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日本新世界紀行  作者: 魔王
カレニア侵攻編
3/12

D前日

アレッサは、館の2階バルコニーから物思いにふけっていた。


ここはアレドニア王国、カレニア辺境伯領、レープ港町から4キロ近く内陸にある、領主ドラガンの館。

長女として生まれたから、王都に行っていた2.3年を除けば、ほとんど暮らしている我が家でもある。


じき来るであろう人の事を思うと胸がときめく。

ちょうど2年前、弟が病死した頃である。

6年前の戦役で兄を失い、さらに跡取りになった弟なくなった後、残った姉妹は、自分とまだ幼い妹エレンだけ。


跡取りがなくなってしまった後の、父の失望は大きく、嫁に出す予定であった自分の婚約を一方的に放棄。婿を取らせる事にした。

親同士が勝手に決めた婚約であり、あの小太りの侯爵に嫁ぐことが無くなった事に関しては、正直言って、ホットする所であったが、袖にされた侯爵家の怒りは強かった。

おかげで、婿取りの話もことごとく邪魔をされ、今もってまだ婿殿が決まらないにありさまになっていた。


そんな時期であった。かわいかった弟を無くして傷心し、さらに自分の行く末も見えない不安な時に、彼らは来た。

海から今まで見たことも無い、大きくて帆も無いのに動く、不思議な白い船に乗って。

それは彼女にとって衝撃的な出会いでもあった。

領主に面会を求めてき彼らは、海の彼方にあるという、日本帝国の使者だと名乗っていた。

さまざまな日本からの貢物に気を良くした、ドラガンは、日本側が求める貿易と、領事館と商館の設置。王都に行く大使の紹介状などの件をあっさりと認めた。

無論、貿易により、港が潤い、収入が大きくなることを見越しての判断でもあったが。

さらに、日本側は、さらなる貿易拡大を求め、船着場をより大きく頑丈にする為の金ですら、出してくれると言うのであるから、願ったりかなったりでもあった。

こんなお人よしの人達なら、何事にも組みやすいと思ったかもしれないが、日本側は、別の思惑があっての事であった。


そんな使節団に居た外交官で、この屋敷にも仕事柄良く来る、山本と恋に落ちたのであった。

彼との仲が良くなれば成る程、彼が貴族で無い事が非常に残念でならなかった。

無論彼と話してみれば、並みの貴族以上に、博識である事がすぐに分かるのだが。

彼が貴族であれば、父ももしかしたら認めてくれるかもしれない。しかし実際の彼は平民出の一役人にしか過ぎない。

彼の国では奴隷制が無く、天皇陛下と少数の皇族以外は、皆平民との言うことを聞いていても、身分制度が常識な時代に生まれ育った彼女には、東方の大国のような、スルタン以外は皆奴隷と同じではないかと思っていた。


