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「なら、そうしてリリィに憑依したまま姫さんを、私が翔くんのところへ連れて行くから、その口を通して思いを伝えるかい? あいや、無理か」
自分で言って自分で否定する私。なにしろ、非現実的だしな。私からすれば、すでに立派な現実でも、もちろん翔くんにとっては違うだろうから…
「…ですね。きっと翔くんに驚かれてしまうでしょうし…」
そう言って姫さんが俯くや、そのリリィの髪に留めてあるはずのベレー帽が、ぱさと畳の上に。すると隣の空が、それを拾って再び留めてやる。
それはそうと、姫さんも…やっぱ私なら驚かせてもいいんかい。まったく。
「ふ〜む、そうだな〜…」
じゃあ、『私の知り合いの娘から』ということにして、姫さんの思いを私が翔くんに伝え…あいや、直に。だったな、そういえば。
まあ、ちょっと時間を掛けて考えてみることにしよう。
うん、きっと何かいい方法が見つかるはずさ。
さて、やがて皆が寝静まった頃…
私はといえば、1人ここ自室にてビデオ鑑賞。この6畳の空間内、愛用の和机やタンス等を脇目に、我が腹話術の師匠であられる菱屋大黒堂先生が、最近リリースなさったDVDを拝謁しているところだ。
「…さすがは大黒堂先生。腹話術のテクニックといい話のネタといい、相変わらず素晴らしい。私など足下にも及ばんな」
ちなみに、いま私が観ているネタは、同先生が操る人形トーマスに、なぜかニューハーフの霊が乗り移ったというものだ。
まあ、ニューハーフはともかく、それはウチの場合ネタじゃ済まん話だけど、な。苦笑。
「む…でも待てよ。女声か…」
そ、そうか。この方法ならイケるかも知れんな。
うむ、ちょっと閃いちゃったぞ。
よっしゃ。夜が明けて皆が起きたら、さっそく姫さんに話してみることにしよう。




