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闘神と仙術スキルでアポカリプス世界を駆け抜けろ!  作者: クラント
狩人編

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807/815

772話 エピローグ13



 ヨシツネと機械種タメトモとの模擬戦が終了。


 約束通り、毘燭が中庭の戦闘跡を『天沼矛・改』で綺麗に整備。 


 それが終わるのとほぼ同時に、機械種タメトモを追いかけて行ったラズリーさんが見張り塔から帰還。


 まだまだ怒りが収まらない様子ではあるが、

 元のメイド姿に戻って、俺達を教会の中へと案内。


 


「ふう………、いきなり模擬戦が始まっちゃって、ツユちゃん、ビックリしました」


「悪いな、騒がせちゃって」


「いえ……、タメトモも喜んでいたようなので、こちらとしても願ったり叶ったりです」



 応接間で白露と雑談。

 ラズリーさんは楚々とした態度で白露の席の後ろに立ち、

 白兎はいつも通り俺の足元、

 ヨシツネ、タキヤシャ、毘燭が俺の後ろに並ぶ形。



「ヒロは………、明日の朝にはここを発つのでしたね?」


「ああ………、悪いが見送りは良いぞ。その為に今、挨拶に来ているんだからな」


 

 行き止まりの街の時とは違う。

 エンジュ達と2ヶ月半過ごしたルトレックの街の時とも違う。


 このバルトーラの街では俺は超有名人。

 その俺がこの街から中央に向かって旅立つとなれば、

 こぞって街の人々が見送りに来かねない。


 そんな悪目立ちする中での出立は御免。

 だからこそ、今日は一日を使って、世話になった人達への挨拶周りをする予定なのだ。



「仕方ないですね………、ヒロは本当に恥ずかしがり屋さんです」


「すまん。でも、こうやって挨拶に来ているんだ。勘弁してくれ」


 

 しかし、白露の寂しそうな顔を見ていると、

 つい見送るのを許してしまいそうになる。


 だが、白露は鐘守。

 彼女が動くとなれば、どうしても人の目に付きやすくなる。


 まだ『鐘割りのテロ』の前であれば、白露が訪ねて来ても、そこまで目立つようなことは無かった。

 現に何度も俺のホームを訪れているし、

 騒がれることも無かったであろう。


 だが、今に至ってはソレも難しい。

 俺のガレージ横には黄龍である輝煉が居座り続け、

 すでに『白ウサギの騎士』のホームの場所と、

 中央への出立が近いということは知れ渡ってしまっている。


 白露が見送りに来れば、ソレを隠すのは非常に困難。


 俺は出来る限り、こっそりと街を出ていきたい。

 ただでさえ全長100m超の輝煉が動くのだから。


 また、俺の跡を付いて来ようとする者がいないとも限らない。


 俺は中央では『白ウサギの騎士』とは名乗らず、しばらく『悠久の刃』で通す予定。

 中央に辿り着く前に『白ウサギの騎士』の痕跡を消さなくてはならないのだ。

 

 故に、人通りの少ない早朝を狙って出立する。

 皆に見送られることも無く…………



「しばらくは会えないだろうが………、白露はいずれ中央に戻るのだろう?」


「はい、辺境の滞在任期があと1年半ありますから………、でも、空の守護者のコードを取得できたことでもう少し早くなるかもしれません。ですが、ヒロとの約束がありますので、短くても1年は必ずこの街にいるつもりです」


「ああ、助かる。その間、バッツ君やルークにもしものことがあったらその後ろ盾を頼む」


「任せてください! ヒロの後顧の憂いを断つことができるのですから、ツユちゃん、張り切って頑張っちゃいますよ(ドンッ!) ケホケホッ!」



 俺のお願いに、自分の胸をドンと叩いて、

 張り切る様子を見せる白露。

 思いっきり叩き過ぎで軽く咳き込む。


 後ろのラズリーさんに背中を摩ってもらっているのが、いつもの白露らしいと言える。


 しかしながら、傍から見れば些か不安になる言動。

 それでも、この辺は鐘守である白露が最適と言うべき配分。



 白露には孤児院のことを頼んだ。

 だが、一生という訳ではない。

 せめてバッツ君やルークの生活基盤が出来上がるまでをお願いしている。

 

