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日本新世界紀行  作者: 魔王
カレニア侵攻編
4/12

事変

「兵力は」

佐藤中尉は聞いた。そんな情報聞いてない。

「ざっと見て200人以上います」

まずい。たとえ相手が剣や槍、弓などを装備する兵だったとしても、こちらの人数と装備では、追い込まれかねない。

「どこの軍勢で、どの方角から来ている」

地図を広げながら聞く。

「カレニアの兵で、この方角、港町からです」

レープ城から来ているのか。だが向こうも味方が監視しているはずなのに、何の連絡も無いとは、どおゆうことだ。

「こちら黒ひげ隊、レープ城方面から来たと思われる、カレニア兵200人以上がこちら向かって急接近している」

「ただちに現場から離れ撤収する」

いちいち撤収伺いを聞いて、返答を待っていたら危ない。もたもたしていたら、戦闘に巻き込まれる。

そもそも自分達の任務は監視であって、戦闘任務では無い。

「撤収準備。すぐこの場から離れるぞ」

佐藤中尉は叫んだ。

最悪の場合、無線機などを破壊したいが、爆薬も手榴弾も装備していなかった。

甘い、甘すぎた、自戒をこめてつぶやく。

精鋭中の精鋭と周りからもたはやされようが、やはり自分達は、実戦経験が無いのだと思い知らされた。


その場からそそくさと離れていく。あまり生きた心地がしなかった。

だがその一方で佐藤は考える、敵は本当に我々を追っているのか。

しばらくしてから、隊に停止を指示し、後方の確認を行う。

追っくる気配は無いようだ。

しかしまだ分からない。包囲を縮めているだけかもしれない。

隊員も不安そうに隊長の顔色をうかがう。だが無用に騒ぎ立てはしない。やせてもかれても彼らは精鋭なのだ。

そうこうする内に、わっと喚声が聞こえ、身構える。いよいよ来るのか。


佐藤は時計を見た。待つ時間が長く感じられたからだ。10分位かと思っていても、まだ5分過ぎ位しかなかった。

おかしい。だが敵も様子をうかがっているだけかもしれない。

時間だけが過ぎていき、佐藤は決断した。

「敵の様子を探れ」

と矢島に言い、警戒に出したのだ。

しばらくしてから、矢島が血相を変えて戻ってきた。

「隊長、やっこさんたちは、館を襲撃してまっせ」

「なんだとう」

今度こそ本当に驚いた。



レープ近海に浮かぶ、日本帝国連合艦隊43隻。

全てが戦闘艦では無く、半数は輸送や補給艦で、民間から借りてきた船もある。

兵員輸送にナッチャンワールドや、燃料物資を運ぶ貨物船やタンカーなどである。


それを統べるは旗艦「陸奥」

この船は新造艦では無く、使われなくなった商船を安く買い上げ、旗艦に改造したものであった。

本当は旗艦だからこそ、海軍の威信にかけて、専用の船を作り上げたい所だが、資金も期間も今は無かったのだ。

だからと言って、完成を首を長くして待っている訳にもいかなかった。

何故なら、海兵隊を作ったときから、上陸作戦の為の、陸海空などを一元的に指揮するには、それ専用の船が必要とされたからだ。

いずれは、作られるしても、今は応急処理的な手段で対応するしかなかった。


その船の一室にある、作戦会議室には、関係者達が集まっていた。

本作戦の全般的な指揮を一任されているのが、連合艦隊司令長官、山本大将。

国防軍の5人しかいない大将の一人であり、後は、軍トップの統合参謀議長と陸海空司令官しかいない。

転移後に作られた役職とは言え、それだけ海洋国家日本を守る為の、重要な地位と見なされていた。


本人は、どうやら名誉ある、初代連合艦隊司令長官を受けたくなかったようだ。

特に山本という姓がいけなかったと思っていた。

ある意味、それは上層部には、あったかもしれない。

ゆえに、同期との会合では、「坂口、お前がやらんか。わしには無理じゃ」とよくぼやいていたと言う。

同期からは、ぼやきの山本と言われたいたが、部下達からは先生と言われ、慕われていた。

これは各種学校の教官などをやっていたからである。


他の主な主席者は、第一海兵隊司令官仲原少将、特殊作戦大隊長村田中佐。

映像参加だが、堀領事、鏑木大尉などの現地本部メンバー。山本書記官も末端に入っていた。

ちなみに、山本長官とは、父が従兄弟同士になるので、縁戚にあたる。

そして、外地特務庁の鈴木長官も参加していた。


「どうして、この事態を察知できなかったのか」

開口一番、村田中佐が言い放った。

「申し訳ありません。調査不足でした」

現地での情報活動を一手に引き受けていた、鏑木大尉は、立ち上がり頭を下げた。

2年近く前に、この地に来て以来、少ないスタッフと乏しい資金の中で、ゼロから始めた諜報活動。

今回の反乱を含め、領内全ての情報を把握出来る訳ではなかった。

