ミルズの戦い
カレニア討伐軍司令官サンジェルマン伯は、陣幕の中で、軍務大臣である、サボィ公ドルゲンからの手紙を見て、憤慨していた。
「何をいってきたのでしょうか」
側近の一人が聞く
「王都が空から攻撃され、空竜騎士団が壊滅的な打撃をこうむったとある。ゆえに一時撤退を命じてきた」
「何と!」
「冗談じゃない。敵を目の前にして、撤退など出来るか!」
次々とこの命令に対する不満の声が上がった。
ここ十年近く、大きな戦も無く、武官たちは暇をもてあそんでいた。
折角の武勲を得れるチャンスを逃してたまるか。
「敵の様子はどうか」
「なにやら、地面を掘り起こして、その中に人が入っているようです」
「ふん。そんな事で、我々の攻撃を防げるものか!」
サンジェルマン伯は、手紙を机に叩きつけながら、叫んだ。
「王都が空から攻撃をくらったのなら、ここでその借りを返そうじゃないか。諸侯たちよ、武勲を立てるなら今ぞ!」
「おお!!!」
「出陣だ! ラッパを鳴らせ!」
敵は、街道沿いにある、ミルズ村近郊に陣を張っているとの事。その数およそ2千ほど。
それに対して、こちらは、その十倍。普通に考えても、負ける訳がないのだ。
これに対する日本軍の兵力は、第一海兵旅団を中心とする部隊約2千。
街道からミルズ村入る手前の小高い丘に陣取り、旅団長仲原少将自ら直接指揮を執っていた。
今回参加してるのは、歩兵と装甲の2個大隊。数キロから10キロ以上後方に、砲兵支援大隊と、警戒用に歩兵大隊が分散配置されていた。
日本軍における部隊の基本編成は、中隊から成り立っている。例外として、戦車や工兵などの特殊なものは大隊規模からなる物もある。
海兵旅団の下には、4個大隊(歩兵大隊Ⅹ2、支援大隊、装甲大隊)になっている。
ただし、大隊は司令部要員が少しいるだけで、中身も固定された部隊では無い場合が多い。
状況に応じて、各中隊を幾つかまとめたものが、臨時のグループ(大隊規模)として作られるからだ。
基本になる中隊の数は、本部管理中隊。戦車中隊。偵察中隊。輸送中隊。砲兵中隊。重迫撃砲中隊。支援中隊。歩兵中隊X6個 計13個中隊。
なお、中隊の下の小隊も、状況に応じて、各個に作られる場合が多い。
アドレニア王国軍が、陣形を整えるのを、上空に飛んでいる無人小型ヘリからの映像で、、旗艦陸奥の指令所から、山本大将以下幕僚達も見ていた。
「何故わざわざ、敵が陣形を整えるのを待ってているのですか。もっと前に砲爆撃で粉砕できたでしょうに」
カレドニア領事である堀は、聞かずには居られなかった。
当然の疑問である。
「敵に合わせている訳では無いのですよ。敵である、わが軍を実際見てから、負けてもらわないと、敗北を受け入れないからです」
参謀の秋山大佐が言った。
敵が目の前に迫り、陣形を整えるまで待てっているのには訳があった。
確かにもっと前に、砲撃で粉砕する事も可能であっただろう。
しかし、敵を見ないうちに、何が何やら分からないうちに吹き飛ばさせても、我々に負けたという実感がまったく沸かないのではないか。
我々に負けたと思わせるためにも、敵が見える距離で、粉砕させる必要があったのだ。
「ふむ、そおいう事なら分からんでもないが」
アレドニア軍の陣形は、日本軍の陣地を半円月上に囲む物であった。
陣形が整うと、サンジェルマン伯が合図する。
「ボーレ、ボーレ、アレドニア!!!」
全軍、一斉に歓喜の声が木霊する。
そして、前衛の隊列が前進を始めた。
彼は勝利を確信していた。しかし、次の瞬間、耳を劈くような爆発音と共に、勝利への確信は吹き飛んだ。
「なんだ、何が起きたというのだ!!これは!」
驚く馬から落馬しないように必死にしがみ付きながら、サンジェルマン泊は叫んだ。
「射撃開始!」仲原少将の許可がおり、後方の砲兵陣地から、155ミリ榴弾砲{ペガサス}4門が火を噴く。
そして、まさに狙い済ましたように、アレドニア軍の頭上に砲弾が次々に炸裂する。
各砲3発づつ、計12発を発射した。
砲撃が止み、煙がおちつしてくると、酷い惨状がようやく分かった。
爆発のあった箇所は、土が掘り起こされ、円形状に穴が開いていた。