 また、俺が世話になったボノフさんや教官のことも。

 どちらもこの街の有名人で有力者。

 こちらは万が一の保険みたいなモノであろう。


 俺がこのバルトーラの街で引き起こしたトラブルの数々。

 旅立った後もそれらの火種が燻り、後々勃発する可能性はゼロではない。

 だからこそ、1年間という期限を絞って白露にお願いした。

 それくらいの時間が経てば、俺が仕出かした影響も薄まっているだろうから。



「じゃあ、今度、白露と中央で会う時にお礼をすることにしよう。何でも好きなモノ奢ってやるぞ」


「わーい! その時は、遠慮なく集らせてもらいますからね! 超高級ブロックを無制限にパクついちゃいます!」



 白露はまるで子供のように騒ぐ。

 満面の笑みを浮かべて燥いでいるように見えるのだが………



 ほんの僅かに表情が曇っていると感じるのは気のせいであろうか?

 

 もし、そうだとしたら、その原因の一つに鐘守特有の悩みがあるのかもしれない。

 それは数年後、俺と再会した時に、外見が変わっていないだろうこと。

 


 鐘守は歳を取らない。

 とすると、鐘守が定期的に街を移動する理由も頷ける。


 白露の任期である、あと1年半はギリギリであろう。

 終盤になれば、背も伸びず、子供なままの白露を不審に思う者も出てくるかもしれない。


 そして、俺と白露が出会うであろう数年後。

 おそらく2年以上先になるのは間違いない。


 その時に出会う白露の姿は、今と同じ子供のまま。

 素晴らしいレディになっていると俺と約束していたはずなのに……

 

 

 果たして、俺は何と白露に声をかけるべきなのだろうか?

 それとも、今、この場で問い質すべきなのだろうか?


 決められない。

 決心がつかない。

 決定的に今の白露との関係が変わるのが怖くて………




「ヒロ? どうしました? 顔が強張っていますよ」




 俺が黙り込んだことで白露から声がかかる。


 蒼氷の瞳。

 白銀の髪。

 白磁の美貌。

 

 あと5歳も年を取れば、絶世の美少女になるはずなのに、

 白露は永遠に子供の姿のままなのだ。


 

 なんとかしてあげたい。

 だが、今はなんともできない。


 今の俺では力が足りない。


 白の教会を敵に回し、

 人類全てからも狙われるとなれば、

 今の俺では白露を守り切れない。


 だから俺は力を手に入れる。

 俺が守りたいモノを守るために。

 俺が守りたいモノの為だけの英雄になる為に。



 だから今の俺ができることは、

 

 俺が英雄になるまで、

 俺が誰にも侵されない力を得るまで、

 その時まで、君を守る『幸運』を与えてあげるくらい。


 

 俺が『招幸運』の術にて、幸運を与えられるのは、あと1回。

 

 一番お世話になったボノフさんでも無い。

 俺を好きと言ってくれたアスリンでも無い。

 救う術の見当もつかない教官でも無い。

 俺の弟分とも言うべきルークでも無い。

 仲良くなったアルスやハザン、ガイ、レオンハルトでも無い。



 俺は白露を選ぶ。

 俺の未来のヒロインを。

 この小さくて可愛いお姫様(リトル・プリンセス)を。




「白露。少しお願いがあるんだけど………」


「はい? 何ですか?」


「少しだけ目を瞑ってくれるか?」


「え?! ヒ、ヒロ………、それは………」



 俺の言葉に白露は驚き、

 顔を赤らめてモジモジし始め、



「ヒロ………、この場は神聖な教会の中ですから………」


「いや、別に変なことをするつもりは無いぞ。白露の為に少しだけ祈らせて欲しいだけ」


「へ? 祈る? 白鐘にですか?」


「……………まあ、そんな所。ちょっとしたおまじないだよ」


「はあ………、構いませんが」



 腑に落ちない表情のまま、白露は素直に目を閉じる。


 次に、俺はその背後のラズリーさんにもお願い。



「ラズリーさん。このおまじないは誰にも見られてはいけないので、終わるまで後ろ向いていて貰えませんか?」


「…………まあ、今更ヒロ様が不埒な真似をするとは思いませんが……」



 こちらも俺の言葉に従い、クルッと後ろを向いてくれる。

 これも俺が培った信頼のおかげであろう。

 

