第34話 定期公演#9(≪BiAG≫コラボレーションライブ) その3~禁断の質問
ウーミーはステージ上手側、≪BiAG≫の面々が立っている方向に体を向けて、はっきりと言った。
「みなさまは、どの時点の≪Believe in AstroloGy≫のみなさまなのですか? どこまでの記憶をお持ちなのでしょうか?」
お、おお……。
変ではないけれど、その質問は……めちゃくちゃ重たいな……。
答えられるのか、これ……?
「記憶……?」
秋月美月さんが首を傾げる。
「記憶って何のことニョロ?」
ニョロ?
えーと、あれは……伊勢野乃花さんだ。
ダンスをリードするメンバーで……ニョロ? 位置高めのお団子ヘア……じゃなくて頭に乗っているのはとぐろを巻いたヘビ⁉
「2人とも忘れちゃったの? ほら、先生に何度も説明されたじゃない。私たちは本物の人間じゃないのよ。エーアイなんとかってロボットだって」
と、佐々木千佳さん。
主に前列でサブボーカルを担当するメンバーだ。ちなみにウーミーに負けず劣らず大変スタイルが抜群で……痛っ。説明しただけですってば!
「なんか言ってたね~。ぜんぜん意味がわかんなかったから、ちゃんと聞いてなかったよ~。アッハッハッハ」
秋月美月さんが笑いながらステージ後方に用意されたペットボトルの水を飲みに行く。
いや、そこはちゃんと聴いとけよ!
って、思わず伝説のアイドルにツッコんでしまった……。
なんかさー。素のメイメイにそっくりすぎてヤバい……。ていうか、メイメイよりもヤバそう……。
「記憶って言われてもピンとこないンよ。武道館のワンマンに向けて練習していたことは覚えているンよ? でもその前何していたのか、あんまりはっきりしないンよね~。自分のことやメンバーのことははっきりわかるのに変な感じなンよね~」
越後梨美さんが語る。
もう1人の前列サブボーカル担当。表情がコロコロ変わるというか、きっとムードメーカー的な人なんだろうね。ちなみに黒髪がナギチよりも長い。それを2つ結びにして、器用に振り回しながら踊っている姿がキュートだ。
でも今の言葉ではっきりわかったことがある。
ここにいる≪BiAG≫のメンバーは、あの伝説の武道館ライブを経験する前の状態なんだ。
「わかりましたわ。みなさまはあの時の≪Believe in AstroloGy≫なのですね」
あの時。
ウーミーもどの時点の≪BiAG≫なのかを把握したようだった。
伝説の武道館ライブを成功させ、名実ともに頂点に立ち……秋月美月さんが姿を消す前の≪BiAG≫。
最高潮にテンションが上がるほんの一瞬手前。
もしかしたら、今の≪初夏≫と似た状況なのかもしれないな。
「それで、私たちの武道館はいつなの? 今日は何月何日?」
秋月美月さんはやはり何もわかっていない様子。
周りのメンバーも苦笑している。
「はいは~い! お母さんたちは、大人気のアイドルだったんですよね~。いっぱいモテましたか~?」
あ、コラ、メイメイ!
アイドルに対して禁断の質問を!
「失礼な子ね~。どこの子かしら。私たちは“今も”大人気アイドルですよ~だ。過去にしないでよね~」
プリプリ怒る秋月美月さん。
プライドが高そうで……冗談で怒っているふりをしているようで……。んー、わからない。
「美月は激ヤバにモテるニョロ」
「やっぱり……」
「お母さんモテモテですか~」
「やっぱりそうなんですね!」
「そうですわよね」
「私とどっちがモテるかな☆」
ナギチは黙っときなさい!
「それはそれはえげつなくモテるニョロよ。毎月事務所の資料室にトレーラーいっぱいのファンレターならぬラブレターが届くニョロ」
「それは盛り過ぎ~。小型トラックくらいだよ~」
十分ヤバいです。
まーあれか、SNSがあんまり流行っていない時代は、紙のファンレターが事務所に届いていたんですよね。今も多少は届くけれど、トレーラーいっぱいってどんな量なの……。
「お母さんはどんな人が好きなんですか~? 私のお父さんってどんな人ですか~?」
メイメイ、その質問はちょっと!
ファンレターの話までは、まあ問題ない。
でも、特定の男性の話は……。
しかも子供を作るような……そんな深い関係の男性の話はアイドルとしては致命的……。たとえ何かの拍子でそのことを知っていたとしても、表では絶対にしてはいけない話だ。
「サツキ。その質問は……やめておきましょ」
ハルルがはっきりと止めに入った。
歴史は語っている。
秋月美月さんは武道館でのワンマンライブを成功させた後、表舞台から忽然と消える。そしてそのまま引退。約1年後にメイメイを出産。死去。
ここにいる≪BiAG≫が、武道館ライブ直前の記憶を有しているのだとしたら、すでにメイメイの父親となる男性と出逢っているとしたら――。
秋月美月さんが亡くなったことで、決して明かされることがなかったはずの話。
その答えが、不死鳥のように蘇った秋月美月さんの口から語られるのか……。
今、世界中が注目する。




