるでしょうが、しょせんそれはあの方々の素晴らしさを理解できない連中の戯言です」
「至高の五人がそこにいらっしゃること、それだけがわたし達にとっての大切なことよ」
「私はただあの五人を間近で見たかっただけなんですけどねー。あまり負い目に感じすぎると、私みたいに深い理由がないほうが肩身狭くなっちゃいますのでやめてほしいです」
「フィフィは軽いけれど重いわよね。ただそれだけの理由であの方々にすべてを捧げてるんですもの」
「あったりまえじゃないですか! ラナさん、私の信仰心を侮らないでくださいね? 理由なんてなくても尊いものは尊いんですよ?」
楽しいお茶会、楽しいお茶会であるはずなのだが……何故だか、ところどころ引っかかる。お茶とお菓子を囲んで和気あいあいと話しているだけなのに、胸が妙に騒めいている。この違和感は一体何なのだろう。
「驚いたろ? ……ああ、僕はノールドだ。ローリネストの三年だから……まあ、これからよろしく」
「よ、よろしくお願いします」
シエルに話しかけてきたのは、猫背気味で少し顔色の悪い男子生徒だった。正直、さすがに一度に二十人以上の名前を覚えるのは大変なので、こうして名乗ってくれると間違いがなくて済むためありがたい。ノールドは持っていたティーカップを置き、生徒達を次々と指さしていった。
「あいつはミケー。ティリカを追って派閥に入った男だ。そこのキャミリーとディシアはアディンの自称弟子。ルイニアとディーズはロランの助手だ、こっちも自称だが。あそこにいるエッリャとジェンヌはそれぞれヴェルガに惚れて派閥に入ったが、今は二人とも逆にヴェルガとリディーラの仲を邪魔する奴を絶対に許さなくなってる。それから……」
「ま、待ってください! 一度に言われても名前が覚えられなくて、」
「名前なんて覚える必要はないぞ。どうせ向こうのほうから寄ってくるからな。……ただ、どういう理由で派閥に入ったかを知らないと、喧嘩になることがある。今すぐここで喧嘩が始まってもいいように、ざっと説明をしておこうと思ってな」
「喧嘩、ですか?」
「ああ。誰が一番素晴らしいか、誰が一番そのよさをわかっているか。そういうことを影ながら言い争っているわけだ。大抵、“至高の五人は全員素晴らしい”、“派閥の全員が一番のファン”で終わるわけだが」
「しこうのごにん……」
ノールドの紹介は続いた。その横で、どんどんシエルが抱いた違和感の正体が浮き彫りになる。そう、ここにいるシエル以外の全員は――――派閥の中心人物である五人を異様なまでに信奉している。
彼らを至高の五人と称し、程度と方向の差はあれ五人全員を崇拝し。それはもはや派閥ではなく宗教の域だった。
「これで全員か。……まあ、ここにいる奴らは僕も含めて全員、他に行き場所がなかった連中だ。ヴェルガ達が派閥を作ってくれたから、僕らはこうして集まれる。ヴェルガは僕らの存在を認めてくれた。生きる意味……とまで言うのは大げさかもしれないけど、そういうものをヴェルガは僕らに与えてくれたんだよ。だから、僕らはヴェルガ達に忠誠を誓ったんだ。……どいつもこいつも、多少いきすぎているきらいはあるけどな」
「……」
「心地いいよ、ここは。孤独なのも不幸なのも僕だけじゃないし、僕よりもっとつらかった奴がいると気づける。でも、誰もそんなくだらない自慢はしないし、嫌な過去を興味本位でほじくり返してくる奴もいない。全員何かあったくせに、新しいよりどころのおかげで平気な顔ができるようになったからな。……ああ、ここまで言うとフィフィに面倒くさがられるか。あいつは重くて湿っぽい空気が嫌いだから」
だからお前も、難しく考えすぎるなよ――――そう締めくくり、ノールドはシエルから離れていった。
「あ、みんな! ちょうど今、ヴェルガ様が王城に着いたみたいよ!」
「え、なんで知って……」
ノールドの言葉を噛みしめる間も与えられないうちに、元気な声が響き渡って歓声が響く。振り返ると、ある女子生徒が奇妙な石板を高々と掲げている。確か彼女はアルナという名だっただろうか。石板は淡い光を放っていた。面食らったシエルに気づいたのか、アルナは何度かそれをつついてから見せてくれる。他の生徒達も覗き込もうとしていたが、シエルが見えなくなるような動きはしなかった。
それは部活で使うと聞かされた法術具の一種だった。石板にしか見えないが実は地図帳らしく、それ一つでダンジョンの地下十二階までの地図を見られるらしい。触って操作することで表示する地図を違う階の地図に変えたり、拡大や縮小もできたりするそうだ。
しかし昨日見た時にはダンジョン内の地図だったはずの地図帳が、今では何故か王都の地図を浮かび上がらせている。王城を示す場所には銀色の丸い記号がついていた。
「ほら、これがヴェルガ様の位置」
「なんですかこれ!? なんなんですかこれ!?」
アルナは優しく笑うだけで何も言わない。それがむしろ恐ろしいのだが。
(噂とはちょっと違うとはいえ……やっぱりアルフェンアイゼ派はやばい奴らの集まりだったんすね……)
遠い目をするシエルは、それでも後悔だけはしなかった。
* * *