 

 これで準備は整った。

 あとは血文字で『幸運』と手の平に書き、

 祈りを込めて願うだけ。




 俺は予め自分で傷つけていた部分に貼り付けてある絆創膏を引っぺがし、

 痛いのを我慢して傷口を指でこねくり回す。


 ある程度血が指に付いたら、その指で掌の上をなぞり、『幸運』と書き示す。 



 そして、手の平を目の前の白露へと向ける。

 白露の運命が少しでも良い方向に動くようにと願いを込めて。




『白露の未来に幸運あれ!』




 ピカッ!



 目を瞑ったままの白露の姿が眩く光る。

 彼女が囚われている運命の檻に強く干渉。

 

 鐘守という立場であれど、彼女はあまりに弱く、優し過ぎる。

 白の教会の意に反しても、弱者に救いの手を伸ばそうとする性格。

 下手をすれば、罰を下されかねない危うい立ち位置。 

 

 だが、俺から与えられた『幸運』が彼女を守る。

 たとえ、不幸が忍び寄ろうと瞬く間に弾き飛ばす。


 彼女が進むはずだった運命の落とし穴を塞ぎ、

 橋をかけて輝かしい未来へと送り届けるのだ。



 

 

 眩い光の中、俺の視界にぼんやりとした映像が浮かぶ。

 それは訪れるかもしれない未来の予想図。

 



 そこは街中。

 発展具合から中央の街のどこかであろう。


 道を歩く俺に、誰かが声をかけて来た。



「ヒロ!」


「へ?」


 

 驚いて振り返るとそこには………



「驚きましたか? ヒロ……」


「え? あの……」


「驚くのは無理もありませんね。………ちゃんのあまりの美しさに声も出ないのでしょう!」


「ええ!? ……ま、まさか、お前、白つ……」


「そうです! ヒロが会いたがっていた………ちゃんですよ!」


「そんな………、だって………、いや、でも………」



 俺の前に現れた………は昔の面影を残しつつ、………した姿で現れた。

 俺は驚きのあまり、戸惑い、そして、その美しさに見惚れてしまう。


 彼女はそんな俺を見て、悪戯っぽく笑い、

 口調だけは昔のままで、俺へと立て板に水を流すように捲し立ててくる。



「へへ~ん! どうですか? ………ちゃんの姿は? ヒロ? 忘れてはいませんよね? 昔の約束!」


「……………それは、もちろん」


「じゃあ、ヒロの目から見て判断してください。………ちゃんは、立派なレディになっていますか?」


「…………ああ、立派なレディになっているよ」


「!!! ……………ありがとう、ヒロ。その言葉が聞きたくて、私はずっと………」



 その瞬間、彼女の顔は泣き笑うような表情を浮かべる。

 何年も待ち続けた願いが今、叶ったかのように。



「じゃあ、ヒロ。今度はこっちがレディに対する扱いをチェックしてあげます! ………だから、この街を一緒に歩きませんか?」



 白銀の美少女から差し出される手。

 俺はお姫様に対するかのように恭しくその手を取る。


 昔なら俺は大きく屈まなくてはならなかった。

 しかし今は、決して背の高い方では無い俺とちょうど良いくらいの……



「では、参りましょう。俺の美しくて可憐な(ビューティフル)お嬢様(・レディ)







 映像がそこで途切れた。

 至るかもしれない未来の物語はそこでお終い。



 後に残るのは、未だ目を瞑り続ける、小さなお子様。

 小さくて可愛いお姫様(リトル・プリンセス)…………

 

