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永遠の桜  作者: ふがし
第1章 生誕編
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第9話 永遠のひとかけら

 ロリババアの定義における異種族問題というものがある。

 多くの人はこの言葉に聞き覚えがないだろう。いやまあ、僕が勝手に作った言葉なので当然だけれど。


 ロリババアの定義には、幾つかの根本的かつ重大な問題点が含まれている。この一つが、ロリババアの定義における異種族問題だ。


 たとえば、犬を考えて欲しい。犬種にもよるけれど、犬の平均寿命はおおよそ7~15歳くらい。この年齢を指して、「人間換算で60歳程度」という言い方をする。ここで問題となるのがこの『人間換算』という概念である。

 多くの場合、人間換算という考え方はそれほど的外れではない。10歳の犬は体が弱り、老成した雰囲気を持つなど、人間でいう老人の特徴を多く持っている。

 ではここで、七十歳のエルフというものがいたら、どうか。七十歳、というと人間なら高齢だ。間違いなく老人というくくりに入る。だが、この世界のエルフ──妖精の一種、ハイエルフとは近縁だが別種──の平均寿命は約一千歳である。七十年という歳月さえ、エルフにとっては生涯の十分の一以下でしかない。人間換算で言うと、4~5歳くらいになるのだろうか。もうお分かりだろう。そう、エルフの、いやエルフに限らず、長寿の種族に対し、人間の年齢を基準にしてロリババアの定義を当てはめることは適切か、という問題が生じるのだ。七十歳のエルフが成熟した精神を持っているならばいい。だがもしも。もしも、七十歳でありながら、言動や性格が完全に子供のそれであったら? 七十歳のエルフにあどけない瞳で「イロハおにーちゃん」などと成熟した理性の欠片もない声で名前を呼ばれてしまった日には、──僕はひょっとしたら発狂してしまうかもしれない。自分自身の深い懊悩のために。

 定義は確かに満たしている。だがそれは決して『ババア』と呼べる存在ではない。この問題こそが、ロリババアの定義の孕む根本的な欠陥の一つであり、僕を長年苦しめてきた『ロリババアの定義における異種族問題』なのだ。



 ……その点、リリアさんは実に素晴らしいと言える。小柄な体は痩せすぎずゴツすぎず、絶妙な均衡を保っている。胸もお尻も大きさは控えめだが、時折控えめに柔らかく震える。真っ白な肌が、上気して赤く染まった様は艶かしい。アメジストの瞳は愁いを帯びて、細やかな睫毛が彩りを添えている。落ち着いた物腰は気品と誇りに充ちていた。


 うん、素晴らしいロリババアだ。桜お姉ちゃんと方向性は異なるが、満点を進呈したい。


「……またアホなこと考えておるな」

 

 横から桜お姉ちゃんが、呆れたような声を漏らした。


「勿論桜お姉ちゃんも満点ですよ? 容姿、物腰、言動、性格。どれをとっても完璧なロリババアです」

「ああ、そうかい」


 ヒラヒラと手を振って、答えた。お湯がパシャパシャ跳ねる。リリアさんは苦笑をしていた。


 僕たちは今、三人で風呂に入っていた。残念ながら天然の温泉ではない。宿に備わった浴場に、湖の水を浄化して沸かしたお湯を注いでいるようだ。

 浴場と言っても、大人数ではいる公衆浴場ではない。何でも、この宿には浴場が多数用意され、部屋ごとにその一つを貸しきれるのだとか。広さも三人で入るには十分過ぎるほどだ。金がかかっているだけはある。

 桜お姉ちゃんは浴槽の壁にもたれ掛かって「ういー」と気持ちよさそうな声を漏らしている。リリアさんはというと、こんなときでもビシっと背を伸ばして湯に浸かっていた。もう少しリラックスしてもいいんじゃないかな……。


 桜お姉ちゃんは、長い黒髪を後頭部でぞんざいに纏めている。一方、長髪に慣れていない僕は、従業員さんに髪を纏めてもらった。その結果、頭の上にお団子が乗ったような、笑える髪型にされた。正直、あまり二人に見せたい姿ではない。しかし僕が桜お姉ちゃんとリリアさんの前に姿を見せるやいなや、いきなり二人に抱きつかれた挙げ句、やたらと頬擦りされた。妙な琴線に触れたようだ。