その場に居た者達は、消えてなくなっていた。
さらに、近くに居た者達は、手足を吹き飛ばされ、もがき苦しみ、まさに地獄絵図のようなありさまだった。
このような有様をみて、サンジェルマン泊と側近達は、声を失った。
だが、一人が声を振り絞るように言った。
「魔法でこれだけの事をしたなんて見たことも聞いた事も無い。これは神か悪魔の仕業なのか。。。」
「敵がどのような術と技で、このような攻撃をしてくるかは、丸きっ理分からない。。。」
別の側近が言った。
「これはもう、我々の知る戦ではない。。。閣下、すぐに撤退いたしましう。これでは話になりません!」
「いや違う。離れても、又やられるだけだ」
サンジェルマン泊は、歯軋りしながらうなった。
「空竜騎士団が壊滅したのは本当だったんだな。敵は、どんなに離れていても、このような攻撃をしてくる」
そして、剣をまっすぐ敵陣に向けて言い放った。
「なら、我々がやれることはただ一つ。敵陣に突っ込むだけだ。そおすれば、いかに敵といえども、味方まで巻き込むような攻撃は出来まい」
サンジェルマン伯は、決して無能ではない。一軍の将軍を任せられるほどの有能な人物であった。
彼は、ショックを受けながらも、的確に物事を見抜いていた。
「全軍!突撃せよ!!突撃ぃー!!!」
サンジェルマン伯は、自ら先頭に立って、突撃した。
部下達も慌てて付いてくる。そして突撃ラッパが吹きなされ、他の軍も狂乱したように突撃した。
「敵が突撃してきました!!!」
「正気が連中は!」
現地司令部では、幕僚達が知らせを受け、思わずどよめく。
仲原少将も、敵ながら何と勇敢な連中だと感嘆した。
アレドニア軍が、砲撃によって混乱して撤退するかと思ったら、全軍突撃してきたのだから。
たとえそれが、砲撃のすごさも何も分からず、狂乱して突っ込んでくるとしても。
自軍だって、まともに砲撃喰らえば、混乱して、自壊しかねないからだ。
このような事になると、さすがに砲撃はもう頼めない。
敵をを近づけさすぎていた。1キロも無い。
重迫撃砲すら無理だ。迫撃砲は連射性はすぐれているが、命中精度は高くないからだ。
各中隊に配備されている81ミリ迫撃砲ですら、危険すぎて、使うのはためらう距離だ。
こんな事なら、もっと打ち込んでおけば良かったと思っても、後の祭りだ。
ともかく、すぐ応戦命令を出さなければならない。
「各隊に命ずる、発砲を許可する」
各中隊に配属されている、81ミリ迫撃砲小隊4門、計12門から、砲弾が発射される。
ただ、これも敵が迫ってきているので、2.3発撃って終了となる。
その後は、74式戦車の105ミリ砲や、12.7ミリ重機関銃が、迫り来る敵に火を噴く。
すでに500メートル割っているので、小銃射撃も開始される。
高島少尉は、防衛大学を出た後、海兵士官学校に行き、第1海兵隊旅団、第2中隊に配属された、まだ新米の指揮官であった。
臨時編成の、自分の名前の冠した、高島小隊40名を率いての、初の実戦に興奮していた。
敵が、突撃したのを見て、さらに興奮は最高潮に達した。
交戦命令も出た。各個に対応せよと。後は自分が射撃命令を出すときだ。
部下に撃てと命令する。その瞬間こそが、自分が指揮官になった醍醐味を味あえるでものだった。
しかしその思いは、無残にも打ち砕かれてしまう。部下の誰かが命令も待たずに発砲し、それを合図に、皆撃ち初めてしまったのだ。
「なっ!!」「俺が撃てと命令するまで撃つんじゃない!!!」
その叫びは激しい銃声によって、かき消されてしまっていた。
むなしい思いを抱きながら、高島少尉も89式を構え直して、単発モードにして、迫り来る敵に向かって撃ち始めた。
連射モードは、余程、敵が近くに迫らないと設定するものではない。初弾以外は反動で、的からどんどん外れていくからだ。
内心の怒りが引き金に伝わってしまっているのか、はたまた初の実戦で興奮しているのか。
ガク引きをしてしまい、狙ったところよりも下に銃弾が行っている。
これは特に、新兵がはまり易い事例として、教えれていたはずだったのだが、今の高島少尉の頭の中からは、完全に忘却されていた。