 思わず、未だ瞼の裏に残る、未来の姿であったろう姿と見比べる。

 

 ああ、確かに、あの姿は白露の…………



 








 白の教会を後にした俺達は、その足でこの街でお世話になった人達への挨拶回りを続行。


 白翼協商の事務所でガミンさんとミエリさんに。

 蓮花会の事務所でマダム・ロータスに。

 鉄杭団の事務所でパルティアさんに。

 それぞれお世話になったお礼を込めて、超高級ブロックの詰め合わせをプレゼント。


 ボノフさんのお店には、途中で合流した天琉と廻斗、秘彗と胡狛を連れてご挨拶。

 1時間程滞在した後、名残惜しまれながら、お店を出る。


 孤児院には、バッツ君とルーク、マリーさんに会い、

 肉系ブロックを段ボールに詰めて差し入れとして渡した。


 その後、約束していたお店でアルス、ハザン、ガイ、レオンハルト、アスリンチームの皆と会う。

 

 アルスからは、ランクアップしたというトライアンフの姿を見せられた。

 優美な吟遊詩人からなぜかパンクロッカーに進化?していたのには驚かされた。


 ハザンとは、中央で再会した時、もう一度組み手をしようと約束した。

 

 ガイとも、同じ約束をした。こちらはどちらかが倒れるまでの勝負をご希望らしい。

 

 レオンハルトとは、渡した野菜関連の話をした。成果が出たら必ず伝えると。


 アスリンとは、今日の朝に会った所。

 早朝に俺のガレージにて機械種イバラキドウジの残骸を引き渡したのだ。

 俺と会うまでにブルーオーダーの為の蒼石準1級を手に入れ、従属・制御してみせると自信あり気に宣言。

 きっと彼女ならやり遂げるはず。


 ニルは陽気に、ドローシアは真面目に別れの挨拶を交わした。

 2人はアスリンと共に中央を目指す予定。

 アスリンと一緒に中央で出会うことになるだろう。






 そして、次の日の早朝。


 俺はバルトーラの街を旅立った。




「ふう…………、長いようで、短かったなあ………」



 車の後部と連結した潜水艇のリビングルームで、後方モニターを見ながら呟く。


 モニターが映し出すのは、遠ざかっていくバルトーラの街。

 俺達が半年間過ごした第2の故郷とも言うべき場所。


 胸を過るのは郷愁。

 寂しく、切なく、どことなく心細くなっていくような、そんな気分。



「住んでいた街を離れると言うのは………、どうしてもセンチメンタルな気分になるな。もう何回も経験したこととなのに」


 フルフル

『こればっかりは慣れないと思うよ。それぞれの街で思い出があるんだもの。それぞれに感じ方も違うんだから』



 俺の独白に白兎が応える。

 俺の向かいの椅子にチョコンと座って耳をフルフル。

 

 

 俺と白兎がこうして街を離れるのは、もう何回目になるだろうか?

 このバルトーラの街の前は、エンジュと過ごしたルトレックの街。

 その前は……いろいろ転々としていたから、やはり行き止まりの街になるだろう。


 

「ルトレックの街を離れる時は、エンジュ達に見送られたんだよなあ……」


 パタパタ

『そうだったね、あの時、エンジュさんが【行かないで!】って縋りついていたら、マスターはどうしていただろうね』


「その場合、街に残っていたかもな」


 

 意思の弱い俺だ。

 すぐに易きに流れて………、酷い目に遭っていた可能性が高い。


 今から考えても、俺があの段階で街を離れていなければ、トラブルに巻き込まれるのは不可避であったはず。

 俺という規格外の人間が普通の街で過ごすのには無理がある。

 近いうちに破滅に向かって進み始めたに違いない。

 