 それはそれとして、風呂である。僕は勿論、桜お姉ちゃんのこともリリアさんのことも愛しているが、裸を見られるのはやはり恥ずかしい。結果、二人から若干距離感をとっている。けれど、僕もロリババアハーレムを築くと宣言した身。恥ずかしがってばかりもいられない。


 まず桜お姉ちゃんのほうへ。正面から抱き締めると、彼女は慣れた手つきで僕の腰に手を回した。僕を見つめる漆黒の目には「しょうがないやつ」と言いたげな苦笑じみた感慨と、愛し子を見るような限りない慈愛が混じり合っていた。

 僕の視線に気付くと、彼女は自分の唇を細い指先で撫で、にやり、とイタズラっぽく笑った。昼間のキスのことを揶揄していると察して、顔がカッと熱くなった。睨み付けてもニヤニヤした笑みを崩さなかったので、ツン、とそっぽを向いて身体を離してやった。


「そんな照れんでもよいじゃろ。愛しておるぞ、いろは」

「知りません!」


 怒って、泳ぎ去る。ついで、リリアさんに抱きついてみた。リリアさんも抱き返してくれたが、その手つきはぎこちない。壊れものを扱うような緊張を感じた。ぴんと張っていた背も丸まり、腰が引けている。少しもの足りず、腕に力を込めた。リリアさんのお腹と僕の腹がぴったりと重なりあった。途端、びくり、とリリアさんが震えた。


「あ、ご免なさい、リリアさん。嫌でしたか?」

「い、いえ……ただ、その……私は筋肉質ですし、あまり抱き締められると……恥ずかしいと言うか……」

「そんなに気にしなくても。十分柔らかいですし、リリアさんとこうしていると凄く安心します」


 顎先を彼女の肩に軽く乗せて耳元で囁くと、彼女は自信無さげに目を伏せた。


「いや、でも……私は胸もないですし……」


 一体何を言っているんだ。ロリババアで巨乳などあり得ない。それは定義1『小中学生の平均的な体型から大きく外れない』に反している。


「胸がないほうが僕は好きですよ。こうやって抱き合ったとき、ぴったり体を重ねられるじゃないですか。相手を余すところなく感じられるって、とっても幸せな気分になりません?」

「そう……でしょうか」

「それに、ほら。目を閉じてみて下さい」


 戸惑った様子を見せたが、リリアさんは言われるがまま目を閉じた。


「感じるでしょう、僕の心臓の鼓動。僕も、リリアさんの、感じます。

 ……あは、今少し速くなりましたね」

「う……」

「ね、胸が小さいと、互いの鼓動がはっきり分かるでしょう。自分と相手の分、二倍幸せになった気分がしませんか?」


 微笑みかけると、リリアさんは色素の薄い頬を赤らめた。


やがて、薄く、微笑みを返す。


「ええ……そうかも、しれませんね」


**********


 風呂を済ませて、着替える。服は、宿から貸し出されたものだ。浴衣に少し似ているが、生地は薄く、肌が僅かに透けて見える。どちらかと言うと、ベトナムの民族衣装であるアオザイを連想させた。


 桜お姉ちゃんとは勿論、あの後すぐに仲直りした。長髪の洗い方を教えてもらって、互いに洗いあってみた。新鮮で中々楽しい。


 この世界にもドライヤーに相当する道具はあるようだ。木の棒の先にマナの結晶を埋め込んだ道具で、魔力を注ぐことで熱と微風を生じる。この世界ではこうした、マナを利用した魔道具と術が広く用いられているらしい。


