第25話 その子と双子コーデをしてみよう
「七瀬楓さんだよね。キミのことも知ってるよ」
「えっ?」
何それ怖い。
ボクはお金持ってないです……。
カツアゲだけは勘弁してください……。
「何で知ってるかって顔してるね。本当に予想通りの反応でかわいいな~。実はね、私、オハナの同級生なんだよ」
予想外の答え。
「ええっ⁉ 花さんの! ボクの上司で……担任の先生です」
世間は狭すぎる!
えー、じゃあ20代前半に見えるこのお姉さんも三十路なのか……。
「楓ちゃんって、マネージャーにアイドルに役者に大活躍なんだよね。たまに飲みに行くとすぐにキミのことと、もちろんほかの子たちの自慢ばかりを聞かされるよ~」
お姉さんの笑い声に合わせるように、鼻と口のピアスがチリンチリンと楽しそうな音を奏でた。
「花さんってば……。ボクはただのマネージャーなので……」
「たまに配信にも出ているじゃない? オハナに勧められてから、私いろいろ見てるんだよ~。少し前と比べると、ずいぶんあか抜けてきたね。こんな言い方はあれだけど、前に比べて、雰囲気がすっごく女の子っぽくなったと思うよ」
うわー、めっちゃ確認されてる。恥ずかしっ!
そうか。ボク、女の子っぽくなってたのか……。
「そうだな~。楓ちゃんにはね、これをプレゼントしようかな!」
そう言ってお姉さんが取り出したのは、その子が手にしているワンピースとまったく同じデザインの色違い。真っ白なワンピースに黒い十字架の刺繍が施されていた。
「双子コーデって知ってる?」
「あ、はい」
「2人ともさ、せっかくだから着るだけ着てみてよ。奥に試着室あるから」
満面の笑みを浮かべるお姉さん。
すごくすごく期待している顔だ……。
「その子……」
どうする?
「着ます!」
その子が顔を真っ赤にして、黒いワンピースを胸に抱いている。
じゃあ、一緒に着るか!
「ありがとうございます。お言葉に甘えて」
ボクとその子は、2人並んで店の奥にある試着室へ。
「せっかくだから、このハイソとブーツもね」
お姉さんがカーテンの下から何やらところどころ破れた感じのハイソックス、ゴツめのブーツを差し入れてくる。ん、あとのこれはアームカバーかな?
鏡に映るボクがだんだんと変身していく。
さっきまでのボーイッシュなファッションからロリータファッションへ。
白い……。
めっちゃかわいい服……でも顔がボクじゃなあ。顔から下だけ写真に撮ったら……モデルさんみたい。なんてね。
「その子、着替えられたー?」
隣の試着室に向かって呼びかけてみる。
「あ、はい。なんとか……」
「じゃあ見せあおうか」
「え、嫌ですよ」
「その子……。特別に着させてもらったんだから見せるのは義務だよ」
「はい……わかりました」
なんでテンション下がってるのさ。
ボクだって恥ずかしいけど、それが礼儀だからね。
勢いよく試着室のカーテンを開き、店内へ。
「楓ちゃんかわいいじゃない。よく似合う~」
お姉さんが手を叩いて喜んでいた。
「そ、そうですか? 地味顔で……すみません」
服に着せられているってこのことですね。
「顔? 整っていて良いと思うよ。肌も白いし、うらやましいよ! あとは服に合ったメイクをすれば良いだけだから。やってあげるね」
「え、ありがとうございます。ってその子も、さっさと出てくる!」
「はい……うぅ……笑わないでくださいよ」
試着室のカーテンがゆっくりと開き、その子が姿を現した。
ボクと色違いの真っ黒なコーデ。
「え、似合うじゃん。普通に良いじゃん! やるじゃんその子!」
いつものその子とはぜんぜん違う。黒を身に纏うだけで、キリッとした印象に変わっていた。羞恥のせいなのか、目はギュッ閉じていて顔は真っ赤だけど。
「宮川さん、とってもかわいいよ! 私の目に狂いはなかったわ!」
お姉さんも大絶賛。
ボクも大絶賛。
「そんなに……見ないでください……」
とうとうその子は、顔を覆ってしゃがみ込んでしまった。
「ファッションは命。私の魂を受け取って、服に命を吹き込んでくれてありがとう」
お姉さんが深く腰を折った。
「そんな……こちらこそこんなに素敵な服を……」
「はい、それじゃあ2人ともメイクしちゃおう!」
「えっ、メイクですか⁉」
「お店に入ってきた時かずっと気になってたの! 2人ともスッピンだもん! ちゃんとメイクしなきゃ!」
ボクとその子は、お姉さんに手を引っ張られ、並んで受付のカウンターデスクに座らされる。
「2人同時に仕上げちゃうからね~。私に全部任せて!」
と、ボクたちの了解を取ることなくメイクが始まる。
ボクとその子は目元を中心に濃いめのメイクを施された。
「「なんかすごい……自分じゃないみたい」」なんてお互い顔を見合わせている間に、隣のお店(撮影スタジオ)に連れていかれそうになったので、外でしょぼくれている花子を回収し、一緒に撮影スタジオへ。
あとはもう、されるがまま。
モデルのまねごとのようにポーズを取らされ、写真を死ぬほど取られ……お土産にと何着もゴシックな服やアクセサリーの入ったカートを持たされてから、ようやく解放されたのだった。
「また遊びに来てね♪」
店の外まで出てきて笑顔で見送ってくれるお姉さん。
双子コーデのままのボクとその子は疲労困憊。白黒のカートをガラガラと引きながら、重い足取りで本社ビルへと帰るのだった。
楽しかったけど……疲れた……。
あ、ヤバ。
メッセが鬼のように……。
とりあえずウーミーとウタの間には何もなかったみたい。
安心だね(?)
でも最後の【うわきもの】ってメッセージが怖すぎる……。