 そういう意味ではエンジュの覚悟が俺を救ってくれたとも言える。

 やっぱりエンジュは必要な時に俺の背中を押してくれる子だったのだ。



「行き止まりの街では………、チームトルネラの皆やアテリナ師匠に見送られたんだったよな」


 ピコピコ

『僕の弟子達も、だよ』


「ああ、そうそう。確かになあ………」



 チームトルネラに置き土産とばかりに機械種ラビットを20機ばかりプレゼントしたのだ。

 当時の俺からすれば大盤振る舞いであっただろう。


 代わりに受け取ったのは、サラヤからの心ばかりの餞別の品であったナップサック。

 そして、トールから無理やり渡された『白の教会の聖印』。



「…………………」



 ふと、トールの事を思い出して、思わず苦虫を噛み潰したような渋い顔。

 未だ、彼がやったことを許せず、頭を過る度にこんな表情を浮かべてしまう。

  

 しかし、以前に比べれば、彼に対する確執は大幅に減少。

 

 それは未来視で彼の本音と覚悟を見た為。


 白花に撃たれ、瀕死の状態で語った彼の言葉。



『これは僕が仕出かしたことが………原因だからね。責任を取ろうとしただけだよ』


『本当にヒロは頼もしいね。君に嫉妬していた僕が馬鹿みたいに思えるなあ………』


『ねえ、知ってるかい? 僕は君になりたかったんだよ』


『ありがとう、ヒロ。そして、ごめん。君を陥れようとしたことは………僕の誤りだった。もう謝ってもどうしようもないけれど………』


『生きながらえることができたのなら、次はきっとヒロの役に立つために頑張るよ』

 


 そして、白花から撃ち込まれた時限式の爆弾によって炎の中で消えた。



 もちろんこれは俺が見た未来視の中での話。

 現実のトールは生きているだろうし、彼が今も同じ思いを抱いているかは不明。



 けれども…………



 彼から別れの際に受け取った『白の教会の聖印』。

 何代にも渡り、信仰の証として受け継いでいた家宝。

 おそらくトールの唯一の財産、肉親の形見とも言えるモノ。

 それを俺へと渡してきたのは彼の贖罪でもあったのだろう。


 そして、その聖印に込められた願いおかげで、

 俺は白露の元に辿り着くことができたのだ。


  

 彼に罪があるとすれば、雪姫に俺の悪評を吹き込んだこと。

 彼に恩があるとすれば、チームトルネラで色々とお世話になったこと、

 及び、俺に託してくれた聖印のおかげで白露を救うことができたこと、であろう。


 罪と恩が差し引きできるモノなのであれば、

 俺は彼のことを許さなくてはならないだろう。

 

 だが、人間の感情とはそう差し引きで計算できるモノでは無い。

 そう簡単に許すことができれば、人間社会はもっと単純でいられたはず。



 

 それでも…………




「恩は恩だよなあ………」




 七宝袋からトールから貰った『白の教会の聖印』を取り出して眺める。




「恩は返さなくてはならない。それは俺が俺である為に必要なこと」




 だから…………




「行き止まりの街を訪れることがあるのなら………、トールにも顔を見せてやるとするか」




 今はそれが精一杯。

 その時に何をするのかは、未来の俺に任せるとしよう。


 そう心の中で答えを未来へと先送り。

 容易に答えの出なさそうな難問はそれに限る。



 全く、いつまで経っても俺の『現状維持と保留』の信条は変わらないなあ……



 ふと、そんなことを考えていると、


 手の中で弄っていた白の教会の聖印に、


 『宝貝の気配』を感じ取った。




「え? ………どうして?」

 



 俺は聖印を手に呆然と呟く。

 

 今まで宝貝の気配など欠片も無かったと言うのに。

 突然、宝貝の気配を発するようになった。


 だが、その回答は明らか。

 俺のトールへの恨みが減り、好感度が上昇したのだ。


 しかし、理屈では分かったも感情はそうもいかない。


 俺はまだトールを完全に許すことはできないと認識しているのだ。

 なのに、なぜ勝手にそう判断されるのか!!

 俺の気持ちを決めつけるな!!




