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闘神と仙術スキルでアポカリプス世界を駆け抜けろ!  作者: クラント
スラム編

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59話 保留


 ディックさんから先ほど半壊した家の床に埋めていた袋を渡される。


 中を覗いてみると、2cm程の蒼石と黒いカードが一枚。


 蒼石は俺の持っている物よりもかなり小さい。

 おそらく等級が低いからであろう。しかし、この黒いカードは一体何だろう。

 どこかで見たような気もするが。



「どうした? マテリアルカードを見たのは初めてという訳でもあるまい」



 ディックさんが俺の困惑した顔を見て聞いてくるが。


 カードを取り出して、触ってみる。10cm×5cmくらい。正しくカードサイズ。

 何の模様もない黒一色だ。裏返して見ると、カードに薄っすら数字が浮かび上がっている。




『2050』




 ん、ひょっとして、この数字がマテリアルの数を表しているのか。


 ああ、そう言えば、街で見かけた取引も高額そうなのはカードでやり取りしていたな。


 そりゃそうか。

 百、千、万とかのマテリアルをじゃらじゃらさせて支払いとかできるわけがない。

 高額の取引はこのカードで行っているのか。



「いえ、ちょっと久しぶりだったもので。使い方を忘れかけちゃいました」



 不信に思われないように誤魔化す俺。

 素直に全く知りませんので、教えてくださいって聞けば良かったかもしれないが。



「まあ、スラムにいたら滅多に触る機会が少ないからな。マテリアルを入れる時は近づければ勝手に吸収するし、カード同士でやり取りもできるから一枚持っておけばかなり便利なんだが……」



 ディックさんはちょっと昔を懐かしむような顔をして言葉を続ける。



「チームトルネラでは、個人がマテリアルカードを持つのを禁止していてな。昔、盗難騒ぎがあって、大揉めしたことがあったんだ。それ以来、カードに触れるのはまとめ役のサラヤと物品管理しているナルだけなんだ」



 ふーん。

 カード一枚なら盗むのも簡単だろうし、スラムの孤児の集団だったらそんな奴もいて当然か。



「だから、俺達男子は外にへそくりを隠すようにしているんだ。一応、サラヤも俺達の報酬はボスの倉庫で管理してくれているんだが、どうしても引き出すのに女子の手を借りないといけないからな。女子にバレずにマテリアルを使おうと思うと、こうやってへそくりを貯めるしかないんだ」


「こういったへそくりはどうやって稼ぐんですか?」


「まあ、色々だな。他のチームに余った獲物を交換するときもあるし、独自に狩人とパイプをつないで簡単な仕事を貰うことだってある。繁華街に行けば短期の下働きくらいはできるぞ。スラムチームに入らずにそっちに行っている子供もいるからな」



 俺もそっちへ行った方が良かったのかな。

 そうすれば、もっと狩人とかの情報を得ることができたかもしれない………



 俺が少々考え込むような素振りを見せると、ディックさんは苦笑を浮かべながら付け加えてくる。



「やめて置け。客として行くのでなければ、あっちの待遇は最悪だ。大人が若者を食い物にしようと待ち構えているんだぞ。何のコネも無しに行けば、監禁されて売り飛ばされることだってある。あちらに行く子供はスラムの中での争いすらできないような奴らばっかりだ……まあ、チームトルネラはそんな子供でも拾ってしまう奴がリーダーなんだが……」


 

 なるほどね、あっちはあっちで別の苦労をしそうだな。

 そういう意味では、このスラムにいる若者は互いに争うことを宿命づけられた精鋭なのかも。


 だけど、チームトルネラには弱者である子供が多過ぎる。

 明らかに足手まといのテルネだってチームに入れているし。

 

 この辺はチームの方針であり、ディックさんの言う通り、リーダーであるサラヤの意向なのであろう。







 ふと、ディックさんの方を見ると、付けている義足を例の戦闘用だというものに取り換えている。


 脛に何重にも布を巻いてしっかりと固定し、皮紐のようなもので縛りつけていた。


 そして、その傍らには、俺への報酬である袋と同じところに隠しておいたと思われる、武器、片手持ちのハンマーと、白い球状の物体をつけたキーホルダーのようなものが置かれている。



 あのハンマーで戦うのか?

 ちょっと短すぎるような気がするが。



 精々長さは40cmくらい。

 鉄槌の部分は2~3kg程度の鉄アレイくらいの大きさだが、あれでは命中させるのも難しいのではないか。


 もしかして、あの隣にある白い球状の物体がラビット用の秘密兵器なのか?



 俺がハンマーと白い球状の物体に視線を飛ばしているのを見て、ディックさんが説明してくれる。



「このくらいの長さで無いと片手では振り切れないからな。この足では踏ん張りがきかんし、これくらいが精いっぱいだ」


「あの……銃を貸しましょうか?スモール最下級のヤツですけど」


「俺は銃が苦手でな。正直、ラビットに当てる自信がない。それに、銃で倒しても意味が無いんだ。つまらない俺のこだわりだと思ってくれ」

 


 そうまで言われてしまったはしょうがない。

 しかし、その大きさで片手持ちのハンマーでは破壊力に欠けるだろう。大丈夫かな。

 やっぱりその白い球状の物体が勝敗のキーを握っている……?



「いや、これは『白鈴』だ。ここから先は虫どもが多いからな。それを避けるための虫除けだ」



 ああ、そう言えばなんか聞いたことがある。

 しかし、『白鈴』か。

 ザイードに説明してもらった強い機械種を近づけさせない『白鐘』の携帯版のようなものかな?。



「効果は逆だがな。『白鈴』は弱い機械種に良く効くんだ。それも対象は精々インセクトくらい。もっと効果の大きい物もあるとは聞くが」



 ディックさんと話していると情報がどんどん入ってくる。

 やっぱり拠点に残ってもっと教えてもらいたいな。



 ディックさんは戦闘用義足を装着し、立ち上がってハンマーの重さを確かめたりしている。


 目はすでにこれから相対するはずのラビットに向けられており、いまさら挑戦を止めることはありえないだろう。





 この場で仙丹を使用して足を生やしてしまったらどうなるんだろう?


 ふと、そんな考えが頭によぎる。


 しかし、ディックさんは、おそらくこの日の為に色々準備してきたはず。

 俺の勝手な行動で、それを邪魔していいものか………




 いいに決まってるだろ!

 失った足が戻ってきて、喜ばない奴がいるかよ!




 ああ、まただ。

 誰かが俺の頭の中で叫んでいる。


 自分の力を使用すれば、人の人生を容易に変えることができる。

 ほんの少し手を伸ばせば助けることができる人がいるのに、それをしない。

 そのことへの罪悪感が俺を攻め立てているのだろう。

 


 でも、今は行動しない。

 その選択肢は今だけのものではない。

 これからのラビット戦の後でも構わないはずだ。



 こういう場合、いつも俺は『保留』を選ぶ。

 それは元の世界からの俺の行動原理なんだろう。


 どんな世界に行こうが、そんな能力を持とうが、どんな仲間を得ようが、それは変わらない。

 それは俺が俺であるという証明なのかもしれない。

 全くもってくだらないことだが。




「こっちの準備は整った。そろそろ行こうか」



 ディックさんから声がかかる。


 このイベントの結末には何が待っているのだろう。

 そして、俺はどのような選択肢を選ぶのだろうか?



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