 髪を乾かし終わると、桜お姉ちゃんが後ろから抱きついてきた。優しく髪をすいてくれる。


「桜お姉ちゃんに抱き締められてると、安心します。ずっと昔、子供の時、こうやって抱き締めてもらったような気がする──」

「うむ……不思議な感じじゃ」


 暫く、そうして体を委ねていたが、不意に、こちらをじっと見つめるリリアさんの視線に気付いた。


「あ──ご、ご免なさい、リリアさん。つい夢中に」

「いえ。それは構いません。ただ」

「ただ?」

「……二人は、なんだかとても自然に愛し合っている感じがして──それが少し、羨ましいのです」

「自然?」

「私は、考えてしまいますから……。抱き締められたときどう反応すればいいか、誉められたときどう返せばいいか」


 そんなに悩むことだろうか。


「愛しかたも愛されかたも、私にはよく分からないのです」


 うーん。恋愛経験絶無というのは嘘ではないようだ。

 少し悩む。桜お姉ちゃんから離れて、リリアさんの手を取った。


「じゃあ、練習してみましょう」

「練習?」

「はい。愛しかたの練習です。僕とリリアさんで、互いに相手の好きなところを挙げていくんです。相手のいいところが見えれば、今よりずっと、互いにに好きだって思えますよ」

「そういう……ものでしょうか」

「ええ。きっとね」


 彼女の長い耳に口を寄せる。


「じゃあ、僕から。リリアさんは凛々しくて、カッコいい」

「う……。イロハは、とても綺麗です」

「頭がよくて、尊敬できます」

「……イロハは少し意地悪だけれど、やさしいです」

「リリアさんは初々しくて可愛いです」

「……誉めてるんですよね?」

「勿論誉めてますよ。さあ、リリアさんの番です」


 リリアさんはむぅ、と唇をへの字に結んで唸った。

 ……うん。自分で提案しといてなんだけれど、これ、言うほうも言われるほうも滅茶苦茶恥ずかしいな。拷問か。


 その後。20回目を越えた辺りでリリアさんが詰まり、最後の方は僕が一方的にリリアさんの好きなところを耳元で延々囁き続けることになった。耳まで真っ赤にして顔を手で覆うリリアさんはとても可愛いらしい。

 そんなことを考えていると、後ろから急に抱きつかれた。


「……桜お姉ちゃん?」

「いろはは、意志がとても強い。目的に向かって突き進めるところがよい」

「……え?」


 疑問符をあげる僕に構わず、彼女は続ける。


「可愛い。全宇宙一可愛い。愛情が深い。儂に優しい。やっぱり可愛い。儂に甘えかかってくるきなど最高に──」

「ちょ、ちょっと……! やめ──」


 僕の悲鳴じみた制止にも構わず、お姉ちゃんは延々僕の好きなところを挙げ続けた。


「親孝行なところがよい。大学のときは仕送りを一切受け取らず、アルバイトでしのいでいたな。それでも勉強は欠かさなかった。笑い顔が可愛い。拗ねた顔も可愛い。起きたばかりの眠そうな顔が可愛い。泣き顔も可愛い。それから……」

「いやああああああああああああ!」


 ……結局。桜お姉ちゃんの精神攻撃は都合十分以上も続き、僕はリリアさんと並んで真っ赤になった顔を覆ってうずくまる羽目になった。

 桜お姉ちゃんはというと、そんな僕を見て満足そうに微笑んでいる。ドSめ。ドSめ! いつか泣かせてやる。……いやだめだ、桜お姉ちゃんを泣かせるなんて僕のほうが耐えられない。


**********


 僕たちがようやく立ち直ったころ。夕食が運ばれてきた。

 夕食は、魚料理が中心だった。焼き魚、煮魚、白米。漬物が少しと、タレをつけて焼いた貝。海老に似た生き物や野菜を揚げたもの。魚と海藻の汁物。

 味は全体的に薄目だが、上品で美味しい。


「味うっすいのう。口がひん曲がるような塩辛いシャケが食いたいわ」

「運動している身としては、もう少し塩気と量が欲しいですね」


 ……二人には不評のようだ。

 因みに、料理は木製の箸と匙でたべる。料理に応じて使い分けるのが正しい作法らしいのだが、リリアさんは匙を、桜お姉ちゃんは箸をもっぱら使っていたので、作法もヘッタクレもなかった。