「………………クソッ!!!」




 一時、感情が高ぶるも、

 



「ふう…………」




 怒った所でどうしようもないことに気づき、

 腹の底から息を吐いてクールダウン。




「………………」



 

 しばし、手の中の聖印を見つめる。

 少しの間、悩みはするも、結論は決まっていると言っても良い。

 

 複雑な思いを抱くトールからの贈り物とはいえ、

 有用な宝貝をここで増やさないという選択は無いのだ。



「宝貝に変換しないという手はないよな………」



 諦めたように一言呟いて、

 手の中にある聖印へと仙力を注ぐ。


 トールから手渡され、

 俺の危機を救った白の教会の聖印は、

 その材質から幻想へと置き換えられ、

 俺の手で宝貝へと生まれ変わる。



『宝貝 霊珠』



 形は丸と三角が組み合わさった聖印そのまま。

 中身は仙力で満たされ宝貝と相成った。


 流れ込む宝貝の意識は薄い状態。

 まだはっきりとした意思を持っていないのかもしれない。

 

 

 『宝貝 霊珠』は封神演義における太乙真人が作り出した宝貝。

 あの有名な宝貝人間、哪吒の元となった宝貝でもある。


 母親から生きて産まれることなく死産した哪吒は、

 この霊珠を埋め込まれることにより、宝貝人間として復活を果たした。

 

 つまり、この『霊珠』は死した人間を、

 宝貝人間として復活させることのできる宝貝ということ……………

 

 



「え?」






 一瞬、俺の思考がフリーズ。


 そして、身体をブルブルと震わせ、

 喉を絞るような声で発した言葉は、




「もしかして、雪姫を生き返らせることができる?」




 『宝貝 霊珠』からの返答はないが、

 俺が持つ『仙術』スキルから、感覚的に『YES』という返事が返って来た。





「ああ……………」




 その次に生まれた感情は爆発的な歓喜。

 狂おしいまでの雪姫への愛情。

 



「ああ、あああ…………」





 口をダランと開けて、

 ただ、呆けたように声を漏らす。


 ただ、もう一度、雪姫に会えるということだけで、

 俺の頭の中が真っ白になる程に歓喜に染まる。




 フルフルッ!!

『マスター! 大丈夫?』


「どうされました、マスター」

「マスター!」

「キィキィ!」


 白兎、森羅、秘彗、廻斗が俺へと声をかけてくる。


 しかし、今の俺は彼等に構う余裕など無く、

 七宝袋の中にずっと収納していた雪姫の遺体を取り出した。



 床に横たわる雪姫の遺体。

 頭の下に枕代わりのクッションを差し込む。


 まだ、生きているかのような温かみさえある。

 胸の中央に滲む血がなければ眠っているだけのよう。


 まるで童話の白雪姫。

 皮肉なことに、雪姫がそう名乗ることを禁じられた鐘守本来の名の通り。 




「雪姫……………」




 俺の胸の中に渦巻く雪姫への思い。

 思い出さないよう封印していた激しい情念が沸々と湧き出てくる。


 行き止まりの街で彼女と過ごした1年間。

 エンジュや白月さん、白露、アスリンと過ごした年月よりもずっと長い。


 唯一、力を示さなくても俺に興味を持ってくれた女性。

 ただのヒロを真正面から見つめてくれた人………




「今、生き返らせてあげるから…………」




 右手に作り出したばかりの『宝貝 霊珠』を握り込み、

 雪姫を生き返らせる為に使用しようとした所で………




『待て! その雪姫は、俺と1年間を過ごした雪姫では無いぞ!』




 俺の僅かばかり残った理性からストップがかかる。

 



