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第9話 売掛する

 

「アンリ。貴族さまに知り合いいない?」


「私の師匠が男爵……だったかな?」


「……へ?」


「どうしたの、ストラ」


 朝食時に、ほとんど独り言みたいに聞いてみたら、この返事。ダメ元だったんだが、聞いてみるもんだな。忖度か? クライアント(かみさま)の忖度なのか?


 とりあえず、会いたいという話をしたら、さっそく3区の街まで連れていかれた。


 貴族さまなんだから先触れとかいらないのかと聞くと師匠は暇な人だから大丈夫と言われた。えらい言われようだな師匠。ちなみに二人とも3日ほど休みをもらっている。私は討伐報酬、アンリはそれに合わせて遠征の休養休暇を取った。


 3区イージモの街に入り、そこからさらに1時間。延々と続く四角い規格住宅街の先に明らかに注文住宅っぽい凝った形状の建物が立ち並ぶエリアが見えた。高層建築こそないが5~7階程度のものも確認できる。どれも敷地は数百坪はありそうだ。


 その内の1軒の門前に停車。アンリが荷馬車から降りて守衛さんに挨拶すると割とあっさり通された。


「アンリ! 元気か! 久しいな」


「師匠。ご無沙汰してます!」


 子1時間ほど応接室で待たされて現れたのはレボンド男爵ご本人。


 おー、ジャケットだ。服装がスーツっぽいし、下はスラックスだ。ただ襟無しなんであんまフォーマルな感じはしない。ここの人襟付きの服着ないんかな。歳は40は行ってない。気さくな感じのおじさんだ。人懐っこさと世話好きと面白いもん好きが顔に出てる。


「ああ、聞いたぞアンリ。お前、どんだけ俺が苦労したと思ってるんだ」


「あー、そのセツハゴメンナサイ」


「引き取るんならせめて……友達か?」


 こういう身内のやり取りは、眺めてる分には好きなのでほんわかしてたら男爵さまと目が合った。


「お初にお目にかかります。レボンド男爵さま。ストラ・マトスと申します」


「……マトス? ああ、あんたが……え? しゃべって……えぇ?」


「私の家族になったストラだよ。よろしく師匠!」


「待て待て略すな。色々略しすぎだお前は」


「落子さまだけど、一緒に六本腕やっつけて、こないだは一人でやっつけてたよ」


「いやいやいやいや、ちょっと待て。ちょっと待てアンリ。情報量が多すぎる」


 なんか、すがるような眼で見つめられてしまったので、ここ一カ月ほどの話を、またも子一時間かけてする羽目になった。ちょうど良かったので、話の流れで本来の要件を伝える。動画の内容に関しては伝えていない。あれをどう解釈するのか不明なので、直接見せた方が良いと判断した。


「ということで、民の神ラーラさまより言伝がございます」


「……それで、受像機はないかと?」


「確証はございませんが、私が見たものをお見せする事ができるかもしれません」


 男爵様はソファーに深く座りなおすと顎に手を当てて私を観察する。とても疑ってらっしゃる。私、かわいいから悪人じゃないよ。


「ストラだったか。もう一度聞こう。()()()の言伝だ」


思考核(ミルディオン)ラーラです。レボンド男爵さま」


「……マクシー! 倉庫の受像機出してくれ」


 マクシーと呼ばれた執事さん?は速やかに行動する。10分ほどで、モニターサイズなら50インチくらいの板が運ばれ、客間にセットされた。人払いまでお願いしてるのに、これで何も映らんかったらえらい気まずいぞこれ。


 まぁ、そんな心配は杞憂だった。モニターに近付いたらすぐに映像が再生された。以前見たのと同じ衛星喪失の映像だ。ただ首都管理システムの再起動要請の映像は映らなかった。私しか見せられないのか? まさか守秘義務(N D A)発生してないよね。