そのような物思いにふけっている間に、夕方になっていた。

そして、ようやく心待ちにしていた山本らの使節が付くのが見えたのであった。


館では、関税の話やや商談もそこそこに、酒盛りが始まってしまった。

日本からの酒が、すっかり好きになってしまった、領主が待ちきれなくなってしまったのだ。

「この間届いた、このどぶろくがいいですよ」

と言って、山本が進める。

「ふむ、いただこう」

日本からの酒は、色々あってどれもうまい。

酒好きのドラガンは、喜びの顔を隠さず、さっそく杯をかわすのだった。

宴もたけなわの頃合を図り、アレッサはベランダに出た。

それに山本も気づき、その後を追った。

近づく彼にアレッサはグラスを掲げて言った。

「このカルピスハイは、結構おいしいわね」

「日本の女性にも好まれて飲まれてる物でもありますからね」

「所で、最近の山本殿は、あまり元気が無いように見えますが、何か心配事でもおありになるのですか」

いきなりそう言われてたじろぐが、下手に彼女には悟らせてはいけない。

「いや、そんなことはないはずですが」

「うそ、顔にかいてあるわ」

どうやら失敗したらしい。自分が未熟なのか、彼女の感が良いのか。あるいは両方か。

「どこかに転勤してしまうのかしら、それとも日本へおもどりになるの」

アレッサも、つい自分が一番心配している事を口にしてしまった。

「いや、それは無いですよ。動くとしてもまだ先の話です」

それを聞いて安堵したアレッサだが、とすると山本が何に悩んでいるか気になる。

「では他に悩み事でも」

「いやいや、きっと仕事で少々疲れているのかもしれません、何かと気を使う仕事ですし」

「そう、なら私から、がんばるあなたにご褒美をあげますわ」

そう言って、彼女は彼によりそい、そして唇をゆっくりと重ねた。

このような積極的な行動に出てしまったことを、彼女自身、驚いていた。多分に酔いが回っていたからに違い無い。

山本は、頭が真っ白になっていた。立場上、どうしても一線をこえられなかったが、こうなる事をどれだけ望んでいたか。

彼女に対する後ろめたい思いも一瞬にして消え去り、今はただ思いっきり彼女を抱きしめたかった。

「アレッサ」そういうと、彼女を抱きしめて、今度は自分から唇を重ねていった。


このような逢引を、草葉の陰から見ている人がいた。

アレッサの妹、エレンである。

さっそく彼女は父であるドラガンの元に行き、こう告げたのであった。

「ねえねえ、お父様、お父様。お姉様があの山本のお兄様と、チューしてたよ。チュー、チュー」

唇を尖らせてチューするまねしながら、楽しそうにエレンは言った。

「なんと」

一瞬カッとなったが、それを察知したのか、村上がフォローに入る。

「この酒もいけまする、さあさあ領主様どうぞ、どうぞ」

と言って酒を注ぐので気勢がそがれしてまった。

「もうおそいから寝なさい」

内心の不機嫌さを隠しながら、エレンにはやさしく言う。

年が過ぎてから出来た、この末娘エレンをドラガンは溺愛していた。お父様はエレンに甘いと何度と無く他の子供達に言われた事か。

それにしても、あんな一役人ごときに、熱をあげおって。身分不相応だ。相手は貴族かそれ以上でないと嫁にやれん。

後で不肖の娘にどう言い聞かせるか。酒を飲みながら考え込むドラガンであった。



それから数日後、D-Dまで2日と迫ったなか、山本や、鏑木なとは、打ち合わせや準備などに追われていた。

D-Dの初期段階では、レープ港町と城、領主のいる館を特殊部隊で占拠し、その後本格的に海兵隊の上陸作戦を行う。

すでに特殊部隊と海兵隊などを乗せた艦隊が近海まで来ていた。


レープ城は、港町に隣接した位置にあるのだが、そこを制圧任務にあたるのは、軍直轄の特殊作戦大隊のB中隊。

すでに一部の隊員は、商人などの振りをして、上陸しており、町の中で待機していた。

町自体の制圧には、海兵隊の偵察部隊フォースリーコンが受け持った。


領主の館を制圧する部隊には、外地特務局から、警察の特殊部隊にして欲しいとの要望があった。

制圧の為には、殺害もじさない軍と違い、目的が領主とその家族の身柄確保の為だったからである。

しかし、外国での警察特殊部隊の運営自体が、今まで想定してなかった事と、人質作戦も軍で出来ると、国防省制服組からの自信あふれる発言もあり、統合性から見ても全て軍が対処した方が良いとの判断になった。

こちらは、軍直轄の特殊作戦大隊のA中隊が受け持つ事になっていた。


なお、軍の特殊部隊には、軍直轄の特殊作戦大隊(元特殊作戦群)。陸軍のレンジャー大隊(元西部方面普通科連隊、現在は各方面軍に分され、計4個大隊作られた)、海軍のフロッグメン、空軍のコマンド部隊(重要施設の警備、戦闘捜索救難や遠距離偵察、前線航空管制など多岐にわたる)、海兵隊のフォースリーコン(偵察隊)がある。

規模にして、合計8千人近くいるとされる。

そして、特殊部隊の中の特殊部隊と言われるのが、軍直轄にして、国防大臣の認可も受ける、特殊作戦大隊で、4個中隊。千人近くいるとされる部隊であった。



佐藤中尉他7名は、特殊作戦大隊のA中隊の先遣隊として、D-D前日に館近くの森林に身を潜め、館を動向をうかがっていた。

本隊は、明日の夜、ボートで上陸した後、館来る予定である。

「黒ひげ隊から本部へ、今との所異常無し」

黒ひげ隊という名は、佐藤隊長が立派な口ひげを生やしている為に、上から付けられた名前で、それがそのまま部隊名になってしまっていた。

定期連絡をした後、交代で休んでいた佐藤隊長は、遠くから何かしらの音が耳に入るのを感じた。

自分だけでは無く、他の隊員も気づいたようで、何かあったのかと皆顔を見合っている。

そうした中、警戒に出ていた、矢島軍曹が血相変えて、こちらに飛び込んできた。

「多数の軍勢がこちらに向かってます」

「な、なんだとう」

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