結局、彼は最後までこれに気づかず、狙ってもなかなか当たらない弾を、次々に放つのであった。
実は、第1海兵旅団にとっては、これが初実戦ではない。すでにボア人駆除作戦で経験していた。
無論それは、ほとんど虐殺に近い形の物であったが。
高島少尉など新しく配属された者、配置換えで来た者、あるいは新兵は、多少なりとも撃つことにもためらいがあった。
しかし、それ以外の約8割方の兵士達には、そんなためらいなど一つも無かった。
それどころか、中には喜んで撃っている者もいた。
「ヒッハー!!」
「死ね!死ね!!死んじまえ!!!」
まさに、ファイャーハイとも言える状態が、あちらこちらで見受けられていた。
アレドニア軍の騎兵も、その速力に物をいわせて、突っ込んできたが、機関銃と40ミリ自動擲弾をまともに喰らい、接敵出来なかった。
結局、騎兵がよくて50m近くまで、他は、もっと離れた距離で、粉砕された。
半数近くの兵がやられれば、士気崩壊は、まのがれない。
生き延びた兵士達は、恐怖に囚われながら我先と戦場から逃げ出した。
敵が逃げ出す様子を見て、高島少尉は、射撃中止命令を出す。
「射撃中止!!やめ!やめい!!」
声が聞こえないのか、それとも興奮仕切っているのか、敵が逃げ出しても、まだ撃っている者が何人も居た。
肩を叩かれ、怒鳴られて、ようやく正気に戻り、発砲が収まった。
発砲音がまだ鳴っている所を見ると、どうやら、自分の所だけではなく、他の部隊でも、同じような状況だったと思われた。
戦闘が終わり、高島少尉は中隊長である下北大尉に報告に行った。
そこで、戦場で負傷して、もがき苦しむアレドニア兵士を助ける為、衛生兵を連れて助けに行きたいと言った所、意外な答えが返ってきた。
「ほおっておけ」
「!!!」
「我々は彼らを助けるために来た訳では無い。戦う為に来たのだ」
「しかし、人道的関知から助けることも必要なのではないのですか」
「必要は無い。司令部からも助けろと言う命令も無い」
「なら、現場からの要望として上げてください」
「その必要も無い。そんな準備も体制も出来てない」
これ以上、面倒な事をいわんでくれという態度であった。
高島少尉も何か言おうとしたが、同僚から肩を叩かれて、さすがにこれ以上言うのをやめた。
しかし、無念と同時に何かすごい違和感を感じざる得なかった。
それは、帰るとき、偵察行動に出た、8輪の20式偵察装甲車(25ミリチェーンガンと対戦車ミサイル装備、87式の後継車)を見て強く思った。
なぜならば、戦場で負傷しながら、生きている人達を車輪でひき殺しながら、突き進んでいたからだ。
高島少尉は、自分自身に言い聞かせていた。ここは戦場なんだと。今は自衛隊では無く、軍隊なのだと。
カレニア領主であるドラガンは、山本海軍大将と一緒に、このミルズの地に降り立っていた。
旗艦陸奥のでの映像で、アレドニア軍が敗れ去ったのを見て、これはまやかしだと騒ぎ立て、実際に戦場を見るまで信じないと言い放った。
それではと、戦地慰問に訪れる、山本大将に誘われて、一緒に付いて来たのであった。
人を自在に空中に運べる、ヘリという存在にも驚いたし、それに乗るのも実際おっかなビックリだったが。
移動するのに、こんなに便利なものは無いと知った。
娘アレッサに手を引かれ、杖を突きながら戦場を見渡したドラガンは、陸奥で見た映像は、まったくの事実である事を認めざる得なかった。。
「怖い。これが日本軍の戦い方なの」
アレッサがつぶやくように言う。
ドラガンは、アレッサの手を握りながら思う。
今までの戦い方とまったく違う。剣も槍も交えない。かといって、魔法合戦でも無い。
強力で、無慈悲で範囲の広い、破壊魔法。いや。魔法では無いという。ゆえに恐ろしかった。
この圧倒的な力を背景に、あの平たい顔の民族達は、我々ムー大陸に住む住人を奴隷にするつもりなのだろうか。
日本という国は、何を目指そうとしているのか。
ムー大陸の世界は、日本という国の出現により、激動の時代に突入したと、今はっきりとドラガンは認識した。
ようやく続きが書けました。長い目で見てくれると助かります。




