事変
「兵力は」
佐藤中尉は聞いた。そんな情報聞いてない。
「ざっと見て200人以上います」
まずい。たとえ相手が剣や槍、弓などを装備する兵だったとしても、こちらの人数と装備では、追い込まれかねない。
「どこの軍勢で、どの方角から来ている」
地図を広げながら聞く。
「カレニアの兵で、この方角、港町からです」
レープ城から来ているのか。だが向こうも味方が監視しているはずなのに、何の連絡も無いとは、どおゆうことだ。
「こちら黒ひげ隊、レープ城方面から来たと思われる、カレニア兵200人以上がこちら向かって急接近している」
「ただちに現場から離れ撤収する」
いちいち撤収伺いを聞いて、返答を待っていたら危ない。もたもたしていたら、戦闘に巻き込まれる。
そもそも自分達の任務は監視であって、戦闘任務では無い。
「撤収準備。すぐこの場から離れるぞ」
佐藤中尉は叫んだ。
最悪の場合、無線機などを破壊したいが、爆薬も手榴弾も装備していなかった。
甘い、甘すぎた、自戒をこめてつぶやく。
精鋭中の精鋭と周りからもたはやされようが、やはり自分達は、実戦経験が無いのだと思い知らされた。
その場からそそくさと離れていく。あまり生きた心地がしなかった。
だがその一方で佐藤は考える、敵は本当に我々を追っているのか。
しばらくしてから、隊に停止を指示し、後方の確認を行う。
追っくる気配は無いようだ。
しかしまだ分からない。包囲を縮めているだけかもしれない。
隊員も不安そうに隊長の顔色をうかがう。だが無用に騒ぎ立てはしない。やせてもかれても彼らは精鋭なのだ。
そうこうする内に、わっと喚声が聞こえ、身構える。いよいよ来るのか。
佐藤は時計を見た。待つ時間が長く感じられたからだ。10分位かと思っていても、まだ5分過ぎ位しかなかった。
おかしい。だが敵も様子をうかがっているだけかもしれない。
時間だけが過ぎていき、佐藤は決断した。
「敵の様子を探れ」
と矢島に言い、警戒に出したのだ。
しばらくしてから、矢島が血相を変えて戻ってきた。
「隊長、やっこさんたちは、館を襲撃してまっせ」
「なんだとう」
今度こそ本当に驚いた。
レープ近海に浮かぶ、日本帝国連合艦隊43隻。
全てが戦闘艦では無く、半数は輸送や補給艦で、民間から借りてきた船もある。
兵員輸送にナッチャンワールドや、燃料物資を運ぶ貨物船やタンカーなどである。
それを統べるは旗艦「陸奥」
この船は新造艦では無く、使われなくなった商船を安く買い上げ、旗艦に改造したものであった。
本当は旗艦だからこそ、海軍の威信にかけて、専用の船を作り上げたい所だが、資金も期間も今は無かったのだ。
だからと言って、完成を首を長くして待っている訳にもいかなかった。
何故なら、海兵隊を作ったときから、上陸作戦の為の、陸海空などを一元的に指揮するには、それ専用の船が必要とされたからだ。
いずれは、作られるしても、今は応急処理的な手段で対応するしかなかった。
その船の一室にある、作戦会議室には、関係者達が集まっていた。
本作戦の全般的な指揮を一任されているのが、連合艦隊司令長官、山本大将。
国防軍の5人しかいない大将の一人であり、後は、軍トップの統合参謀議長と陸海空司令官しかいない。
転移後に作られた役職とは言え、それだけ海洋国家日本を守る為の、重要な地位と見なされていた。
本人は、どうやら名誉ある、初代連合艦隊司令長官を受けたくなかったようだ。
特に山本という姓がいけなかったと思っていた。
ある意味、それは上層部には、あったかもしれない。
ゆえに、同期との会合では、「坂口、お前がやらんか。わしには無理じゃ」とよくぼやいていたと言う。
同期からは、ぼやきの山本と言われたいたが、部下達からは先生と言われ、慕われていた。
これは各種学校の教官などをやっていたからである。
他の主な主席者は、第一海兵隊司令官仲原少将、特殊作戦大隊長村田中佐。
映像参加だが、堀領事、鏑木大尉などの現地本部メンバー。山本書記官も末端に入っていた。
ちなみに、山本長官とは、父が従兄弟同士になるので、縁戚にあたる。
そして、外地特務庁の鈴木長官も参加していた。
「どうして、この事態を察知できなかったのか」
開口一番、村田中佐が言い放った。
「申し訳ありません。調査不足でした」
現地での情報活動を一手に引き受けていた、鏑木大尉は、立ち上がり頭を下げた。
2年近く前に、この地に来て以来、少ないスタッフと乏しい資金の中で、ゼロから始めた諜報活動。
今回の反乱を含め、領内全ての情報を把握出来る訳ではなかった。
レープ城主にして、領主ドラガンの従兄弟であるロウガンが、反乱を起こして、館を攻め落とし、ドラガンと娘達を捕らえた。
