第31話 今年、≪初夏≫はアイドル界の頂点に立つ
さあ、いよいよコラボライブの時間だ。
≪初夏≫のみんなは準備万端。そこに何も不安はない。
しかし今回はいつもと違って、5人だけでのライブじゃない。初めてのコラボレーションライブなんだ。
あの国民的アイドルグループ≪Believe in AstroloGy≫とコラボする。
正直これは、大きなプレッシャーとして5人重くのしかかっていると思う。
ほら、みんなが緊張で震えて――。
「お母さんたちとの共演ですよ~。楽しみですね~」
「さっきあっちの控室にお菓子を差し入れたら、すっごい取り合いになって困っちゃった☆」
「今日のために体重を200gも落としてきましたわ~」
「みんな、いつも通りやりましょ。リハでも問題なかったわけだし、私たちは私たちのパフォーマンスを魅せる。私たちが見劣りするなんて思わないわ」
「人という字は、人と人とが支え合って生きているようで、実は片方が寄りかかっていて、だからサクラたちが寄りかかっても平気で――」
思ったよりもずいぶんみんなリラックスして……と思ったけれど、1人だけヤバそうな人がいるな……。
「おーいサクにゃん。そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」
と、声をかけてみるも――。
「コーチ……どうしましょう……」
サクにゃんの心の状態を表すかのように、ネコミミがピンと立ったまま小刻みに震えていた。
「まあまあ、そんなに思い詰めなくてもね。それぞれのポジションを守って踊れば、あとは良い感じに≪BiAG≫の人たちのほうが合わせてくれるって」
「そう……でしょうか……」
「今回のライブは大先輩が胸を貸してくれる。なーに、ちょっとくらい失敗したって余裕でカバーしてくれるっしょ。気楽に行こうよ」
ただの拡張現実の投影に合わせて≪初夏≫が踊るわけじゃない。
リハの時に観察した程度だけど、麻里さんたちが育て上げた≪BiAG≫の人たちは言われてもわからないほどに『人』だった。
そう。
今回の目玉は≪BiAG≫の7人に人格と人工の体があることなんだ。
相手はどこからどう見ても人間。
≪BiAG≫といえばトップオブトップを極めた、経験豊富なアイドルだ。
とくに≪BiAG≫はライブパフォーマンスに特化したアイドルグループでもあるわけだし、何が起きても全部カバーしてくれる。裏には麻里さんやシオもついているわけだから、何も心配はいらないんだよ。
「サクちゃん、お母さんに任せておけば大丈夫ですよ~」
メイメイが微笑む。
全幅の信頼、か。
リハの時、メイメイは秋月美月さんとどんな話をしたのだろうか。
スタジオに入っていないボクたちマネージャー陣は、演者たちの会話をモニタリングできていない。
まあ、麻里さんかウタ辺りに訊けばわかるのかもしれないけれど、あえてボクはそれをしなかった。
きっと2人きりでの積もる話もあっただろうし。
そして、その短い時間でのふれあいがあったからこそ、今メイメイがこの笑顔になれているんだと思うんだ。
今回はいつもの定期公演とは違って、曲の合間にフリートークの時間が多く取られている。その代わり、お当番のMCコーナーがないってわけ。
そこでどんな話をするのか。
それは≪初夏≫の5人に任されている。
台本は完全に白紙だ。
きっとメイメイが主導権を握って話を進めるんだろうな。
暗黙の了解的にみんなもそう思っているはず。
≪BiAG≫のほうもエースの秋月美月さんがメインで話すんだろう。
世間もこの2人の会話が聴きたい。そう思っているに違いない。
その証拠に、年明けにコラボレーションライブの告知をしたにもかかわらず、そのニュースは各媒体で大きく取り扱われた。全国……いや、もうすでに世界にまで広がっているかもしれない。そう言っても過言ではないほど世間の注目を集めているんだ。今年最初のビッグトピックだって胸を張って言えるくらいにね。
麻里さんのAI研究に大きく注目が集まっている。
それに負けず劣らず、≪BiAG≫秋月美月と≪初夏≫夏目早月の母娘共演の行方も大きな関心事の1つなんだ。
ここでのライブが成功すれば、≪初夏≫はさらに飛躍できる。
すべての制約が取り払われ、あらゆる活動が解禁された今年、≪初夏≫はアイドル界の頂点に立つ。
そのための大いなる第一歩となる――。
「今日、ここから伝説を始めよう」
『かえでくん、それはさすがにプレッシャーをかけすぎです。さくらさんが倒れてしまいます』
ああっ、つい……。
でも頭の中で夢想するくらいは許されるんじゃない?
だってさ、いよいよ武道館ライブが現実味を帯びてきたんだよ。
もう夢じゃない。
もう目標じゃない。
すぐ目の前にある現実なんだ。
メイメイが笑顔で武道館ライブを迎えられるように。
そしてその先の未来へ進めるように。
とうとうそれに手が届くところまで来たんだから。