「この映像は、ここ以外でも流せるのか?」


「恐らく大丈夫かと」


「3区の長老会か……いや、これはコスコット区長まで上げた方がいいか」


 アンリはピンと来ていないようだったが、男爵は明らかに気象制御衛星を理解していた。


「お前らは暫く泊まっていけ。サンザノには連絡しておく」


「私もアンリも三日ほど休暇を取っております」


「足りんよ。マクシー! 客間を用意してくれ。一緒でいいな?」


「いいよ師匠! ね、ストラも」


「……」


 アンリの無言の笑顔で解らせられた。


「それとストラ。お前には悪いが外出は禁止させてもらう。部屋から出るなよ」


「もちろんです男爵さま」


 信じてくれたらいいなぁ。場合よっては拘束されるかもしれん。


 内容が内容だけに、この情報の価値を正確に判断できる能力と、周囲を納得させる権威のある組織に持ち込んでもらいたい。とりあえず情報は渡すから支払いは戦略と戦力で頼む。じゃないと私が死ぬ。先の事考えると普通に死んじゃう。


「場合によっては夜中でも中央市まで移動するかもしれん」


「はい。承知しました。男爵さま」


「あと、その男爵さまってのはやめてくれ」


「ストラも師匠って呼ぼうよ」


「……それはちょっと」


「あーそれでいい。後で稽古付けてやる。ガキから様付けされるよりはマシだ」


「はぁ……わかりました。師匠」


 その後、男爵は家裁らしき爺やに2~3言付けると、颯爽と出かけて行った。爺やがガックリしてたので、多分仕事ほったらかして出てったと推察される。


 夜の一〇時を回って迎えが来た。コスコット区長グラノス伯爵の代理を名乗る人物と数名の護衛。車両は3台。家裁の爺やにアンリ共々送り出されたので間違いはないのだろう。玄関先に並んだ車両は貴賓向けの高級車に見える。


 代表者に促されて乗り込むと車幅が結構広いのでリアシートが4人掛け。護衛に挟まれる感じで真ん中にアンリと私が座らされた。その後は速やかに屋敷を出発、結構なスピードで移動を始めた。


 なにが驚いたってフロントガラス全面が暗視装置だったんだ。見かけは昼間とまったく変わらない。運転手は車体中央。ハンドルは無かった。10分ほどで、片側10車線くらいある幹線道路に入ったが、すれ違う車両は全く見なかった。時間は90分ほど、速度の感じからざっと100から120キロ程度移動したように感じる。


 遠めから見ても圧倒的な都市的外観。ただ雑多な感じはなく、1棟の建物の規模がとてつもなく大きい。1番目立つドーム状のやつなんか東京ドームの1000倍くらいのサイズあるんじゃないか。冗談抜きで人工の山にしか見えない。ただ建物の数自体はかなり少なそうだ。ちょっと奇麗な廃墟っぽくもある。うぅー、外からゆっくり眺めたい。


 車はドーム建築の麓の屋敷というか施設に向かう。車が近づくとさっと警備の人が門を開けるのでほぼ減速なしで滑り込む。


 なんかかっこいいぞ。アンリは護衛してる陵地の想甲衛兵に釘付けだった。角ばったデザインで盾付きが四機。十四級(8メートルサイズ)かな。あれ? あなた、さっきまで寝てなかった?


「さ、こちらへ」


 敷地に入ると護衛の車両とは別れ、建物の『裏口』に到着。こんどは施設の案内に連れられて建物中に入る。大げさな感じはなく最低限の人員配置っぽいんだけど、終始速足で連れ回されるもんだから異様な緊張感がある。


 物資用のでかいエレベーターに乗せられて地階の、何やら機械室に通された。応接室には見えないな。アンリ、なんかあったら全力で出来る限り守るよ。


「ほう、確かに純粋なアブレニに近い。生産人間では無さそうだな」


「はい、タナメース諜報員の可能性も低いと考えます」


「まぁ、これでは疑いようがないな」


 レボンド男爵と、恐らくグラノス伯爵。伯爵は血色のいい小柄小太りで立派な口髭のおじさんだ。きっちりとスーツを着こなしてるので雰囲気イケオジだ。肩から凝った装飾の帯のようなものを垂らしてるのは階級表示みたいなものだろうか。伯爵はさっと手を振ると護衛を下がらせる。膝を折ろうとしたら止められた。