『その雪姫は………、モラやルフ、パサーを殺した俺を憎み、俺を殺そうした雪姫だ! 生き返らせたら、必ず俺の命を狙って来るぞ!』




 ああ、それはそうだ。

 だって、俺が愛した雪姫は、俺の未来視の中にしか存在しないのだから。



『もし、私が覚めない眠りに着いたら、アップルブロックで起こしてほしい』


『ああ、分かったよ。最高級のアップルブロックを用意するさ』



 そう約束した雪姫は虚構の存在。

 俺が辿ったルートでは出会うことができなかった。


 そして、現実での雪姫は、大事な従属機械種を殺した俺を、

 決して許さないであろうことも分かる。



 でも………………

 だからこそ……… 



 俺はもう一度、生きている雪姫に会わなければならない。


 俺が犯してしまった罪を、

 俺が破ってしまった約束を、

 俺が掴み損ねてしまった運命を。

 

 俺は彼女に謝らないといけない。

 俺は彼女に許しを請わなくてはならない。

 俺は彼女に会って………、それから………

 

 

 もう俺の頭の中は支離滅裂。

 色んな感情が湧いて来て。

 色んな記憶がごちゃ混ぜになって。

  

 ただ、ただ、雪姫にもう一度会わなくては! という思いだけが暴走状態。


 俺の冷静な部分ではどこかおかしいとは感じつつ、

 それでも感情の暴走は止まらない。


 俺の中の誰かが叫ぶ。

 雪姫ともう一度会いたいと。


 たとえ、俺を憎む雪姫でも。

 たとえ、俺を殺そうとする雪姫でも、


 その為になら、たとえ彼女が俺を殺す最悪の敵、

 『ラスボス』になったとしても……と。


 一目会うことができるなら………

 彼女の生きている姿を目にすることができるなら………



 俺はどんなリスクだって許容しよう!

 俺はその為にここまで進んできたのだから!!



 『宝貝 霊珠』を手汗が滲む程に握りしめる。

 雪姫にもう一度会いたいという一心で祈りを込める。




「雪姫……………、生き返ってくれええええ!!!」



 

 心の底からの叫び声をあげ、

 手の中の『宝貝 霊珠』を発動。

 


 ピカッ!



 眩い光を放ち、『宝貝 霊珠』は雪姫の遺体へと沈み込む。


 

 次の瞬間、雪姫の身体が激しく発光。


 

 ふと、気が付けば、

 雪姫の胸の中央の血糊が消え、

 蒼ざめていた顔色に血色が戻り、


 


 閉じられていた目蓋が開いた。




 目の色は透き通るような蒼氷色。

 冷たく空を移す氷鏡のごとく。

 


 やがて、雪姫はゆっくりと身体を起こして立ち上がる。


 まるで夢遊病者のような危なげな動きで辺りを見渡し………


 立ち尽くす俺の所で目を止めた。

 


 真っ直ぐに俺を見つめる雪姫の瞳。

 吹き荒ぶ吹雪のごとく冷たい色。


 その美しさは俺の記憶に残る通り。


 雪の結晶を集めて人間の形にしたような儚い美貌。

 静寂の中で咲く冬の花を思わせるクールな上品さ。

 

 氷の国の王女様の再現。

 俺の理想を固めて造り上げたかのよう。



 俺は、ただ、生き返った雪姫の美しさに魂を縛られ、

 体は先ほどから彫像のように固く強張ったまま。


 それなのに、俺の目は彼女の一挙一動を見逃せない。

 食い入るように雪姫が動くさまを見つめ続ける。



 どのような言葉をぶつけられても、俺は受け入れるだろう。

 どのような行動にでようと、俺はソレを受け入れるだろう。

 


 雪姫が生き返ったことが嬉しくて。

 おれはどんな対価でも支払う覚悟。



 最初に投げかけられるのはどのような罵倒なのだろうか?


 

 許さない?

 殺す?

