第23話 楓ピンチ! メイカエレイハナ探偵団の運命やいかに⁉
花子の世話を親友・その子に任せ、意気揚々とアパレルショップに向かうボク。
小さな店の入り口の手動ドアに手をかけようとしたその時だった。
「ヤバッ! 2人の声がする!」
おそらく会計を済ませてこちらに向かってくるのだろう。
テンションが上がって弾むようなウーミーの声が聞こえてくる。
ヤバいヤバい!
このままだと鉢合わせになる!
どこか、隠れなきゃ……どこに⁉
手ごろな遮蔽物が一切見当たらない。
おいー! 立て看板くらい用意しておいてくれ!
あー。そうだ、マントだ!
ボクは入り口脇でしゃがみ、マントを頭からすっぽりと被る。
マントのステルス性能にかけるしかないっ!
「詩さんのセンスには感服いたしましたわ~」
「海さんこそ。あのセクシーな装いは私にはとてもとても」
「わたくしのは……体形でそう見えるだけですわ。詩さんの匂い立つような色気がうらやましいですわ……」
ウーミーとウタがお互いのことを褒め合っている……。
エロスのウーミー。セクシーのウタ。
もしかして次の定期公演#7のテーマはお色気頂上対決か?
「とても良い品揃えのお店でしたわ~。ゴシックなアイテムはもう十分ですわね」
「そうね。残りはガーリー路線で攻めましょう」
「それならわたくし、良いお店を知っていますわ~。あちらですのよ」
2人の声が遠ざかっていく。
どうやら気づかれなかったらしい……。
ふぅ。なんとかなった……。
一応念のため、動かずに様子を見てみる。
心の中でゆっくり100秒を数える。
2人が戻ってくる気配なし、ヨシ!
「あっつ……もう汗が止まらない……」
分厚いマントの下に2分ほど隠れていただけで、もうフラフラだ。
こんなの熱中症になるって……。
「楓さん、大丈夫?」
「がぅ……?」
電信柱の陰から、その子と花子が心配そうにこちらの様子を伺っていた。
「なんとかね……。でもちょっと限界かも」
水分補給がしたい……。
「はい、スポーツドリンク」
見かねたその子が、近くの自販機でスポーツドリンクのペットボトルを買ってきてくれた。
「やさしい。その子好き……」
見た目はボロボロなのに、心は錦ってやつだね。
人間中身が大事だよねえ。
「そういうのは良いので、もうちょっと詳しく説明してください。ネタバレはなしで!」
ペットボトルの中身を一気に半分くらい飲み干していると、その子が今度はミネラルウォーターのペットボトルのキャップを開け始める。
「それと首に下げているものを貸してください」
ボクの首元に視線を送ってくる。
その子の視線の先にあるのは、ペット用のボトルキャップだ。
これをつけると、花子でもペットボトルから水を飲むことができる優れものだ。ボクは紐でくくって首から下げていたのだけど、その子がそれを目ざとく見つけてくれていたみたい。
「あ、はいこれね!」
その子はボトルキャップを受け取ると、今開けたばかりのペットボトルに装着。花子を地面に下ろして水を飲ませてくれる。
「手慣れてるね。その子は動物を飼ってるの?」
「はい。実家で犬を2匹と猫を3匹飼っているので、こういうことは慣れています」
「たくさんだ。にぎやかな家庭だね」
「保護犬、保護猫ですから、わりとみんな年を取っていて静かなものですよ」
そう言ってその子は、少しだけ淋しそうに微笑みを浮かべた。
「そっか……。もしかして服がボロボロなのって、犬や猫に汚されるからわざとボロボロのものを着ている、とか?」
まあそれなら納得もできる。
小さい子がいたり、ペットを飼っていたりすると、いくらきれいな服を着ても一瞬で汚れることはよくあるらしいからね。
「ただ気に入っているだけですが、いけませんか?」
ぜんぜん違ったわ。
「いけなくはないけど……。さすがにもうちょっと見た目に気を遣ったほうが良いんじゃないかな。ボクでさえこれくらいは、ね」
手を広げてみせる。
「怪しげなマント姿ですけど」
「違うわ!その下のファッション!」
マントをめくって本日のファッションのお披露目だ。
「私、楓さんみたいにスタイル良くないから、そんな生足を露出したりできないです。二の腕も太いし」
ノースリーブに短いキュロットスカートという出で立ちのボクに対し、その子はボロボロのサマーニットにマキシ丈のスカート。体形隠しにしてもさすがにそれは……。涼しさのかけらも感じられない……。
「それは気にしすぎだって。あ、せっかくだから、そこのショップで服でも見ていかない? 良い感じの店だったって出てきた2人も言ってたし」
その子のファッションコーディネートだ!
「尾行の途中なんじゃないんですか? このままだと2人を見失いますよ」
「まあ、もう見えなくなっているから手遅れだと思うけど、行先の見当は付いてるんだ。別動隊に連絡をしよう」
えーと。とりあえず2人に連絡しておこう。
『星は1件目のアパレルショップを出発。次の行先はここ(位置情報)だと推測される。次の尾行はそちらのチームにお願いしたい』
文面はこんな感じで良いかな。
送信、と。
メイメイから即、『OK』のスタンプが連打されてくる。
どうやらかき氷を食べて気合が充電されたらしい。正直助かる。
「大丈夫だってさ。向こうのチームが尾行を引き受けてくれたから、ボクたちは休憩だ」
「そうですか。私は別に新しい服なんていらないんですけど」
「ダメ。熱中症になりかけていたボクを救ってくれて、花子に水まで飲ませてくれた恩人に恩返しをしなければ!」
「大げさな……」
「口実なんて良いじゃん。友だちの服を選ぶくらいさせてよ」
「そういうのずるいです……。それ言われたら断れないじゃないですか……」
その子が口を尖らせる。
どことなく顔が赤い。照れているのか? その子のくせに?
「はい、じゃあ決まりー。あ……花子、ちょっとだけここでお留守番できる?」
「……がぅ……がぅ!」
一瞬だけ悲しそうな目をしたけれど、「行ってこい!」という力強い視線を返してきた。ありがとう、花子! すぐに戻ってくるから!




