職業
私の髪は、生まれつき白い。
染めているわけじゃない。
病気でもない。
ただ、白い。
20XX年、この世界ではそんな特徴も“少し変わっている”程度になった。
ダンジョンが現れたからだ。
最初に出現したのは、東京駅地下。
巨大な陥没事故だと思われたそれは、内部調査によって“異世界に繋がる空間”だと判明した。
陥没した地下には黒い"門"が立っていた。壊したり、動かそうとしたが、びくともしない。門は簡単に開いた。
中には見たこともない生物がいた。
剣や牙で襲ってくる怪物。
光を放つ鉱石。
そして、人間の身体能力を強化する未知のエネルギー。
人類はそれを"魔力"と言った。
門が現れた日に、人類の前にステータス画面が現れた。16歳になると、見えるようになるらしい。少なくとも私はまだ見えていない。
ステータスが見えるようになると【職業】を選べる
剣士、魔導士、治癒師。
選んだ職業によって人生は変わる。高レベル探索者は、『歩く災害』と言われている。
それから数年で世界は変わった。
ダンジョン攻略は国家事業になり、探索者はなりたい職業ランキング一位となった。
配信者より、スポーツ選手より、人気がある。
テレビでは毎日どこかの攻略配信が流れ、コンビニには探索者監修の栄養ゼリーが並び、学校には《探索者適性検査》が導入された。
そして魔力は、人間そのものも変えていった。
赤い瞳。
銀色の髪。
耳の尖った子ども。
人類は少しずつ、“異世界側”へ近づいていた。
だから白髪くらい、今ではそこまで珍しくない。
小学校では「雪女」「じいさん」なんて呼ばれたし、高校生になった今でも、初対面の人にはだいたい二度見される。
慣れたものだ。
知らない人に髪を見られるのも。
写真を撮る時、知らない子どもに「あの人アニメみたい」と指を差されるのも。
今さら傷つきはしない。
……少し、面倒なだけ。
「水瀬 零、次お前」
担任の声に顔を上げる。
教室前方のモニターには、《探索者適性検査》の文字が表示されていた。
高校一年。
十六歳。
今日、私たちは初めて“ステータス”を見る。
教室の空気は朝から落ち着かなかった。
有名クランへのスカウトを夢見てるやつ。
将来のことを考え不安なやつ。
ただ面白がってるだけのやつ。
みんな浮ついている。
そりゃそうだ。
この日で人生が変わる人間もいる。
前の席では、短髪の男子が小さくガッツポーズをしていた。
「剣士! マジか!」
周囲から歓声が上がる。
職業《剣士》。
探索者としては王道中の王道。
身体能力補正が高く、前衛適性も優秀。企業クランの人気も高い。
「いいなぁ……」
「勝ち組じゃん」
教室がざわつく。
先生は慣れた様子で次の名前を呼んだ。
「南、《治癒師》」
「えっ、うそ……!」
今度は女子たちが騒ぐ。
治癒師。
希少職。
パーティに一人いるだけで生存率が大きく変わる。
国家資格扱いで、就職先にも困らない。
泣きそうな顔で喜ぶ南さんを見ながら、私は窓の外へ視線を向けた。
曇り空だった。
「……水瀬」
再び名前を呼ばれる。
教室の視線が集まった。
いつものことだ。
私は席を立ち、教壇前へ向かう。
透明な水晶へ手をかざす。
瞬間。
――ピカッ。
一瞬、大きく光った。
「……え?」
先生が目を見開く。
教室が静まり返った。
職業 《勝負師》
私は、意識を失った。




