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半竜娘は異界の空に  作者: 名知 あやめ
王都の半竜娘
13/13

10 夕暮れの半竜娘

 0時には遅れました。


 『忘れている』ということを思い出す、というのも変な表現だと思うけど、それ以外にいい言葉が見つからなかった。

 実のところ、私にはこの世界に来た瞬間の記憶はない。もしかしたら、卵の中で意識が目覚めた瞬間にこちらへ来たのかもしれないけれど……何というのか、この世界に来るきっかけ、のような部分がまるっきり抜け落ちているのだ。私の感覚としては、向こうで「私」の意識が切れる。多分このあたりで「私」は死んだと思うけど、なんか眠った感覚に近かった気もする。で、起きたら殻の中。寝て、起きる、その間の記憶がないのだ。

 多分、何かはあったんだと思う。よくよく思い出せば、眠った、もとい死んだ瞬間に声が聞こえた気もするし。ただ、その声が何て言ったかは全く思い出せない。

 もどかしい、すっきりしない気分のまま、手に持った服に目を落とした。こんな状態でも半分無意識に服を選んでいた自分に、少しだけおかしな気分になる。持っているのは全部私の好きな淡い青や紫を基調とした服で、おかしな気分を通り越して笑いがこみ上げてきた。

(まあ、いいか)

 今考え込んでも答えが出ないなら、悩んだところで仕方がない。必要ならいつか思い出すだろうからね。


 気に入った服たちを手に取り、店の人に声をかける。着替える場所を貸してもらえる店だといいんだけど。



  * * *


「どうかな?」

 早速新しい服に着替えて、父様たちの元へと戻る。色は完全に私の趣味、形は半分実用性で選んだけれども、まあ無難には仕上がってると思う。

 現在の私の格好は、薄紫のホルターネックのワンピース。丈は膝下まであるけど、フレアスカートになってるからそこまで鬱陶しくはない。若干足に絡みつく感じはするけど、慣れれば平気だと思う。腰には革のベルト。簡単な剣帯の機能も備えているが、その割には細身で色もおとなしい。その上に、白の大判ストールをケープみたいに巻いて、足はヒールの低い黒の編み上げサンダル。

 髪型とかにも気を使ったほうがいいのかもしれないけど、髪飾りとかはまた少し離れた場所に店があるみたいだから、今は気にしない。ちなみに私の髪型はロングに近いセミロングで、形としては長めのウルフカットに近い髪型だ。自分で適当に切っているから、見苦しくない程度に不ぞろいになってしまうだけなんだけどね。

 父様たちの前で、くるりと回ってみせる。意外と裾が大きく広がるなぁ……。あまり回らないようにしよう、うん。

「似合っているよ、リスティアージェ」

「ありがとう、父様!」

 わーい、褒められたー!

 なかなか反応してくれないアシェンに、私は改めて問う。

「ねえ、アシェン、どう? この格好は人の目から見て非常識?」

 人の服屋で普通に買った服だから大丈夫だとは思うけど、私としてはその辺りも結構気になる。

「え……ああ、大丈夫だ、別に変じゃない」

「本当? よかったぁ」

 これで変といわれたら、どうしようかと思ったよ。

「さて、これからどうする? あ、違った。ええと……どういたしましょう?」

 父様がいるからか、必死の敬語もどきで喋るアシェン。凄く難しい顔をしているのがおかしくて、私はつい笑った。

「アシェン、好きに喋ればいいって!」

「しかし」

 何かを返される前に、私は空を見て言葉を続ける。

「もう日も暮れてきたし、そろそろ戻ったほうがいいかな?」

「そうだね。そろそろ帰ろうか」

 父様がそう言って立ち上がったのを機に、私たちは動き出す。

「長々と付き合ってくれてありがとうね、アシェン」

「あ、いや。俺から言い出したことだしな」

「うん、やっぱりその言葉遣いのほうが、私は好きだな」

 私は笑う。王子というには乱暴すぎるかもしれないけれども、その言葉遣いは私には心地よく聞こえる。媚びるでもなく、へりくだるでもない、飾らない言葉。

 一瞬、アシェンの足が止まった。

「アシェン?」

「なんでもない!」

 そのままスタスタと歩いていくアシェン。その足取りはさっきより速い。

 何だろう、変なの。



 歩くこと十数分。神殿に近づくにつれ、服飾や武器防具の店は減っていく。城と神殿を結ぶ大きな道がメインストリートみたいだけど、城に近いほうは戦う人向け、神殿に近い方は戦わない人向けの店が多い感じだ。

 神殿に近づくにつれて静かで落ち着いた雰囲気になっていった空気が、神殿に入ったとたん変わった。ピンと張り詰めた、緊迫した空気。大きな発作を起こしたときの病室の中みたいな雰囲気だと思った。

 不穏な気配を感じたのは私だけではなかった。父様が目を顰め、アシェンはとっさに廊下にいた人を呼び止めた。

「どうした、何があった!?」

 呼び止められた男は、アシェンを知っていたようだ。緊迫した表情の中に、一瞬だけ安堵が混じるのが見えた。

「ああ、アシェン王子! どうか急ぎ城へ。王とディーン王子が……ッ!!」

 みなまで聞かず、アシェンはすぐに走り出す。私は何が起こっているのかわからず、ただアシェンとその男の間で視線をさまよわせた。

『……わかった、ありがとう』

「父様?」

 精霊語で何かと会話していた父様が、ぽつりと言った。

「魔獣との戦いで、王と第二王子が負傷したそうだ」

 閲覧ありがとうございました。

 誤字脱字、文章のミス等々、いつもご指摘ありがとうございます。


 来週ですが、仕事の都合上更新速度がかなり落ちます。一話か二話投稿するのが限界だと思います。時期的に忙しい為、しばらくの間更新が滞りがちになるかと思いますが、よろしくご理解お願いします。

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