レープ城主にして、領主ドラガンの従兄弟であるロウガンが、反乱を起こして、館を攻め落とし、ドラガンと娘達を捕らえた。

これは、密かに館に設置して置いた、盗聴器から分かった事である。

その会話から、反乱の理由も分かった。

2年前、跡取りがなくなった後、ロウガンが、自分の息子を養子にして、後を継がせるように言った事を、ドラガンが一蹴した事に始まる。

以来、ロウガン達は、密かにこの反乱計画を練って実行したのであった。

これは、ちょうど彼ら日本人が来る前の事であり、鏑木達が計画を察知出来なかったのも無理も無い。

しかし、今は何を言っても、言い訳になる。ぐっとこらえる鏑木であった。


「しかし、これは思っても見なかった好機ともいえるでしょうな。わが軍が介入する良い理由を作ってくれたのですから」

仲原少将が、笑みを浮かべながら言い、他の軍参加者達もうなずく。

やはり戦う目的の軍人といえでも、大義名分が欲しいものである。

それがもっともらいし理由であればあれほど、戦う意欲も沸くと言うものである。

ちなみに、D-Dの時の大義名分は、「外国に居る邦人の安全確保の為、軍を派遣」であった。

それより、何倍もよさそうな大義名分えられたのだから、内心喜ぶのも無理は無い。


「後はいつ始めるかでしょうな」

と村田中佐。早く自分が指揮する特殊部隊が活躍ささせたくて、うずうずしていた。

自分にとっても、特殊部隊にとっても、初の実戦になるはずだっただけに、昨日の出来事には、正直がっかりしていた。

「急いだ方が良いかと思います。会話の内容から、時間が経てば経つほど、領主一家の安全が脅かされます」

鏑木大尉は、昨日の盗聴内容から意見を述べた。


その内容は、山本拓也も、聞いていた。


「ロウガンきさま、何をしたか分かっているのか」

捕らえられたドラガンと、娘達は、ロウガンの前に引き立てられた。

「あなたが素直に、わしの息子を跡取りにすれば良かったのだ」

「きさまの馬鹿息子なぞ、死んでもご免こうむるわ」

「だが、一族や家臣の者達はそう見なかったぞ」

ロウガンは勝ち誇った顔をして言った。

事実、一族や家臣の主だったものは、今回の企てに参加していた。

婿によっては、自分達がないがしろにされるのでは無いかと言う、漠然とした不安感があったのだ。

そして領主に忠実の者は、すでに捕らわれて殺害されていた。

「おまえは、近いうちに病死とされ、後はわしの子が継ぐ事になっている」

「そしてアレッサは、公爵の元に奴隷として、送り出す。もう一人もおまけに付けておくか」

「な!」

アレッサも驚いた。まさかあの豚侯爵野郎まで関わっていたとは。

「この外道が」

ドラガンが暴れ始めたので、兵士達にぼこられた。

「やめて」

アレッサの叫んだが、兵士達は手加減はしようとはしなかった。

「やめい」

「ドラガンは地下牢へ、娘達は部屋に監禁しておけ、商品を傷つけたくないからな」

「あなたには、きっと神罰がくだるわ」

「神はいつでも強い者の味方さ。わっはっはっ」


あの時の事を思い出して、ますます気分が悪くなった。アレッサを奴隷として売るなどと、到底ゆるせない。

山本拓也は、アレッサの事が気がかりで仕方が無く、この会議の行く末を、固唾を呑んで見守っていた。


「反乱を起こしたすぐ後だから、敵もしばらくは警戒しているはず。館はともかく、城に対しては、砲爆撃でさっさと壊滅させたらどうでしょう。ロウガンを捕虜にする必要が無ければの話ですが」

海軍参謀の秋山大佐が淡々と述べた。

そう、苦労して捕虜にした所で、特に価値も無いし、ドラガンの手に渡れば、当然死罪になる事は分かりきった事である。

ならば、特殊作戦を実行する意味がない。下手すれば死傷者が出てしまう。

「いや、やらせて頂こう。城は町に隣接しているし、そもそも当初の計画でも、統治後の事を考え、カレニア兵の死者を多く出しすぎて、恨まれないようにする事も大事だったはず」

村田中佐はそう言って反論した。

無論、秋山の言ったことが一番理にかなっていることは分かっているが、折角の初陣を取られてたまるかという思いの方が強かった。

「われらの部隊を信じていただきたい」


「では、明日の夜に決行しよう」

そろそろ議論が煮詰まってきたようなので、山本長官が皆に言った。

「その旨政府にも伝えて頂きたい。よろしくお願いします」

「政府としても、今回のような事が起きたからといって、すぐ軍を返せとは言わないでしょう。手間と金もかかってますしね」

外地特務庁の鈴木長官がうなずきながら述べた。


その後、政府と軍部からなる国防会議から許可が出て、改めてD-Dを行うことになる。


この結果を受けて、山本拓也はホットしたものの、アレッサの無事な顔を見るまでは、安心できなかった。

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