脱出<三>
爆炎は技術棟内を浸食、防御用の扉を吹き飛ばし、扉を破壊し、ダクトを駆け回る。第一、第二、第三扉を粉砕し、第四扉でやっと停止した。しかし爆炎の威力はとどまるところを知らず、再び反転。横方向に逃げれないとなると、今度は垂直に逃げるしかない。爆炎はタンクのあった四階から五階、六階へと昇っていく。そして最上階の天窓を吹き飛ばすと、空に一瞬だけ、巨大な火柱を作り出した。次第に別れ、空に炎の花を咲かせるそのさまは、神の逆鱗に触れ、破壊されたバベルの塔を連想させた。真田を追ってきた大量のアンドロイドは、一気に消滅。第四扉以降で脱出を行っていた生徒、学生は助かった。事前に真田が機器を使って確認していたため、これによる人間の死傷者は、彼一人だった。もちろん、唯も牧野も無事。
しかし、脱出中の文豪、姫はこのことを知らなかった。あの後、降下してきた大量のアンドロイド兵から逃げるため、教師たちのガレージに走った彼らは、自分たちのことに必死だった。
『出来るだけ逃げやすいクルマを探しましょう!』
姫が叫ぶ。
『あの、あれ!』
『これは……』
ホンダ、NSX。数十年前の超高級車だ。しかも、レース仕様のGTだった。羽が付いていないことを除いて。
と、気付いたのは姫だった。文豪が、姫が女性であるにも関わらず殿を付けて呼ぶのは、車、機械など、見かけによらず男らしい趣味を持っているからだった。
『文豪君運転して!』
『はあ?』
姫は、運転ができなかった。しかし、それは文豪も同じである。
とりあえず、ドアを開ける。鍵はかかっていないようだった。中には鍵が置かれている。ミッションはMT。マニュアル。
文豪はとりあえずコクピットに座り、クラッチペダルを踏む。車に詳しくない文豪とて、マニュアル車にはこの動作が必要なことぐらいは、知っていた。キーを回す。
エンジンが始動。ハイオクガソリンの入ったタンクの詰め込みのあと、発進。ガレージからの脱出まで、数分を要した。ギアの操作に慣れず、エンジンを数回殺したからである。
「とりあえず、わが国の首都、東京へ向かいましょうぞ。姫殿」
土壇場で操縦を覚えた文豪は、ある程度走ってから姫に提案した。
「ええ、そうしましょう。ただ……」
ドアのポケットから、CDを引き出す。
「これ、掛けていい?」
いいと答えると、ディスクを取り出して入れる。
「これは……」
姫は、恥ずかしそうに答える。
「007、ジェームズ・ボンドのテーマ」
「はあ?」
文豪は、素っ頓狂な声を上げた。
飛び出した後固形燃料が切れた。無動力で墜落していく。下方に建物の跡があった。校舎の前に建てられていた、図書館の跡だ。その中に突っ込む。墜落中に柱に足をぶつける。
……衝撃が来るはずだったが、来たのはクッションに落ちる感覚だった。柱で減速され、ソファにやわらかく着地したらしい。
やれやれ、と体を起こすと、背中の大きなバックを開いて固形燃料を取り出し、ブーツの燃料ユニットに挿入した。
とりあえず、ご主人様をさがすことにする。いったい何が一階に置いてあったのかも気になるし。と、身を翻して歩き出したその時、突然唯のセンサーが反応した。
「何? 高速で近づいてくる?」
唯は、空を見上げた。強力なソニックブーム……超音速飛行による衝撃波の後、巨大な影が、ゆっくりと降りてきた。