「ストラといったか。挨拶は良い。ラーラの名代としての使命を果たせ」


「こっちだ、ストラ」


 うわ、でっか。気が付かなかった。このモニター200インチぐらいあるぞ。


「人払いは済ましてある。むさ苦しい所ですまんが、なんせ移動ができんでな」


「あ、いえ、問題ありません。たぶん」


 ほんとにすまなさそうな伯爵。こういう気楽に謝罪する偉い人って経験上ちょっと怖い。


 さて、壁に据え付けてあるので設置位置は低い。タッチパネルかもしれないな。近付くと予想通り映像の再生が始ま……らない。え? 再生ボタンがある。インターフェイスが生えたぞ。というか、ここも右向き三角なのか?


「……よろしいでしょうか」


「うむ、始めてくれ」


 再生ボタンを押すと動画が始まる。内容自体は変わらないが、たぶん一時停止、拡大縮小できそう。おお、取説が頭に浮かぶ。画面タップしたらその場所のデータが表示可能だそうだ。とは言っても、画面がでかくて手が届かん。手元に操作用のちっさい画面が……あ、見慣れたウィンドウが出た。


 ちょ、俺専用の自動生成なのか。どうりで地球準拠だと思った。マジで欲しいんだけどこれ。


 通しでの再生は4回。その後、椅子を運び込んで、止めたり、拡大したり、詳細を表示させたり深夜まで視聴は続いた。結局、伯爵は他は誰にも見せることなく、椅子にぐったり座り込んで頭を抱えて唸っている。なお、アンリは運び込まれたソファーで寝てる。


「大博士国の見解では、あと40期(80年)は持つという話だったと記憶してるが」


「たぶん機械寿命からの推測で、故障と破損は考えてないんじゃないですかね」


「ああ、そうだったな男爵。そういう連中だった。ストラ・マトスこちらへ」


 モニター前から伯爵の側へ移動する。


「ラーラからというのは間違いないのだな」


「はい、グラノス伯爵さま。彼女で間違いございません」


「ラーラを彼女と呼ぶか。その容姿といい、初期移民の復元なのか?」


「申し訳ございません。ここに降りた時は国の名前すら存じませんでしたもので」


「ふむ。映像の真偽に関しては真としよう。なにせその受像機は伯爵である私ですら起動できんのだ。ラーラが用件と鍵を寄越したと見てまず間違いなかろう」


「では伯爵」


「ああ、ヒズヤ。すまんが彼を王都へ運んでくれ。向こうの特技官ならあれから仔細を引き出せよう」


 伯爵は師匠に移動手段の確認を取ると、退出の準備をしながら私に向きを変えた。


「ではストラ。手間をかけるがよろしく頼む」


「はい、伯爵さま。あの、つきましては……」


「なんだ? 申してみよ」


 手を止める伯爵。微妙にびっくりしてる師匠。


「保護者の同行をお許し願えませんでしょうか」


「ふふっ、よかろう。一人だけだぞ」


 伯爵が機械室を出るとさっと護衛が現れ付き従った。こちらには別の案内人が付いた。部屋を用意してくれたらしい。アンリが起きないので師匠がおんぶする。


「確かに、3日では足りなそうですね。師匠」


「ったく、ストラ。お前、いい度胸してるな」


「どうかご寛恕を。置いてはけないです。すごい心配性で寂しがり屋なんです」


「そうなのか? ……そうか、そうなんだな」


 師匠の背中でスヤスヤねてるアンリ。朝には寝不足の私を元気いっぱい叩き起こすのだろう。



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