これは、密かに館に設置して置いた、盗聴器から分かった事である。
その会話から、反乱の理由も分かった。
2年前、跡取りがなくなった後、ロウガンが、自分の息子を養子にして、後を継がせるように言った事を、ドラガンが一蹴した事に始まる。
以来、ロウガン達は、密かにこの反乱計画を練って実行したのであった。
これは、ちょうど彼ら日本人が来る前の事であり、鏑木達が計画を察知出来なかったのも無理も無い。
しかし、今は何を言っても、言い訳になる。ぐっとこらえる鏑木であった。
「しかし、これは思っても見なかった好機ともいえるでしょうな。わが軍が介入する良い理由を作ってくれたのですから」
仲原少将が、笑みを浮かべながら言い、他の軍参加者達もうなずく。
やはり戦う目的の軍人といえでも、大義名分が欲しいものである。
それがもっともらいし理由であればあれほど、戦う意欲も沸くと言うものである。
ちなみに、D-Dの時の大義名分は、「外国に居る邦人の安全確保の為、軍を派遣」であった。
それより、何倍もよさそうな大義名分えられたのだから、内心喜ぶのも無理は無い。
「後はいつ始めるかでしょうな」
と村田中佐。早く自分が指揮する特殊部隊が活躍ささせたくて、うずうずしていた。
自分にとっても、特殊部隊にとっても、初の実戦になるはずだっただけに、昨日の出来事には、正直がっかりしていた。
「急いだ方が良いかと思います。会話の内容から、時間が経てば経つほど、領主一家の安全が脅かされます」
鏑木大尉は、昨日の盗聴内容から意見を述べた。
その内容は、山本拓也も、聞いていた。
「ロウガンきさま、何をしたか分かっているのか」
捕らえられたドラガンと、娘達は、ロウガンの前に引き立てられた。
「あなたが素直に、わしの息子を跡取りにすれば良かったのだ」
「きさまの馬鹿息子なぞ、死んでもご免こうむるわ」
「だが、一族や家臣の者達はそう見なかったぞ」
ロウガンは勝ち誇った顔をして言った。
事実、一族や家臣の主だったものは、今回の企てに参加していた。
婿によっては、自分達がないがしろにされるのでは無いかと言う、漠然とした不安感があったのだ。
そして領主に忠実の者は、すでに捕らわれて殺害されていた。
「おまえは、近いうちに病死とされ、後はわしの子が継ぐ事になっている」
「そしてアレッサは、公爵の元に奴隷として、送り出す。もう一人もおまけに付けておくか」
「な!」
アレッサも驚いた。まさかあの豚侯爵野郎まで関わっていたとは。
「この外道が」
ドラガンが暴れ始めたので、兵士達にぼこられた。
「やめて」
アレッサの叫んだが、兵士達は手加減はしようとはしなかった。
「やめい」
「ドラガンは地下牢へ、娘達は部屋に監禁しておけ、商品を傷つけたくないからな」
「あなたには、きっと神罰がくだるわ」
「神はいつでも強い者の味方さ。わっはっはっ」
あの時の事を思い出して、ますます気分が悪くなった。アレッサを奴隷として売るなどと、到底ゆるせない。
山本拓也は、アレッサの事が気がかりで仕方が無く、この会議の行く末を、固唾を呑んで見守っていた。
「反乱を起こしたすぐ後だから、敵もしばらくは警戒しているはず。館はともかく、城に対しては、砲爆撃でさっさと壊滅させたらどうでしょう。ロウガンを捕虜にする必要が無ければの話ですが」
海軍参謀の秋山大佐が淡々と述べた。
そう、苦労して捕虜にした所で、特に価値も無いし、ドラガンの手に渡れば、当然死罪になる事は分かりきった事である。
ならば、特殊作戦を実行する意味がない。下手すれば死傷者が出てしまう。
「いや、やらせて頂こう。城は町に隣接しているし、そもそも当初の計画でも、統治後の事を考え、カレニア兵の死者を多く出しすぎて、恨まれないようにする事も大事だったはず」
村田中佐はそう言って反論した。
無論、秋山の言ったことが一番理にかなっていることは分かっているが、折角の初陣を取られてたまるかという思いの方が強かった。
「われらの部隊を信じていただきたい」
「では、明日の夜に決行しよう」
そろそろ議論が煮詰まってきたようなので、山本長官が皆に言った。
「その旨政府にも伝えて頂きたい。よろしくお願いします」
「政府としても、今回のような事が起きたからといって、すぐ軍を返せとは言わないでしょう。手間と金もかかってますしね」
外地特務庁の鈴木長官がうなずきながら述べた。
その後、政府と軍部からなる国防会議から許可が出て、改めてD-Dを行うことになる。
この結果を受けて、山本拓也はホットしたものの、アレッサの無事な顔を見るまでは、安心できなかった。




