84.サイクリングの前準備
翌日、私たちは宿を引き払い、買い出しにやってきた。次の目的地である第三領都までは自転車で移動したら、一泊二日くらいかかる距離だという。今日の昼に出て、明日の昼につく感じらしい。
初めての野宿だということで、必要な用品を買いに来た。店に入ると、色んな道具が置いてあって目移りしそうだ。
「必要なものは寝袋ね。それと、明かりが必要だから薪も買いましょ」
「薪って……その辺にある木で大丈夫じゃないですか? 私が切り倒しましょうか?」
「流石に木を切り倒すのは時間がかかるから、やめて」
「そこまでやる必要はないわよ。一晩くらいの薪さえ買えば事足りるわ」
明かりの為に焚火が必要なら、薪を買った方が早い。
「まずは寝袋からみましょう。これからも移動はしなくちゃいけないから、野宿する時がありそうね」
「だったら、いいヤツを買いましょう!」
三人で寝袋コーナーに行くと、色んな色と形状の寝袋が釣り下がっていた。
「わー、色々ありますね。どれを選んでいいか分かりません」
「そうね。どれを選んだらいいのかしら?」
二人とも沢山並んでいる寝袋を見て悩んでいるようだった。しばらく放置してみたけれど、ずっと悩んでいて決められないようだ。
「……寝袋は使う時の気温を重視したほうがいい。寝袋の形も気温に合わせて選んだ方がいい」
「そうなの? ユイはその辺詳しい?」
「まぁ、一時期使ってたから……」
「どれがいいか教えてくれますか?」
並べられた寝袋を確認すると、形は前の世界にあったものと同じだった。ここにも前の世界の技術が知れ渡っているのか……でも、これなら私の知識が使える。
「長方形の形は広くなっているから、寝返りが打ちやすい。だけど、口が広いから中に外の空気が入ってしまう。この形は気温が高いところで使われるもの」
「言われてみればそうですね……」
「頭まですっぽり収まる形は足元に行くにつれて細くなっているからあまり寝返りが打てない。でも、口の部分は狭いから外の空気が入らない。だから、気温が低いところでは重宝される」
「そうよね。外の空気が入って来ると寒いもの」
「その両方の形を合わせた物もある。これは寝返りが打ちやすいし、風も入りにくい。だから、どんな場面でも活用できる」
形を説明した後は素材の話しだ。
「この世界にも化学繊維はあるみたいだね。化学繊維を使っているものは汚れや水に強い。価格も他のより安くて、その分中に入っている綿が多くなるから、寝袋自体も大きい作りになっている」
「あ、本当ですね。化学繊維が使われているものは大きい物ばかりです」
「ダウンは軽いのに保温性に優れているんだけど、汚れや水に弱い。化学繊維に比べて値段が高いから、コンパクトなサイズになりがち」
「ほんとだ……化学繊維よりも軽いわ。でも、値段はそれなりにするわね」
「それでこの中からどれを選ぶかなんだけど……私たちが買えるのは二点。化学繊維で両方の形を合わせた物かダウンのコンパクトなサイズか」
値段のことを考えると、私たちが買えるのはこの辺だ。コンパクトな形ならダウンもなんとか買えるけど、それでも値が張る。
「……決めました! 私は化学繊維の方を買います! 体が大きいので、自分の体に合った物を買おうと思ったらダウンは高すぎます」
「私も化学繊維を買うわ。寒かったら着込めばいいんだし、だったら体が自由の方を買うわ」
「ふーん。じゃあ、私はコンパクトなダウンを買おうかな」
「あっ! そこは私たちとお揃いを選ぶんじゃないんですか!?」
「一人だけダウンなんてズルいわ!」
「ふっ……体が小さい特権だよ」
私の小さい体ならコンパクト形で十分だ。だから、お高めのダウンを買う。
それぞれ、気に入った形と色の寝袋と下に敷くマットを選ぶと、今度は薪のコーナーに行く。
「あっ、そういえば食事はどうしようか。今日と明日の昼食は町で食べるとして、夕食と朝食が必要だわ」
「簡単に食べられるものでも買っておきますか?」
「……作らないの?」
「私は料理できないしなー」
「私も料理したことありません! これでも貴族令嬢でしたから!」
二人とも料理ができない? ……しょうがないな。
「簡単な物だったら作れるから、作ろうか?」
「えっ? ユイさん、料理できたんですか!」
「それは凄く助かるわ! ぜひ、お願いできるかしら!」
「……あんまり期待しないで」
料理ができることをいうと二人は驚きつつも嬉しそうな顔をした。まぁ、これくらいは別に問題ない。食事は大事だし、別に仲良くしようと思ってやってあげるわけじゃないし。
ただのパーティーメンバーだから……。
◇
それから私たちはレンタルサイクルに寄った。第三領都までレンタルする自転車を選び、料金を払う。それが終わると二人は自転車が初めてだということで近くで練習することになり、その間に私は食事に必要なものを買いに来た。
まずは食品から。店に入ると、前の世界と酷似した光景が広がっている。入口に籠があり、通路の両側には食品がずらりと並んでいる。食品を買い物するのは初めてだ、失敗しないようにしよう。
籠を持って店内を見て回る。まず、始めにあったのは野菜のコーナー。色んな野菜が並んでいて、どれも新鮮なものばかりだ。目利きはできないから、形と色を見ていい物を選んでいこう。
夕食に作るのはクリームシチューに串焼き。朝食に作るのは、具沢山のサンドイッチにする。そのために野菜コーナーで必要な野菜は……。
見て回るとお目当ての野菜を見つけた。手に取って色や形を確認すると、良かったものを籠に入れていく。他の野菜も一つずつ確認して籠に入れていった。これで必要な野菜は買った。
次に来たのは肉のコーナー。シチューには鶏肉を入れて、串焼きには豚肉を使おう。サンドイッチに入れる燻製肉は売っているかな? そう思ってコーナーを見て見ると、パックに入ってラップに包まれた肉がずらりと並んでいる。
その中から使いきれる分の量が入ったパックを選んで籠に入れる。あっ、ちゃんと燻製肉もあった。鶏と豚があるなどっちにしよう……。よし、豚にしよう。
肉コーナーで肉を入れると、今度は調味料コーナーに来た。塩とコショーを買って……あっ、この世界にもシチューのルーが売っている。だったら、使わない手はないよね。人数分のルーも籠の中に入れる。
それにしても色んな調味料があるんだな……見ていて楽しい。あっ、サンドイッチ用のソースも売ってる。中身は……マヨネーズとケチャップとマスタードに色んな物が入っている。なんとなく、味が想像できる。
よし、このソースを買ってみよう。どんな味になるか楽しみだ。前の世界ではこういうソースは悪くなっていて、使えないものが多かった。気になるものがあっても使えない状況は本当に辛かったな。
それからチーズや卵、水や牛乳を買い、レジに並んだ。ゾンビが蔓延ってからこういうお店での買い物は全品百パーセントオフだったから、会計をするのが新鮮だ。
自分で好きなだけ商品をカートに積むのも楽しかったな。まぁ、使えないものが大半だったから、かなり厳選していたけれど。ちょっと楽しいことはあったけれど、戻ろうとは思わない。
食材の会計が終わると、それを袋詰めして店を出た。あと必要なのは調理用具、食器類、パンだ。全品百パーセントオフじゃないのは悲しいけど、買い物をするのは楽しいな。
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