「うむ……酒は中々よい」

「甘口ですね」


 アイルの酒は主に米から醸造しているようだ。

 僕は飲んでいない。酒は二十歳になってから。……いやこの国の法律ではどうか分からないけれど。


 食べ物が片付いた後も、酒宴は続く。リリアさんはちびちびと。桜お姉ちゃんはぐびぐびと。それぞれ酒を干していく。


「……桜お姉ちゃん。ちょっと飲み過ぎじゃないですか?」

「なんひゃとぅ? わしはまららいじょーぶじゃー」


 全然呂律回ってないじゃないか。あれか、酒は好きだしよく飲むけれど、アルコールには弱くてあっという間に潰れるタイプか。


「仕方ない人」


 ため息を一つついて、桜お姉ちゃんに肩を貸して、立ち上がらせる。……重い。いや体重的には大したことはないのだろうけれど、いかんせん僕が非力すぎる。ついでに言うと、桜お姉ちゃんがぐったりと体を預けてくるせいで尚更重く感じる。

 なんとか、布団まで運び込んだ。彼女の乱れた衣服と髪を整えて、掛け布団をかぶせる。


「いろはー」

「はいはいなんですか?」

「らいすきー」

「僕も大好きですよ、桜お姉ちゃん」

「ずっといっしょ」

「……ええ。ずっと、一緒です」


 僕の答えに満足したのか、桜お姉ちゃんは目を閉じた。ほどなく、穏やかな寝息を立て始める。


「お休みなさい、桜お姉ちゃん」


 そっと、彼女の額に口付けをする。


 僕はふ、と軽く息をもらすと、リリアさんのもとに戻った。


 部屋には、窓辺から月の光が差していた。月光を浴びるようにして、リリアさんはひとり、酒盃を傾けながら外を眺めていた。冴え冴えとした美貌は、懐古と、憂いと、慈悲と、その他幾つもの曰く言いがたい感情に彩られている。

 何とはなしに、声を掛けづらくて、彼女の姿を無言のまま眺めた。

 立ち尽くしている内に、リリアさんのほうが僕に気付いた。


「桜さんは、お休みですか?」

「ええ。リリアさんは、大丈夫ですか?」

「はい。酒には強いんです。代謝能力の高さは、妖精の長所の一つですから」


 彼女の方に歩み寄って、酒の瓶を取る。


「お酌、しますよ」

「お願いします」


 差し出された盃に、そっと注ぐ。


「いい気分です。イロハのような美少年を侍らせていると、王侯貴族にでもなったような気がしますね」


 ゆったりと盃を傾けながら、リリアさんは微笑んだ。


「外、見ていたんですね」

「──ええ」

「懐かしそうでした」

「懐かしい……といえば、そうですね」


 微かに遠い目をして、リリアさんは言った。


「よければ、話、聞かせてもらえませんか?」

「……老人の繰言ですよ?」

「いいですね。大好物です」

「全く。おかしな人」


 暫く目を閉ざした後、彼女はぽつりぽつりと語りだした。


「昔々。約一千年の昔、とあるハイエルフの将軍が、軍を率いてこの地で人間種族と戦争をしました」


 外から僅かに弦楽の音が聞こえる。ほとんど静寂に近い夜の闇に、リリアさんの透き通った声が響く。


「当時、人間、妖精、獣人、魔人、爬虫人の5種の中で、人間が飛びぬけて勢力を伸ばしていました。人間は他の4種を『亜人』と総称し、これらを滅ぼして人間中心の世界を作ることを目指しました。……全ては長い戦争に終止符を打ち、平和をもたらすために。『人間中心主義』の台頭です」


 始めは静かに。徐々に熱を帯びて、彼女は語る。


「ハイエルフの将軍はそんな考えを許せませんでした。義憤のためではありません。ただ彼女は、自分の仲間を滅ぼされることに耐えられなかったのです。彼女は表向き人間に協力しながら、水面下で獣人、魔人、爬虫人と密約を結び、更に人間中心主義に反対する人間をも味方につけました。そして──」


 リリアさんが微かに目を伏せた。


「ついに決戦の日がやってきました。人間の軍は亜人を滅ぼすべく、意気揚々と進軍します。敵の大将はハイエルフの将軍。守りに長けると評判はありましたが、攻め戦は殆ど経験がありませんでした。組みし易し、と人間は駆けます。けれど、敵のハイエルフが一声号令をかけるや否や、瞬く間に軍が崩壊しました。何と、人間の軍の中には亜人と内通しているものが多数いたのでした。