 それとも………


 ああ、いけない。

 もし、あの言葉を言われてしまったら………

 また、雪姫を手にかけるかもしれない。


 だから、ここは先に………… 




「ヒロ?」




 ぼんやりとした頭で考えていたら、

 雪姫が俺の名を呼んで来た。


 相変わらずの感情を乗せない平坦な声。

 それでいて氷が解けて弾けたような澄んだ響き。


 


「ヒロ?」




 もう一度名が呼ばれる。

 さっきよりも少し感情が込められているように思う。

 だが、感情の種類は分からない。

 しかし、名を呼ばれた以上、返事をせねばなるまい。

 

 

「ああ、ヒロだ」



 俺がそう名乗ると、

 雪姫はじっと俺を上から下まで流し見て、



 やがて、その目に俺を非難するような色を浮かべた。


 

 そして、その色の薄い唇を開き、


 俺に向けて発した言葉は………

 



「ヒロ、アップルブロックはどこ?」


「…………………へ?」


「へ? じゃない。アップルブロックはどこ?」


「……………え、いや、その…………」


 


 雪姫が俺に尋ねて来た質問。

 それは本来存在しないはずの未来視での雪姫の言葉。


 一瞬、雪姫の言葉が上手く飲み込めず、

 俺はただ茫然と雪姫を見返すだけ。



 すると、雪姫は俺がアップルブロックを持っていないと見たようで、




「もう! アップルブロックで起こしてって頼んでたのに!」




 その頬をプクゥと可愛らしく膨らませ、


 拗ねたような口調でそう言い放った。





※データ一覧に『宝貝 雪姫』が追加されました。

お読みいただきありがとうございます。

この話を以って一旦、物語を完結とさせていただきます。

……と書きながらも、10月5日(日)には後日談を投稿する予定となっております。

その後に再度完結と致します。


次の中央編なのですが、再開の時期は決まっておりません。

新しい作品として中央編を投稿するかもしれませんし、この作品を一から改定するかもしれません。

もしかしたら、全く違う物語を書き始める可能性もあります。


と言いますのも、この作品を投稿してから5年以上も経ち、500万文字を超えてしまいました。

しかし、作者の力量不足から、ランキング上位に乗ることも無く、コンテストに応募するも落選、書籍化も遠い夢の話。今更、この作品を続けても、陽の目を見ることはないだろうと思ってしまったのです。


あまりに万人受けしない主人公、盛り上がりの欠ける序盤の展開、初期の魅力的なキャラ不足。

これ等の要因を修正しなければ、ずっと埋もれたままでしょうし、書籍化にも届きません。

少しばかり改定したところで意味はないでしょうから、もう一度作品を根本から練り直そうかと考えています。


ですが、この作品をずっと楽しみにしていただいている読者の方がいるのも分かっています。

ご感想や暖かい言葉を頂戴し、今まで大変励みになっていました。

そんな読者様の為にも、このまま続けたいと言う気持ちもあります。


なので、この作品を継続するか、それとも、一から改定するか、新しい作品を始めるか、を考える時間を頂きたいと思います。

続けるにしても、中央の設定を詰めないといけないので、時間は絶対にかかるのです。


もし、中央編を書くとなると、その話のキーは『鐘守』になります。

今回、宝貝人間となった雪姫を伴い、中央の各地を回り、色々な鐘守と出会います。

今の雪姫は感応士として最底辺。しかし、自分を知る鐘守と出会うことで力を取り戻していきます。

そうすることで、主人公チームは足りていなかった有能な感応士を作り上げることができます。

あと、雪姫がヒロインに決定したわけではありません。逆に雪姫がヒロインになるのはもの凄く大変。


では、最後になりますが、この作品をご評価いただけるのでしたら、ぜひ、評価ポイントの星を入れて頂きますようお願い申し上げます。


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お疲れさまでした、中盤以降仲間内の模擬戦が多発した辺りで一度離れていましたが完結と聞いて読みました。 楽しいところも多い作品でした。ありがとうございます
お疲れ様です。楽しく読ませていただきました。 個人的には、主人公に対するイライラと雪姫を殺した部分が重かったように感じました。一度、そこで読むのを辞めたので。 ウジウジして迷うのもいいのですが、やは…
…ふと思ったんですが、宝具を聖別するとこの世界に馴染んで更なる力を引き出すとありましたが、宝具人間になった白雪も聖別すればさらなる結びつきが生まれて強化される可能性も………いや、白兎以上に意味わからな…
感想一覧
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