 追い討ちをかけるように、亜人たちが結集して人間の軍に襲い掛かります。人間たちは必死に抵抗しました。ついには竜まで呼び出しましたが、それも半日と持たずに、ハイエルフの将軍に斬り殺されてしまいました。亜人たちは当時人間の国家の中心地であったこの地まで兵を進め、降伏を受けて勝鬨をあげました。この街の名は」


 言葉を切って、酒を軽く流し込む。


「アイル。シシファ語で『絶壁』を意味します。この街は、亜人に協力した人間たちが作った街なのです」


 語り終えて、息をつく。重い疲労の色がのしかかっているように見えた。


「後悔、してるんですか? 戦争を起こしたこと」

「いいえ。やらなければ、滅びた。だからやったんです。後悔などありません。

 ……少しずつ。少しずつですが、この世界は変わろうとしている。明けない夜の時代から、文化の華が開く夜明けの時代へ。5種族が協和する平穏と安寧の時代へ。ただ──」

「ただ?」


 そっと、リリアさんの指が傍らの愛剣の柄を撫でた。


「……時折、悩むことがあります。本当に自分は、同胞が滅びることを許せなかったのかと。戦乱の中でしか生きられない私は、より多くの戦争を望んでいたに過ぎないのではないかと」


 伏せられた瞳は苦悩を映して暗く輝いていた。


「……戦争は年々規模が縮小している。人々の歩みは、私の手を離れてしまいました。一千年です。長寿のエルフですら、当時を知るものは死に絶えたでしょう」

 

 息絶えるような沈黙が降りた。言葉は交わさず、ただ盃を傾ける仕草が月の光を僅かにゆるがせる。


「……ああ、速いな」


 不意に、リリアさんが呟いた。何のことを指しているか分からず、首を傾げる。


「この曲です。外で、楽師が弾いている……ああ。年々、テンポの速い曲が増えている気がする……。最近の曲とは、こんなに速いものだったでしょうか……。私には少し、速すぎる……」

「曲、変えてもらいましょうか?」


 立ち上がる僕を、リリアさんは潤んだ目で制した。


「いいのです。若者に合わせられないようでは、良くて笑いもの、最悪ただの老害ですから……」


 言って、リリアさんは瞼を閉じた。僕はそっと、彼女の手を握った。同じように、目を閉じる。異国の楽の音が、時に穏やかに、時に激しく、僕たちの間を駆け抜けて行く。

 リリアさんの横顔をそっと盗み見る。消えうせてしまいそうな儚さを感じて、思わず声をかけた。


「リリアさんは」

「はい?」

「人の愛しかた、分からないって言ってましたよね」

「……ええ」

「僕が、人の愛しかたを教えてあげます。今日みたいに。僕のことを好きで好きで仕方なくなるくらいに」

「……年寄りは労わるものですよ。そんなに激しく愛されたら、壊れてしまいます」


 苦笑する彼女の頬に、そっと手を添えた。


「僕と一緒に、この世界のいろんなところを見て回りましょう。たくさん美味しいものを食べて、たくさん思い出をつくりましょう。リリアさんのお話、もっともっとたくさん聞かせて下さい」


 僕の言葉に淡く微笑んで、リリアさんは僕の髪を手櫛ですいてくれた。


「……老骨に鞭打ちますか。私はもともと、この地に骨を埋める気持ちでやってきたはずなんですけどね」


 そっと、リリアさんが僕の頭を抱きしめた。小さな胸が、額に当たる感触がする。


「いいですよ。私の手を引いて、どこまでも連れて行ってください。世界の果て、それを越えて、異世界まででも。私の愛しいイロハ、情熱の塊のような人──」


 リリアさん。僕の愛しい人。僕の全生涯をかき集めても、彼女の生の百分の一にも満たないけれど。永遠に等しい時間の中の、ほんの刹那でも、この人に寄り添って、愛し愛されたい。僕は、僕の愛するロリババアのためなら、なんだってしてみせるから。


 月光のみが差す部屋の中で、二人の影は重なり合い、長く、長く、伸びていた。


ロリババアにお酌をしながら、お酌の仕方がなってないとか延々と絡まれたい

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